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異世界メモリアル【11周目 第3話】


「なに見てんだこらァ」

「ひぃっ!?」

「あのな、ケンカしたらぜってーテメエの方がつええからな? 勘違いすんなよ?」

「ひいい! ごめんなさい!」


俺のほうが弱いと言っているのに、謝って逃げた。

あれは義朝の友人だったかなんだったか……まあとにかく男だ。攻略上関係ない男には興味ない。

ったく、ちょっと見た目がアレだからってどいつもこいつもビビリやがってよ。

俺はなんとかかんとか登校できるくらいのクソザコだっての。むしろイジメられるまである。

まあいい。

それよりも――


「ウンタラカンタラウンタラカンタラ」


授業を聞いているが、何一つわからない。

本当に日本語なんですかと疑うレベル。実は念仏を唱えていましたと言われても納得。

どのくらいわからないかというと、今がなんの時間なのかわからない。

国語なのか、数学なのか、歴史なのか。それすらわからないくらいわからない。

ではなぜ、そんな意味のない授業に参加してるかというと、もちろんヤンキーの状態異常回復のためだ。

学力が-50されてしまっては、どうあがいてもゼロだ。ゼロということは文字が読めないし、時計も読めないし、カレンダーも読めない。どうやって生きていくんだよ。

いや、死にたいんだけどね。生きるつもりなんかないんだけどね。

死ぬバイトをするためには、それなりの常識ってものが必要なんだ。世知辛い!


「あー、ロト?」

「んだよ、センコー」


俺は「なんですか先生?」と言いたかったのだが、状態異常の影響で口調がこうなる。


「き、君は一体何がしたいのかね」


あまりにも何もわからない授業中に、すこしでも意味のあることをしようと空気椅子で体を鍛えていたら、先生に質問されてしまった。


「あ? 俺? 死にてえ」

「え?」

「死にたいって言ってんだろ、殺すぞ!?」

「うわあああ」


別に先生を殺したいのではないのに。マジで死にたいだけなのに、なんで殺すぞって言っちゃうの。死にたい。

なんとか授業を終えて、放課後に。

せっかく初登校したので、学校をうろつくことに。

うろうろしたところで、真姫ちゃんが胸を揺らして走ってることもないのだが。

『モブヒロイン』を捨ててまで『TS』を手に入れているのだから、義朝には会いたいところだ。

サッカー部にいるだろうか。

しかし、部活か……。


「自殺部ってねえのかなー」

「ひいっ」


ついぼやいたら、また通行人にドン引きされてしまった。

もはやヤンキーを超えてゲキヤバのやつだと思われてしまいそうだな。

まぁ、どうせ死ぬんだ。どうでもいいか。

教室からサッカーのグラウンドに向かう途中で、実羽さんを見つけた。

見つけても、出会いの条件を満たしてないと会話はできないのだが。

例えば、来斗さんなら文系学力がある程度高くないといけないというような。

でも、実羽さんはエンカウントするのにステータスが必要ないっぽいからね。入学式の日に会うことが多いが、今回は今日が登校初日だからな。

実羽さんはよく見るイケメンたちと一緒だ。誠実そうな眼鏡と、スポーツマンって感じの爽やかなやつ。

俺がギャルゲー世界で生きているように、実羽さんは乙女ゲーム世界で生きているためだ。

声をかけよう。隣にイケメンが二人ほどいるけど。


「よう、ねーちゃん」

「え?」

「オレ、ロトってんだ。ヨロシク」


前世の記憶が残っている前提で話をすると攻略できなくなるルールがあるので、俺と実羽さんは自己紹介から始めることになっている。

今回は死ぬ気満々なんで、攻略しませんけど。


「……実羽映子です」

「映子な」


普通に「実羽さんね」って言おうとしたのに。

ヤンキー口調とは……固有名詞すら変わってしまうんですね。


「え、ほんとにロト……さん?」


まぁ、見た目がね。くにおくんに一瞬で殴り倒されるような見た目だからね。「どっくーんときたよー」って言うのが似合う感じだからね。


「ああ、オレ。ロト」

「な、なんで……」


どうしてそんなことに。当然の疑問だった。

茶髪リーゼントのいかにもなヤンキーですからね。

学校に来るのが大変すぎて来れなかったんですよ。


「ガッコー、だりーからよー。そしたらこうなった」


間違ってはいないが、ちょっと意味違くない?


「い、いや、そういうことじゃなくて……」


実羽さんは納得していない様子。そりゃそうだ。

それにしても、久しぶりに舞衣以外の女の子を見たなあ。慌ててるからか、頬も赤らんでて可愛いな。


「映子、マブイな」

「え、ええ?」


マブイって言葉、初めて使いました。しかし意外にも嬉しそう。

正直、実羽さんには似合う言葉だと思う。ロングの茶髪で少しウェーブがかっている髪で、細長くちょっとツリ目の顔は、ヤンキーと付き合っていそうな感じがある。

意外と今の俺とお似合いかもしれないですね。


「なんだ君は。失礼じゃないか」


眼鏡イケメンが突っかかってきた。まぁ、そうだよね。俺だって好きな女子に見るからにヤンキーなやつが声をかけてきたら、守らなきゃってなるよね。


「お前のようなものが、実羽さんに近づくな」


かっちーん。

流石に腹が立つ。俺は見た目がヤンキーなだけで、悪いことしてないっつーの。


「んだてめえ」


初めて言いたい言葉と、口から出た言葉が一致したぜ。


「おっと、こっちを無視しないでよねっと」


スポーツマンイケメンに、いきなり殴られた。


「オレ、は……」


運動能力50のクソザコヤンキーのため、スポーツマンパンチ一発でノックダウンした。

いっそ、このまま死んでしまえばいいのにな……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで頑張ってきたものが無くなっちゃって、こっちまで悲しい… ロト、がんばって。
[良い点] 病弱なのを克服するために[病は気から]っていうしヤンキーの真似をすれば病気を克服できるんじゃないかって発想なんです…つて自己紹介すれば女性の保護欲を刺激てきそうな気もするm
[一言] 人を見かけと言葉遣いだけで判断しないであげてしっかりと自分から名乗ってるのよ
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