異世界メモリアル【9周目 第21話】
クリスマスは来斗さん一家と過ごした。
これまでエンディングを迎えて走馬灯的に見ることが多い光景だったが、実体験出来たのは嬉しいことだった。
フライさんの料理は美味しいし。
蛮さんは優しいし。
アップさんは美人だし。
フェザーちゃんは可愛いし。マジで可愛いし。やばい。攻略できないのクソゲーすぎる。
いや、フェザーちゃんのことはいいとして……。
そして、なんといっても述。
幸せそうに笑っているんだよ。
もうね、エンディングです。すでにエンディングです。
スーパーグッドトゥルーエンディングですよ。もちろん。
「でもなー」
なんか寂しい。
寂しいわけがないのに、寂しい。
喪失感というのか、何というのか。
きっとこれが2周目だったら、そんなことは思わなかったのかもしれない。
もう何十年もこの世界に居て、もう何十年も来斗さんと会っている。
その来斗さんが、もうすぐお別れする。
そこで望んでいたこととはいえ、一番の個性である部分が無くなってしまったんだ。
とはいえ。
とはいえですよ。
「レイプレイプ言ってくれ」
なんて言えねー!?
どうかしてるだろとずっと思っていたのに。
俺がどうかしてる側になっちゃうじゃないか。
しかも別にレイプしたいわけじゃないんだよ。当たり前だけど。
でもね、レイプって言わない来斗さんって、なんというか記憶喪失になっちゃったような感じ。
別人になっちゃったような……。
モヤモヤするー!
そんな状況で、スキーデート。
天候は曇りで、頬に当たる風は冷たい。
「あっ、かまくら」
「あー、あれならレ……」
「レ?」
あぶねえ。
レイプできそうだねとか言いそうになった。やばすぎる。
言って欲しくなりすぎて俺が言っちゃうのおかしいだろ。
でも以前の来斗さんだったら言ってたんだって!
「うう……」
リフトで登っている間、俺は苦悩していた。
こんなはずじゃなかった。
せっかく待ち望んだ未来がやってきたのに。
「ロトさん……なんか言いたいことがあるなら言ってください」
心配そうな顔の来斗さん。
何をやっているんだ俺は……。
「レイプ!」
「え?」
「言いたいこと、レイプ!」
「え? え?」
困惑する来斗さん。そりゃそうだ。
「はー。来斗さん、俺は来斗さんが好きだよ」
「はっ!? えっ!? ふあっ!?」
更に大混乱の来斗さん。話の流れがおかしいからね。しょうがないね。
「今の来斗さんはすっごく魅力的だよ。笑顔だし、ポジティブだし。一緒にデートしてたらみんな羨ましそうに見てる」
「そ、そんな」
恥ずかしがる来斗さん。基本的には美少女扱いされてこなかったから慣れていないのだ。
「でも、俺は今の来斗さんだから好きになったわけじゃないんだ……。前から、ずっと前から好きだったんだ。というか、好きだったんだなって気づいたんだ」
「ロトさん……」
「だから、もうホント、変な話なんだけど、レイプレイプ言ってたデートも、今思い出すと楽しかったなって。もう言わなくなって……それがいいことだってわかってるんだけど。でも、なんか寂しいっていうか……」
「ロトさん、そんなふうに……」
ぽろり、と涙が流れる。
やばい、泣かせてしまった。
身勝手な、自分本意な、本当にただのわがままを言って、困らせてしまった。
彼女にとって、レイプっていうのは軽々しいものじゃない。
最近聞いてなかったギャグみたいな扱いをしていいわけじゃないんだよ!
「ごめん、ほんとごめん……」
「いえ……嬉しいんです」
「えっ?」
今度はこっちが困惑する番だった。
「私はずっと楽しいです。ロトさんとのデート。今も、昔も。でも、今は後悔ばっかり」
「へ……」
「前のデートを思い出したら、いっつも死にたくなります。何を見てもレイプレイプ……こんな頭のおかしい女の子を連れていたロトさんに申し訳なくて申し訳なくて……」
「あっ……」
そうか、来斗さんは記憶喪失なんかじゃない。
レイプなんて口走らなくなった今も、ばっちり記憶が残っている。
冷静に、自分がとんでもないことばっかり言っていたことを鮮明に思い出すのだ。
さぞ、中二病時代の黒歴史ノートを読むより辛いことだろう。
「だから上書きするように……あの頃とは違う、ちゃんとした女の子でいようって頑張ってた」
「来斗さん……」
無理してやってくれていたのか……。
そうだよな、人間ってそんなにいきなり変わらないよな。
「あの頃が楽しかったって言ってもらえて……好きだって言ってもらえて……そんなこと言ってもらえるなんて思わなくて……」
「好きだよ。大好きだよ」
号泣している彼女のスキーウェアの背中をさする。
俺が呑気な悩みをしていたとき、来斗さんはこんなガチに悩んでいたとは。
ますます恥ずかしくなる。
「それにしても……ふふっ」
「ん?」
笑顔。かわいい。ほっとする。
「さっき、かまくらを見て、レイプって言いそうになったんですか?」
「あ……うん。前の来斗さんだったら、レイプするのにもってこいですね、とか言うかなって」
「ふふっ……あははっ」
「そんな面白いか?」
さっき深刻な顔で泣いていたのに、今は大笑いしている。
いいことなんだけど、肩透かし感が。
「思ってたんです、私も」
「え? 何を?」
「以前の私だったら、言ってたなーって」
「あ、あ~? 思ってたの?」
「ロトさんも思ってたなんて、あはははは」
「ぷっ。ははっ、ははははは」
それから俺たちは、スキー場を滑りながら、あの山小屋はレイプできそうだの、ゴンドラの中でレイプされてもいいかもだのと言いながらゲラゲラ笑った。
いつの間にかスキー場はキレイに晴れていて、汗をかくくらい暖かくなっていた。
今回が最終回のつもりだったけど、21話として書けてよかったなと。
次回こそエンディングです。




