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異世界メモリアル【11周目 第4話】


イケメンに殴られたことで、俺はベッドから動けなくなった。

これがハードモードということだろう。あっさりと状態異常『怪我人』となった。とっくに痛みなんかなく、頬が少し腫れているだけなのに。

この状態では学校に行けないどころか、あらゆる行動がとれない。もちろんトイレや食事はできるが、ステータスが上がるようなことができないという意味だ。

運動能力が上がる筋トレは当然のこと、文系学力が上がるため本を読むことすらできない。

料理もできないし、身だしなみチェックすらできない。怪我と全然関係ないのに。ほんとクソゲー。

せめてベッドにいることになにか価値があればと思うが。

この世界、体力だのストレスだのは数値化されず、単に俺がしんどいだけ。よって休息コマンドは不要。

それだけに本当に何もしないのは、何十年ぶりだろうか。


「死にてーな、マジで」


さっさと死んで、ちゃんと女の子を攻略したい。

こんな意味のない時間を過ごしてどうするんだ。

ステータスが上がらず、親密度も上がらない。アイテムが手に入るわけでもない。

そういう日が続くのは苦痛だ。

運動能力をつけて、まともな知識を手に入れて、確実に死ぬバイトがしたい。

これほど前向きな、ポジティブな意味で死にたがってる自殺志願者はいないんじゃないだろうか。

窓の外は雨。

桜は散っている。

俺も早く花と散りたい。


「お兄ちゃーん! お見舞いだよー!」


お見舞い……?

そんなCGが回収できそうなイベントが?

パジャマ姿で待っていると、俺の部屋のドアは勢いよく開いた。


「ロトさん……いや、ロト! 夜露死苦!」

「あ?」


やってきたのは、実羽さんだった。これは予想内。

なぜなら他に知り合っていないから。

想定外なのは、彼女の格好だ。


「そのカッコは一体?」

「つくったぜ、夜露死苦!」


その服は、いわゆるレディースの特攻服だった。赤い生地に白い文字でなんかゴチャゴチャ書いてある。俺は字が読めないのでよくわかりませんが、きっと初代とか最強とかですかね。


「ロトにもプレゼント、夜露死苦」


なんと俺の特攻服もあるようです。白い布地で黒い文字ですね。

俺がこれを着たら、間違いなく暴走族です。ただし一番下っ端の。


「つーか……なんでんなカッコを?」


俺が言うのも何だけど。

でも俺の『ヤンキー』の状態異常は望んだことではないんで。

そしてこの変な口調も望んだことではないんで。


「ロトを殴ったやつが、あんな身なりしてるやつは殴ってもいいとかなんとか言うから、着てやった」

「おー……気合入ってんな」


こりゃ相当怒ってるな……。

もともと、実羽さんはあのイケメンたちが好きじゃないんだよね。不思議なことに。

そもそも前世で乙女ゲーが好きだったはずなんですが。


「そうしたらあいつらがつきまとわなくなって。ちょうどいい」

「マジか……」


乙女ゲームでイケメンたちが寄ってこないようにレディースの特攻服を着るとかある?

絶対売れないですよね?


「でもよー、部活は? やばくね?」


そう、彼女はボランティアをする部活だ。特攻服では支障があるのでは?


「あいつらと違って見た目でバカにしたりしないから大丈夫」


まだ怒ってるな……。

もともと顔立ちが怖いお姉さまっぽいんだから。

茶髪のロン毛で、スラッとした体型で、目つきがシャープで、眉毛は細くて。

そんな彼女がスッと目を細めて、特攻服のポケットに手を突っ込むと、サマになりすぎでしょ……。


「ロトもそうでしょ? どう思う? このアタシのカッコ」

「似合ってんじゃね? マブイぜ」


というか似合いすぎてると思う……。

ランドセルは似合ってなかったけど、これは似合いすぎ。


「お、おう……」


ぽりぽりと人差し指で頬を掻く仕草も、似合いすぎ。

なんというか、むしろこれが本来の実羽さんなんじゃないかという……。

そういえば、実羽さんは前世では不良だったと言っていた。バイクで事故ったとも。

つまり、これがこの世界に来る前の彼女本来の姿なのか……?

だからこんなに似合ってるってこと?


「ロトも、似合ってるよ。髪型」

「そっか?」


ヤンキーの見た目が好きな女子だったのか……。状態異常を褒められるとか、なんとも不思議な気分だ。


「それに、その怪我も。名誉の負傷ってやつだよね」

「これはそんなカッコいいもんじゃねーよ」


これも状態異常だっての。

俺が本気でかっこ悪いと思ってることを慰めてくれるつもりか、ふっと微笑んだ。


「アタシをマブイって言ってくれたから殴られたんでしょ。嬉しかったし」

「お? おー。そか」


よくわからないが、マジでヤンキーカップルみたいな会話じゃね?

こういうのは少年向けの不良漫画ではよく見ますが、ギャルゲーでは発生しないと思います。

しかし怖いお姉さんが、優しい顔で慰めてくれるのやばいですね……我ながらチョロいと思うけど。

ギャルゲーキャラから程遠いせいか、今までの恋愛経験とまた違う気がするからだろうか。


「んじゃ。怪我治ったら学校で会おうね」

「あー。あんがとな」


学校で会う約束をするヤンキーとレディースってのも変な感じだな。

まぁ、実羽さんはボランティア活動を頑張ってる時点で違和感はマックスだな。

俺も真面目に学校に行くさ。

ちゃんと勉強して、運動して、容姿も磨いて。


努力して、死ぬ。


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