異世界メモリアル【11周目 第27話】
ずーっとオンラインゲームをやってるだけの日々。
夢のような日々。
そう思っていました。実際にやってみるまでは。
「さすがにキツかった……」
義朝を女の子にする薬の原料となる素材を集める冒険。
その生活も38日目。
それももうすぐ終わりだ。
楽しいっちゃ楽しいが、舞衣がいないし。寂しくて死ぬ。
舞衣と一緒なら、このバイトみたいな暮らしがずっと続くのも悪くないな。
なんて考えてる場合じゃないか、今は早く終わらせないと。
せっかく義朝を女の子にしても、一緒にいられる時間が無くなっちゃうからね。
「まだちゅーもしてないからな……」
キスをしようとしたら、男の義朝の顔がちらつきそうで、未だにできていないのが現実。
情けない話だ。男の顔の義朝でも、唇を重ねられるくらいじゃないと、義朝は俺を好きになってくれないんじゃないだろうか。
そんなふうに思うこともあったが、やっぱり違うだろ。
俺が女の子にする。
そんで、女の子になった義朝にキス。これしかない。
それを夢見るからこそ、このバイトを頑張れたんだ。
最後の素材は、怪鳥の卵。
高い山の頂上にある怪鳥の巣。そこから卵を持ち帰るという、なんともわかりやすいイベントだ。
まず間違いなく怪鳥がボスだろう。
道中はかなり長く、セーブポイントも無い……いや、セーブポイントなんてそもそも無いけど……。
だから万全を期してきた。
武器は二回攻撃となる両手剣。
防具は物理的にも、魔法の防御力も高い特性の鎧。
回避率が上がるシューズに、即死を防ぐ兜。
そして多くの回復薬に、ステータス異常を治す各種アイテム。
「温存、温存……」
ボスに向かうまでの道中も、ザコ敵を倒すのに魔法を使わず、なるべく省エネ。
ゲームなら、端から端まで歩き回って宝箱を探す俺だが、まっすぐに頂上に向かう。
道中でそれほど苦戦してないから、レベルは十分上がってるはず。
もうすぐボス、という雰囲気が漂い始める。BGMが変わったような気がしてくる。
長く細い道を登りきると、そこには大きな巣。
巨大な卵がひとつだけ。
近寄ると、強い風と大きな鳴き声とともに怪鳥がやってきた。
今までとは明らかに違う、本格的なボス。
ピリピリとした、凍てつくような空気。
自分が産んだ大事な卵を取られまいと、死にものぐるいで攻撃してくるだろう。
怪鳥は、ばさーっと翼を広げ、襲いかかってきた!
攻撃はクチバシでつついてくるのか、それとも火を吐くのか!?
「しりとりでしょうぶだ!」
……え?
は、はあ~!?
しりとり……?
「制限時間以内に、このイラストが描かれたパネルを選び、しりとりが続けられなかったら負けだ」
そういうと登場したのは、大きな木の板。
言葉がなく絵だけが描かれたパネルが、いくつも貼ってある。
どこかで見たことがあるような……?
「ああっ!?」
ワギャ○ランドのボスの戦闘じゃねーか!?
あれは普段はアクションゲームだが、ボスとの戦いはアクションじゃない。あのゲームでのボス戦のバトル形式のひとつがこのイラストしりとりだ。
なんで大人向けMMORPGの世界観なのに、ボス戦だけワ○ャンランドなんだよ!?
俺が用意した、武器は? 防具は? 魔法は?
今までの苦労はいったいなんだったんだよ!
「しりとりの、り、からいくぞ」
相手が先行らしい。それはいいけども。
持っている武器の、振り下ろす先に困りますね。
このしりとりのルールは、自分で自由に言葉を言えるわけではなく、ここに出ているイラストを選ぶことしかできない。
「り、り、リンゴ、だな……」
無難にリンゴ。
俺も普通にゴリラのイラストを選ぶ。
「ゴリラ、ときたか……。それじゃあ、ライスだ」
選ばれたのは茶碗に盛られたご飯のイラスト。
俺がリンゴの後にこの絵柄を選んでいた場合、ご飯と読むことになり、当然だが、んがついて俺の負け。
このバトルの面白いところは、イラストは読み方がひとつではないところ。
仮にギで始まる言葉を探してる場合、読み方は「銀シャリ」でいけるわけ。一度使ったイラストはもう使えないので、残すパネルをどうするかも戦略となる。
さて、俺の番でスだな……。
「スイカ、だな」
俺が選んだのはスイカ。ウだったら「ウォーターメロン」で負けかもな。こういうのを残しておいて、敵に選ばせて勝つという方法もある。
ただ読み方は向こうの都合で、こちらができるのはイラストの指定だけ。ウォーターメロンじゃなくて「ウリ」で続けることも可能だろう。
「か、か、それじゃあ……かいぶつ、だな」
怪物で使われてしまったか。モンスターとか、バケモノとか、いろいろな読み方ができるから便利そうなイラストだったが。
ツか……ツねえ。
これでもいいのだろうか。俺は鳥のイラストを選ぶ。
「ツイッターだと!? そうきたか……」
オッケーだったらしい。
鳥、小鳥、バード、スズメくらい使えそうだったが、ツイッターでもイケたか。いいぞ。
「タ、タ、タイガーでどうだ」
トラのイラストだ。
俺はガで始まるものを選ばなければならない。
……これだ。
「ガードレールか……じゃあ、ルーズソックスだ」
怪鳥は、靴下をルーズソックスと読んでくるファインプレー。
だが、よし。
思った通りだ。
これで俺が選ぶのは、「+」とかかれたイラストだ。
「スイスだと!? そうきたか……」
十字架、クロス、ロザリオ……そう読むほうが普通だろうが、十字はスイスの国旗でもある。
そして……。
「くっ、スで始まるものがない……」
さっきスイカは使ってしまった。
スズメで使えそうなイラストも、ツイッターで消費済み。
そしてスイス。逆をやられてたら負けてた。
「負けだ。卵は持っていけ……」
怪鳥は、がっくりと項垂れた。
……しりとりで勝って、卵を手に入れた……。
この生きるか死ぬか、バトル漬けの38日間が、しりとりで終わるとはな……。




