異世界メモリアル【第32話】
「あっ、せんぱーい! 待っててくれたんですねぇ~」
「今来たところだよ」
「そこで売ってるホットコーヒーをほとんど飲みおわってますケド?」
さすが人工知能だ、頭の回転が早い。
何故か家に居ても落ち着かないので、1時間早く待ち合わせ場所に到着。
ゴールデンウイークにしては少し肌寒く、コーヒーを啜っていた。
そう、本日はあいちゃんとの初デートである。
「待ってる間も私のことを考えてたから退屈しなかった、ですね?」
「それはお前から言うことじゃないぞ」
「でも否定はしないんですね、ありがとうございます」
否定したって仕方がないからな。
こいつにしてみたら大概のことは顔に書いてあるのだから。
正直、今来たところだよってセリフ言ってみたかったんだよね。
彼女の私服は比較的スポーティーな格好だった。
白く短い靴下にスニーカー、デニムのスカートに紺のパーカー。
髪も一つに束ねて、動きやすそうだ。
「先輩、こういうときは服装を褒めて良いんですよ?」
うわー。
なんと厚かましいのだろう。
いや、こちらが先手を打てなかったことを反省すべきか。
なんせ初デートなのだから。
「似合ってるし、デートしやすい格好で助かるよ」
「う~ん、もうちょっとえっちな格好の方が良かったとか思ってます?」
「思ってねえよ……」
――ちょっとしか。
あまり俺の目線を分析しないで貰いたいものだ。
「で、今日はどこに連れてっていただけるんです?」
「普通の女子高生が喜ぶであろうデートスポット、遊園地だ」
腕を組んで、うんうんと頷く彼女。
なにせ好みは普通の女子高生らしいからな、この人工知能。
「普通に良いと思います」
「そうかよ」
何の気なしに腕を折り曲げると、すかさず腕を組んでくる。
ちょっ?!
普通の女子高生はもっと奥手なんじゃないか?!
初デートの初っ端から腕組んでくるか?
「ほうほう、ウブな反応ですねえ。あれだけの美少女達と知り合いなのに。デートも何度かしたでしょうに」
――なにやら観察されている。
この行動も反応を見る実験というわけか。
パッと腕を離し、改札に入っていく。
「置いていきますよ~?」
……ったく、自由なやつだな。
ほどなくやってきた電車に乗り、二人で座る。
横並びで座り、特に話すこともなく。
一駅乗ると、乗客が乗ってきた。
「おばあさん、こちらどうぞ~」
見事なまでの席譲りだった。
俺は隣に座ってるあいちゃんにどぎまぎしてたというのに。
おばあちゃんが隣に座って、あいちゃんが立った。
……これどうしたらいいの?
この状況で座ってるのって辛くない?
おじいちゃんに席を譲りたくない?
おばあちゃん、なんで一人なの?
あいちゃんは良いことをしたからか、上機嫌で立っている。
俺が譲れればよかったのに!
人生でこれほど席を譲れなかったことを後悔したことはないね。
座り心地の悪い電車で30分ほど。
俺には長い時間だったが――。
遊園地に着いた。
「チケットは準備してある。お金はいいぞ」
「親戚から貰ったからですか? ふくびきで当たったからですか?」
確かにそういうこと多いな。
主にマンガの出来事だと思うけれど。
女の子がお金を払わなくても、気にしなくていい理由を作ってるのだろう。
「競馬で勝ったからだ」
「ほへ~、意外~」
なんでも解ってしまう人工知能の目を丸くさせるのは楽しい。
「さぁ、遊園地だぜ。デートだぜ? どうする?」
「先輩のエスコートに従いますよ。私、絶叫マシンでもお化け屋敷でもなんでも平気ですし」
なんか……凄く普通の女の子に見える!
ていうか今までで一番普通のデートなんじゃね?
こいつ、本当に自立式人工知能かよ。
ただの超かわいい女子高生にしか見えないぜ。
「あ、食事は無しで。ポップコーンとかソフトクリームすら食べられないので……」
一気に普通じゃなくなった。
デートで何も食べないとかありえな~い。
「飲み物は飲めますよ。お酒もオッケーでーす」
「そうなのか?」
「そのまま排出されますけどね。ドリンクなら味もわかるんですよ?」
なるほどな。
そのまま排出ってことは飲めるのかな。
いやいやいや!
何を考えてるんだ俺は!?
「先輩、なんで今の会話で赤面するんです……?」
理由が本当にわからないからだろう。
純粋な疑問として俺の表情を伺っている。
「気にするな、それより最初にあそこ行こう、あそこ」
「えっ、あそこですか……」
俺は誤魔化すために適当に指を指していた。
落ち着くために、最後のコーヒーを一気に飲む。
「ひょっとして、私の排泄を見たいんですか?」
ブ―――――――――ッ!
コーヒーを全部吹いた。
指の先にあったのは、トイレだった。
「大丈夫ですか?」
「すまん、コーヒーを飲んだからトイレに行きたくてな」
「あぁ、そういうことですか、いいですね、生理現象。どうぞどうぞ」
生理現象があるの、羨ましいのかな?
俺はトイレの洗面所で口の周りについたコーヒーを拭いた。
それにしても、見たいと言えば見せてもらえるのか?
ひょっとして、なんかそこは凄くロボットっぽいとか?
そうだ、そうに違いない。
羨ましがるということは、彼女には、生理現象が無いってことだもんな。
だから排泄するところを見ます? とか言うんだ。
きっと蛇口が付けられるとか、そういうことなんだ。
飲み物をトイレにそのまま捨てるなんて、勿体無いもんね。
ふー。
ハンカチで手を拭きながら戻る。
「どうしました? やっぱり見たいんですか?」
フフフと、いつものようにからかうような表情を見せる。
俺はもう科学への興味に移っていたので、頷いた。
「そうだな、ちょっと見てみたい」
「へっ!?」
「そういうの興味あるし」
「な、な、な……」
どうしたのだろう。
あいちゃんは顔をゆでダコのように赤くしている。
体温無いはずなのにな。
「先輩はえっちどころじゃありませんね……ヘンタイさんです……」
「そうか……? 男の子なら普通なんじゃないか?」
そういうロボットについてるギミックとか、大好きだろ。
男の子はそういうメカのことに興味津々だよな。
「ふ、普通ですかね? ちょっと普通じゃないと思いますけどっ……」
「そうかな?」
そういえば……。
素朴な疑問を思いつく。
「コーヒーとミルクを飲んだら、カフェオレが出てくるの?」
「な、なっ!?」
「飲んでみたいなぁ、カフェオレ」
「――の、飲むッ!? 先輩のバカ! 鬼畜! ド変態~!」
暴言を叫びながら、ものすごいスピードで逃げていく!?
待ってくれ~、まだデートは始まったばかりだ!




