異世界メモリアル【11周目 第7話】
終わってしまった。
夏休みが終わってしまった。
死ぬはずだったのに。
死ねるはずだったのに。
死ぬ確率の高いバイトばかりを選んだはずなのに。
「わざとだよなあ……」
新学期の学校に向かう途中、思わずぼやく。
舞衣は一応俺のオーダーの通りに、死にそうなバイトをチョイスしてくれてはいた。
だが、俺が死ぬと誰かが死ぬとか、誰かが傷つくとか、そういうものばっかりだったので、結局死ぬことは出来なかった。
がむしゃらにバイトしちゃっただけ……無駄に金がたまっただけ……。
どうせ死ぬのに、意味がない。
どういうことなんだか。
舞衣はサポートキャラだから、自殺を防ごうとしているのだろうか……。
「わかんねえなあ……」
授業が。舞衣よりもわかんない。
ガリ勉なのに、授業が全然わからない。
ハードモードつらいなあ……。
実羽さんとの補修くらいしか楽しみがない。
いや、別に補修も意味がないんだけど……死ねるバイトをするためだけに勉強していただけなのだから……。
「義朝は何をやっているんだろうか」
まだ、星乃さんも義朝も出会っていない。
星乃さんは毎回バラバラというか、出会うイベントが全然決まっていないのだが。
基本的に義朝は昔からの親友。いつもなら初日に会う存在。
まともに学校に行けるようになるのに大分時間がかかったし、ヤンキー状態だったし。事情が違うのは間違いないが……。
なんというか、勿体ない。
『TS』を選んだのに、義朝に会わないって、勿体なさすぎる。『巨乳化』にしとけばよかったじゃんという後悔に耐えられない。
「よし、義朝を探そう」
クラスメイトじゃないから、隣のクラスとかを探せばいい……そんな簡単ではない。
ギャルゲーの世界では、ちゃんと出会いイベントの条件を達成しないと会えないので。
義朝の条件はわからないが……基本的に同じ部活に入っちゃえばオッケーだ。
部活はステータスに多大な影響を与えるが、どうせ死ぬのでどうでもいい。
死ぬ前に義朝に会っておきたいだけだ……。
「まずはサッカー部だな」
義朝はサッカー部に所属していることが多い。男であっても、女の子であっても。
グラウンドに探しに行く。
このグラウンドも長い付き合いだ。ストリートファイトしてたのも大分前だな……。
ストリートファイトなんて誰もやっていないだろうなーと思いながら、見渡すと。
「……みんな何をやっているんだ……」
そもそも何をやっているのかさっぱりわからない。
サッカーとか野球とか、そういうよく知っているスポーツを誰もしていなかった。
走ったり飛んだりしているのはわかるけれども……。
トランポリンが何十も敷き詰められた上で跳ねながら、フリスビーのようなものをパスしている。意味不明。
「体育館はどうだろう」
やはりなんだかわからなかった。
音楽にあわせて踊っているからダンスなのかと思ったが、卓球のように点数で対決している。ルールがさっぱりわからない。
ハードモードの影響なのだろうか……。
義朝は見当たらない。出会いイベント前に見つけられるものでもないのだが。
「うーん」
意中の女の子がどの部活に所属しているか。それを教えてくれる役割が義朝なんだよな……。だから義朝の部活がわからない。
舞衣が同級生のパターンなら、舞衣でも教えてくれたかもしれないが……。
運動部だとは思うんだけどなあ。やはり入部前にはわからないのだろうか。
「あっ」
まだ行っていない運動部の活動場所があったな。
見つかるかどうかはともかく、見て損することもないはず。
「お、おお……」
プール。
とりあえず水着は着てるだろうから、来て損することはないと思った。
普通は水泳部の活動場所だ。
水球やシンクロナイズドスイミングという部活動もあると思う。
もしくは飛び込みというパターンだが、この学校は屋内型のプールで高い飛び込み台はない。
だから何をしているのかと思ったら……。
「ふっ!」
「はっ!」
た、闘っている……!
水中で、水着で、闘っていた。
男女も、体格も関係なく。
攻撃は、どうやらなんでもあり……ただし、水中に限るようだ。
つまりパンチやキックのような打撃も有り。しかし水上に出ている顔を攻撃しては駄目……そういうことか。
水中での打撃はあまり有効ではない。
もちろん投げ技ではダメージを与える事はできない。
ではどうなるかというと……
「おりゃー!」
「とりゃー……ごぼごばがばごばごば!」
引っ張り合いだ……足か手を引っ張り、頭を水中に引っ張り込む……。
当然、息ができなくなり、溺れて……
「……」
「勝った!」
水中に沈めた方が勝ち……。
声やタップでのギブアップができないので、水中で動かなくなったら負けというルールのようだ。
な、なんという危険な競技なんだ。
これがファミコンなら友情破壊必死のゲームだ。実はPOWブロックあるんじゃないの?
当然ながら負けた方はぐったりしており、プールサイドは死屍累々。
……これ、うまくやれば死ねるんじゃないのか……?
部活では死ねないと思っていたけど、上手にやれば死ぬぞ?
しかも……。
「ぶくぶくぶく……」
男が溺れている……巨乳に包まれて……。
男女混合競技のため、水着の胸に顔を押しつけられてぐったりというパターンもあるらしい。
いいですね……いい死に方ですね……!
おっぱい溺死。最高の死に方だ。
「入部します!」
俺はこの水中格闘技、溺道をすることにした。




