異世界メモリアル【11周目 第5話】
状態異常の『怪我人』が回復した。普通の『ヤンキー』になった。普通のヤンキーって一体なんだと思うけど、しょうがない。
実羽さんからもらった特攻服を着て、学校に向かう。
「ロト―、夜露死苦!」
「実羽さん、夜露死苦」
朝の挨拶を交わす。
赤い特攻服の実羽さんは、なんか楽しそうだ。周りの目も気にしてないし。ちょっと気にしたほうがいいような気もしますが。
「さぁ、真面目に授業を受けるゼ、オラァ」
「じゃあ、ロト。これ読んでみろ」
「読めるわけねえだろ、ふざけんな、センコー!」
「お前、やる気あるのか!」
「やる気はあるけど、学力がねえんだよコラァ!」
「そうか、じゃあ補修だな」
「上等だよ、勉強教えろや、テメエ!」
「……なんなんだお前」
「俺もそう思ってんだよ、センコー!」
こちとらスクールなデイズのゲームの主人公くらい、選択肢選んでても思い通りにならないんだよ!
あいつ選択肢選んだ後で「でもな……」とか言って全然言うこと聞かねえからね!
でも、面白いんだよなあ……。
まぁ、マコトくんのことはともかく。
補修してくれることは感謝してるっての。
ほんとありがたい。
補修なんて、寅野真姫に出会った時以来だろうか。
今回はそういう期待はできないが。
「補修を担当する実羽映子だ、夜露死苦!」
「実羽さんだったよ、夜露死苦!」
「ボランティア活動だ、夜露死苦!」
「上等だぜ、このアマ!」
出会いはなかったが、これは斬新だ。
なにが斬新って、特攻服を着たレディースの総長みたいな見た目で勉強を教えるのが斬新だ。
教壇に立つ姿が違和感しかない。
「これが1です、夜露死苦!」
「それが1か、むずいぜ、畜生」
「これが2です、夜露死苦!」
「これが2!? ふざけんなコラ!」
「ふざけてないんです、夜露死苦!」
1とか2が難しいのなんなの?
あと俺はしょうがなくこうなってるんだけど、実羽さんの語尾はどうなの?
絶対夜露死苦がついちゃうの?
「にしても、こんなマブイ女が教えてくれて嬉しいぜ~」
「そう? へへ……」
素に戻ったー!
見た目不良なのに、あどけなく笑ってるー!
照れるレディースかわいい~!
「3はこうです、夜露死苦」
「なめてんのかコラァ!?」
1と2の流れ踏まえるだろ普通!
「これが4です。夜露死苦」
「ふざけんじゃねえぞ!?」
ホワイジャパーズピーポーどころじゃねえ!
「5」
「ぶっ殺すぞワレェ!?」
「……」
「ちげーから! マジで実羽さんには感謝してっから! リスペクト半端ねえから! 舎弟上等ッス! 姉さんマジ尊敬ッス!」
ちょっと泣きそうな顔もよかったが、授業は真面目に受けねば。
黙って勉強しよう。
こうして、実羽さんのおかげで数字を理解し。
翌日からも、文字を徐々に覚え。
時計やカレンダーが読めるようになり。
看板や標識を理解することに成功し。
どうにかこうにか生活できるようになるのに、二週間くらいで到達した。
そして、毎日真面目に学校に行っていた俺は、当たり前だが『ヤンキー』ではなくなった。
正直、不安だが……補修は受けたい。
まだ自分で勉強できるレベルにないから……。
勇気を出して、補習室に。
そして、実羽さんが俺を見る。
「……」
ぽとり。
無言でチョークを落とした。
うん。表情でわかる。
がっかりしているというか、幻滅に近いというか、絶望してるかもしれないですね。
「ど、どうしたのロトさん……」
「真面目に勉強していたもので」
「ま、まだ絵本もまともに読めないのに……?」
「そう言われるとツライですね」
俺は『ヤンキー』が回復すると『ガリ勉』になった。『ガリ勉』は過去になったことがある。
牛乳瓶の底のような分厚いぐるぐる眼鏡を強制装着され、髪型も黒髪おかっぱで固定される。
容姿でいえば『ヤンキー』は+50だが、『ガリ勉』は-50なので、一晩にして急降下。
「でもコレで口調はまともになりました」
「んー」
残念そうな実羽さん……。
「実羽さん、マブイですよ」
「ん~」
全然納得してない。
「はぁ~」
ため息つかれちゃったよ。
「ごめんね、実羽さん。やっぱりこんなブサイクは嫌いだよね。イケメンがいいよね」
さすがに申し訳ない。
「いや! いやいや、いや、うん。そんなことない。そんなことはないです」
ぶんぶんぶんと大きく顔を横に振りながら、否定した。
「あの~、あれだから。見た目で? 決めつけるようなことは? ないから。うん」
腕を組んで、今度は縦にぶんぶん顔を振っている。
これは……あれだな。
実羽さんの中で、本音と建前が戦っている!
おそらく……中身がクソなイケメンが嫌いだから、容姿は関係ない。
そう思いたいが、目の前にガリ勉クソダサ野郎のくせにバカがいるから混乱しているんだろう。
あとなんだかんだ『ヤンキー』っぽいのが好きなんじゃないかという予想。そりゃ好みってもんがあるよね、普通は。男だって必ずしも超絶美人が好きってこともない。
自分ではくにおくんに一発で倒されそうな見た目としか思わないが、実羽さんはそれがタイプだった。そうに違いない。
「実羽さん、一生懸命勉強して、自習できるようになったら、頑張ってまた『ヤンキー』になるから」
「え!? いや、んー、あのー」
これで喜ぶのもおかしいな……と思っているのだろう。
「辞書を引きながら教科書が読めるようになるまでは、なんとか教えて下さい」
「あ、うん。ま、真面目でよろしい」
こうして補修が始まった。
もともとあまり学校に来るつもりはなかった。バイトに行けるようになれば。
早く死ねるバイトがしたい。
なろうって「俺TUEEEE」が人気だと思ってましたが、ハードモードで大苦戦になってからの方が感想をいただけていて嬉しい限りです。これからも応援よろしくおねがいします。




