異世界メモリアル【11周目 エンディング】
めでたく義朝は、また女の子に戻った。
一度性転換してる人を元に戻す際は、効果が早いらしい。
つい1時間前までは完全に男の顔だったが、俺は十分に女の子の顔になったところで躊躇なく唇を奪った。
男のときの顔がちらつかないかと心配だったが、その心配はなかった。
なぜなら、やはり、見た目が男でも、中身は俺の好きな義朝だったからだ。
男になった後も、男だとは思えなかった。好きな女の子が男装している、程度にしか。
とはいえ、それはもともと女性だったからという理由が大きい。だから『TS』がなかったらどうなのか。それは考えてもなんとも言えないのだが、俺はこの11周目においては一番義朝が好きだった。それは間違いない。
10周目より前までは、沙羅さんが一番好きだったり、鞠さんが一番好きだったりしただけだ。
おっと、キスの最中に他の女の子のことを考えるなんて、野暮にもほどがある。
唇と舌に意識を集中しようじゃないか。
長い口吻を堪能し、ゆっくりと顔を離すと彼女はなぜかニヤリと笑った。
「うーん。一度くらい、男同士でしても良かったな?」
「なんでだよ!」
「いや、なんか面白そうだし」
「男の顔のお前相手じゃ、どんな顔したらいいかわかんねーよ」
「それが面白いんじゃないか」
「やだよ!」
「男のままでしてくれなかったら、女になってもやらないって言えば、してたよな~」
「ぐっ……」
そう言われてたら、するしかなかっただろう。やむなし。
「男同士でキスしてるところの写真とかあったら笑えたのに」
「笑えねーよ!」
そんなの、てんせーちゃんからお願いされてもやらないぞ。「おっぱい触らせてあげるから~」とか言われても……いや、それならするしかなかっただろう。やむなし。
「でも、もうちょっと男で――」
うるさいので、物理的に黙らせた。
ったく、俺がどれだけ苦労したと思ってんだ。ラスボスがしりとりバトルだってわかってたら、後10日は早く戻ってきてたんだからな。
可愛い女の子の義朝とできる限りイチャイチャしないと、割に合いませんよ。
なお、再度の性転換はできないらしい。なんでも、身体が薬に慣れてしまって効果がでないとか。
だから安心と同時に……。
「……怒られないかな」
「誰に?」
「ご両親」
「親父か。母さんは喜ぶだろうし」
「そうなの!?」
「ああ……一緒に温泉とか入るの喜ぶし……」
いいなあ、母娘。男はそういうのないね。
「親父は、もう一緒に温泉入れなくなるって、悲しむだろうな」
「親父!? そんなに息子と風呂入りたいの!?」
男はそういうのないと思ってたが、あったらしい。
「先月だけでも三回も行ってるからな。温泉」
「はあ!? 帰宅すらしてなかったんじゃ!?」
「家には帰らなくていいけど、温泉旅行には来いっていうのが家族のルールだから」
「温泉最優先なのかよ!?」
「親父と母さんは、大学の温泉研究会で知り合ったんだ」
「そういう結婚だったのね!?」
「だけど、二人は一緒には温泉に入れないという……悲しき運命」
「うーん。まあ、そうか。ちょっと大げさな気もするが」
「だから男女の双子を身ごもったっていうことを、本当に喜んでいたんだろうな」
なるほど。
息子と娘がいれば、一緒に温泉に入れたと……。
温泉研究会で結ばれた夫婦ゆえの感覚だな。
「そんなわけで、今週の温泉旅行にはお前も来てくれ」
「ええーっ!?」
「そのときに女になったって説明するから」
「えええーっ!?」
温泉旅行に行くのがこんなに憂鬱なことがあるかね。
普通は気兼ねなく、気を休めるために行くところじゃないの?
自分の娘に男になる薬を呑ませるような親父さんと、いったい何を話せばいいのか……。
「お義父さん、義朝と結婚して子供が生まれたら、三人で温泉に入りましょう」
「気に入った! ぜひ結婚しなさい。我が息子よ」
簡単だった。
温泉旅館で会うなり、とりあえず風呂に入ろうと言われたので、今は露天風呂の中だ。
2週間かけて考えたセリフだったが、どうやら成功したらしい。
「息子だといいですね」
「娘だったら?」
「娘だったら……七歳まで一緒に入りましょう」
「……十歳までダメ?」
「十歳は無理でしょ」
「九?」
「……八歳で」
「八歳までだな、約束だぞ」
なんだよこの約束。
娘がいつまで一緒に風呂入ってくれるかなんて、俺にもわかんねーよ。
「正直、義朝に好きな男ができるとは思ってなかった」
突然、声のトーンがマジになったぞ。
「小さな女の子の方が好きなんだと思っていた」
なんかそれは好きらしいですよ。男の義朝もそうでしたよ。
「義朝は今でも男になりたいと思っていると……恋する娘にとんでもないことをしてしまった」
なんか泣いてるみたいです。
「ロトくん。義朝をよろしく頼む」
「はい! とりあえず、家族風呂っていう男女で入れる貸し切りの風呂があるみたいなんで、二人で入ってきます!」
「くっ……わたしとは入ってくれないあそこに……」
そりゃそうだろ。
父娘でもこの歳では風呂には入れないですよ。
しかし、俺は別だぜ。
「よし、ついに水着も着てない義朝に……」
ウキウキと浴衣に着替えていると。
「でた……」
唐突に脳内に流れる、もはや聞き慣れたメロディ。
義朝とのラブラブ混浴イベントを阻止させるためとしか思えないタイミングだな。絶対に許さない。
しかし、これでこの11周目も終わりか。
絶対に許さない気持ちのままだが、エンディングを見逃すわけにはいかない、集中しよう。
最初に見えたのは、俺と義朝の結婚式。
無事に義朝をクリアしたエンディングを迎えたようだ。よかった。
義朝はプロの溺道の選手に……なったりはせず、グラビアアイドルになった。水着が似合うのはもちろん、男心がわかっているかのようなポーズがウケている。
俺はマネージャーだとさ。
義朝はサバサバした男みたいな口調のトークも人気で、ラジオパーソナリティとしても、テレビのバラエティでも活躍。
出産後、ママタレとしても人気になってますます活動の幅が広がる。彼女をプライベートで支えるために俺は専業主夫に。家事や育児を頑張ると。
ハードモードに苦戦した低目のステータスだから、俺は平凡な人生を送ることになるみたいだな。てんせーちゃんとのエンディングとはえらい違いだね。
とはいえ、子供と一緒に義朝の写真集を見たり、義朝のラジオを聞きながら洗濯物をたたむ俺。幸せそうだ。
仕事から帰った義朝は、俺の料理を喜んで食べて、写真集より素敵な笑顔を見せてくれるそうです。いいですねえ。
マッサージをおねだりする義朝に、調子にのって触りすぎて怒られるみたいなイチャイチャ生活をするんだって。いいですねえ! 実体験したいですねえ!
最後に見えたのは、義朝のお義父さんと、11歳の娘と一緒に三人で温泉に入るシーンだった。……入ってくれるんだね……。
俺がプレイしているこの人生は、あくまで恋愛シミュレーションゲームであり、俺の育成シミュレーションゲームではない。ステータスを上げるのは目的ではなく、手段である。それを改めて実感するエンディングだったな。
なんでダイジェストなんだよ、とムカついてたこともあったが、今となっては嬉しいものだった。
ちゃんと攻略した女の子が、どう幸せになったのかわかるのだから。
さて、次もハードモードか……。
星乃さんか、実羽さん。どちらかを攻略することになるだろう。
義朝エンドでした。
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