異世界メモリアル【10周目 第2話】
「最初びっくりしたよ、普通に来斗さんがいたからさ」
「うむ!」
ここはファミレス。
相手は星乃煌だ。
「混乱しちゃったよホント……リーディング・シュタイナーが発動しちゃったのかなって」
「ははは! ……なにそれ!?」
星乃さんはラボメンじゃなかった。
まぁ、そりゃそうか。
ドリンクバーを取りに行こう。
このファミレスでのおしゃべりも、4回目くらいになるかな。
最初は、そう、10周目がはじまり、1週間ほど過ぎた頃。
俺は星乃さんに会いに行った。
星乃さんが巨乳化しているかが気になって……という理由は内緒だ。
実際のところ、巨乳だった。
ただし、小学生にしては。
属性の『年齢変更』がこうなるとは思わなかった。
星乃さんは飛び級でこの学校に入学してきた天才小学生になっていた。
そりゃあもう、可愛いよ。すっごく。
自信満々な目つき。ふてぶてしい態度。ちっこいくせに結構ある胸を反らして笑う感じ。
そして異常なカリスマ性……これがいわゆる普通の異世界ものだったら、少女ながらに皇帝でもしているような。魅力的ですね!
ただね。
攻略する気がおきなかったね!
さすがに! だって子どもなんだもん! 小学5年生、10歳らしいよ!
小さい体に制服っていいよね! 可愛いよ! でもホント、可愛いだけだよ!
そんな女の子の元へ、カフェオレとメロンソーダを持って戻る。
「そしたら、鞠さんもいるし、沙羅さんもいるしさ」
「久しぶりだったな!」
そんなわけでいつものようににぶっちゃけトークを始めた。
この世界、星乃さんは俺と同じで以前の記憶を持っている。ただし、そのことを話すとその周では攻略できなくなるというルールがある。
だが、俺は星乃さんが子どもにしか見えないこともあり、この10周目の世界のことを話すことにした。
巨乳化……ではなく、年齢変更でもなく。ヒロインモブの件についてだ。
「ブロマイド、もういらないな!」
「そ、そんなことはないよ!」
星乃さんのラジオのノベルティグッズであるブロマイド。攻略したヒロインの顔を見ることが出来るという、俺にとっては宝物だ。
しかし、今は。
普通に生きたヒロインが……以前に攻略した女の子を見ることが出来る。
「でも、次孔さんの声聞いたら泣きそうになったな」
「ふん! 悪かったな、ラジオが律動じゃなくて!」
「そ、そんなこと言ってないよ」
「どうだかな!」
……なんか性格まで幼くなってないか?
単にやきもちやきなのだろうか。まぁ、かわいらしいからいいか。
頭を撫でてみるが「む~」と睨んでいる。
この星乃さんを始めてみたときもびっくりしたが、来斗さんの方が衝撃は大きかった。
来斗さんを攻略してすぐにまた、来斗さんがいたのだから。
入学式の桜舞い散る中、実羽さんか義朝かと思ったら、まさかの来斗さんだよ。
もう二度と会えないと、覚悟を決めてから、あっという間に再会するとは思わないもの。
「ただな……話にはならなかったね」
そして彼女は、記憶が残っていないどころか、俺とまともにコミュニケーションをとることは出来なかった。そう、女教師や保険医のように、NPC状態だったのだ。
挨拶や授業に必要な発言や会話はできるが、それ以上のことはできない。
それで、ヒロインモブの意味がわかった。
いままで出会ったヒロインたちが、モブキャラとして登場する。
そういうことだった。
なお、来斗さんが巨乳化したり、沙羅さんが子どもになったりはしていない。
属性の影響を受けるのは攻略可能な相手であり、モブではないということだ。
「でも、やっぱり嬉しいよ」
「そうか!」
家庭科の授業で、沙羅さんが料理を作っていたり。
テニスコートで、鞠さんが後ろ向きに構えていたり。
理科実験室で、ニコがわけのわからない実験をしていたり。
放送部員の次孔さんが、昼休みの放送をしていたり。
来斗さんがプロレス研究会の練習を見ていたり。
真姫ちゃんが教室で、居残り勉強させられていたり。
てんせーちゃんの描いた絵が、ポスターになっていたり。
アイちゃんはまだ居ないけど、きっと来年入学するのだろう。
「魂は成仏しているんだろうけど、だからあれは本人ではないのかもしれないけど」
それでも。
ビデオカメラで撮った思い出をリビングで見ているようなことかもしれないけど。
ひょっとしたらカートのレースゲームのゴーストみたいなものかもしれないけど。
見えることが、声が聞こえることが、ただそこにいてくれることが。
嬉しくて、嬉しくて、もう……。
「うう……」
「ははは! こいつ泣いてるぞ!」
星乃さんのいじめっ子め……。
だが、この話ができるだけでも嬉しいのよ。
この世界がどうなっているのか、彼女たちは一体どういう存在なのか。
それを教えてくれたのも星乃さんだからね。
内心、わかってくれていると思う。
「どうせ、寅野真姫の胸がもっと大きくなってないか凝視したりしてたんだろ!」
「なってなかったよ」
「ぎゃははは!」
わかってくれている……いや、そういう意味でわかってくれなくていいのだが……。
正直なところ、遅かったと思う。
属性の影響を受ける対象が少なすぎるんだよな。
ラッキースケベにしても、巨乳化にしても、もっと早く手に入れていれば……。




