異世界メモリアル【11周目 第18話】
やばいやばい。
何がやばいって、バレンタインチョコが貰えてない。
なんだかんだ、いままでの経験上、二年生のホワイトデーでお返しした相手とエンディングなんですよ。
義朝の親密度はそこまで悪くなかったのに、まさか義理チョコすら無しとは。
俺は星乃さんを、近所の公園に呼び出した。
「星乃さん」
「バレンタインのお礼か!」
「大変申し訳ありませんが、義朝にしか返すつもりはないです」
「もらってないのに! ははは!」
「笑い事じゃないんですよ!」
次のプレイをハードモードにするというエゲツないトレードによって、星乃さんには義朝攻略のサポートをお願いしているわけで。
ちゃんと助けてくれないと困ります。
「チョコ貰えないなんて……どうすりゃいいんだ」
ハードモードまじつらい。
「義朝はほとんど男子だからな! 発想になかったかもな!」
「え?」
「むしろチョコをあげちゃえばよかったのに!」
「は?」
「実際義朝ちゃんは、女子から結構チョコを貰ってるぞ!」
「もっと早く言ってくれよ!?」
義朝にチョコを渡す!?
それこそ発想になかったよ!
くそ、義朝はあまりにも他の女の子と違いがありすぎる。
義朝だから特殊なのか、ハードモードだから特殊なのか判別しずらい。
初めてのハードモードで攻略するには、義朝は向いてなさすぎる……。
なんにせよ、今まで攻略してきた女の子とはちょっと違うと思ったほうが良さそうだ。
「結局、義朝は男として接するのがいいのか、女の子として扱った方がいいのかどっちなんだろう」
見た目以外は男だった義朝と何も変わらない。
だから普段は男友達のように接していたのも事実。
そしてそれが違和感がなく、心地よかったのだが。
攻略するとなると話が違う。なんとなく仲良しではダメなんだ。
「それは、どうだろうな!? ははは!」
……。
や、役に立たねー。
呆れて軽く睨むと、星乃さんはパチンとチャーミングにウインク。こういう仕草がサマになる。
「ひとつ質問をしてやろう!」
質問をしてくれるそうです。やれやれ。
「キミは普段、デートだと意気込んで誘うとき、どんな場所を選んでいる!?」
「んー。相手が好みそうな場所、ですかね」
これはあのゲームで電話でデートに誘うときの基本だ。成功率が違うからな。ジャンク屋とか人を選ぶからね。この世界にはジャンク屋ないけど。
「だから義朝ちゃんの好きな場所を知ろうとしている。それは悪くない、が。男だった頃の義朝だったらどうしていた!?」
男だった頃の義朝?
そもそも二人で出かける気にならないが。
「そうですねえ。ゲーセンとか?」
そりゃゲーム好きだからゲーセンなら行きたいが。
「それはどうしてだ!」
「どうしてって……俺が行きたいってのと……まぁ、イヤじゃないだろうなと思うんで。一緒に遊んで楽しいかなって」
「それだろ!」
ずびしと鼻先を人差し指で突かれた。
「へ? どれ?」
「それだよそれ!」
つんつくつんと鼻を押される。相手が星乃さんだと腹が立たない不思議。もちろん舞衣だとしても腹は立たないが。
「一緒に行ったら楽しそうなところでいいんだよ!」
「おー……」
なるほど?
その発想もなかったな?
「デートを成功させよう、攻略しよう、親密度を上げよう! それってある意味打算的じゃないか!?」
打算的!
確かに。つまりデートは何かの目的のための手段に過ぎないということだ。そう考えてしまっていた。
俺はもともとゲームをプレイするときのスタイルとして、ハイスコアや高難易度をクリアするとか、またはコンプリートしたり、実績解除みたいなことはあまり重要視していない。
ゲームは楽しく、面白く遊びたい。それだけ。
成仏できない女の子たちを救うという、重大な使命を帯びているこの世界においても、そのスタンスを崩すつもりはなかったのに。
ハードモードをプレイさせられ、義朝を攻略することをノルマだと思い込んだせいで、そういう思いは吹っ飛んでいた。
「相手が男なら、目的なんてありゃしない。楽しきゃいい。それはなぜだ!? どうでもいいからか!?」
「……!」
どうでもいいわけではない。それを友達と呼ぶのだろうから。
言われてみれば、むしろピュアな動機ともいえる。
一緒に遊んだほうがお互い楽しいから、一緒に遊ぼうと誘っている行為。
公園で小さな子どもたちが、どちらからともなく誘い合って、男女混ざって走り回っているような。
これは恋愛にも言えるのかも、ということか。
デートは女の子を落とすためのステップじゃない。その女の子と楽しく遊ぶことがデートの本質だと。
もう11周もしているのに、そんなこともわかってなかったのか俺は。
いや、最初はむしろそうだったな。真姫ちゃんに借金してまで虎ビキニ買ってたわ。攻略になんの意味もない。初心忘るべからずか。
「こっちだって、努力して、頑張って、それで攻略して欲しいとは思っているが、つらい思いをして欲しいとは思ってないぞ! 楽しくやれ!」
バシバシと背中を叩いた星乃さんは、子どもたちと遊び始めた。
滑り台をかけ登ったり、ブランコを垂直まで立ち漕ぎしたり。
その姿から、伝わってくる。
わたしは全力で楽しんでるぞと。




