異世界メモリアル【9周目 第20話】
「デートが楽しいぃ~!」
「ロトさん、人前で叫ばないでください」
「来斗さんがまとも~!」
「失礼ですね」
唇を尖らせる来斗さん。
しかし俺は叫びたいほど、嬉しいのです。
もともとレイプとか言わない来斗さんは魅力的だと思っていたが。
なんというか、明るくなったというか、会話も楽しくなってきたというか。
前髪が目を隠しがちだったが、いまやキラキラした目がまっすぐに俺を見てくる。
クマを見てもパンダを見ても、レイプしてきそうなんて言わない。
プロレスを見に行っても、普通に選手を応援。
何を当たり前のことを、と思うかもしれないが、俺からしたらツンデレより破壊力あるね。
ツンツンしてた女の子がデレるより、レイプレイプ言ってた人がまともになる方がヤバい。
だって普通に手をつないで歩くだけで感動ですから。
これは彼女が家族を手に入れたことが大きい。
もちろん、彼女はみんなに愛されていた。
しかし、彼女は誰も愛してなかった。そして愛されていると思っていなかった。
姉や妹だけをレイプしている父。そんな認識じゃ当たり前だ。
いまや誤解が解けて、父親、母親、姉、妹。みんなと仲良く過ごしているらしい。
「よかったー!」
「ロトさん!」
大声でバンザイすると、来斗さんにたしなめれた。それも幸福なんだよ……。
ツッコミを入れてばかりだった俺が、注意されるなんて……。
「うおー! レイプしてえー!」
「こら! なんてこというの!」
腕を引っ張られる。
あなたは、それをしょっちゅう言っていたのですが?
俺のセリフはもちろん、本心ではなくて、叱られるために言っただけ。
「人前でそういうこと言わないで」
聞いた?
聞きました?
来斗さんが、あの来斗さんがですよ。
人前でレイプなんて言っちゃ駄目だって!
「うう……」
「泣かないで!?」
泣かずにいられないですよ。
そして、泣くとね。
「ほら、泣き止んで」
ちゅっ、と。
頬にキスをしてくれる。
「……」
人前でレイプなんて言うなって言っておきながら、キスはしてくれるとか……。
永遠に泣いて、永遠に慰めてほしい。
「行きましょう」
「うん……」
手をつないで歩き出す。
今日は山に来ている。
ハイキングやライン下りをしながら、紅葉を眺めるという、いわゆる紅葉狩りというやつだ。
ハイキングコースの入り口でいちゃいちゃしていたので、家族連れから冷たい目で見られている。小さな男の子から指をさされたりしている。ちょっとやりすぎましたね。
キャップとジーンズの来斗さんもいいなあ……と思いつつ、二人でゆっくり緩やかな坂道を登っていく。
爽やかな秋風、からりとした晴れた空。健全極まりないデートだ。
それでも……。
「以前の来斗さんなら、この山小屋はレイプしやすそうとか言ってたよね……」
「そうですね。でもロトさんが守ってくれますから、レイプはされません」
「あ、そうだね……」
そう返されるとは……。
「あ、ほら。洞穴あったよ、洞穴。レイプしてもバレなさそうな」
「声をあげたらすぐにロトさんが駆けつけてくれそうですね」
「あ、うん……」
まいったね……。
いや、別にまいらないんだけど。
「ん? 今の声はレイプでは」
「ヤッホーのどこがレイプなんですか。ロトさん、レイプレイプうるさいですよ」
「ご、ごめん……」
ガチで叱られてしまった。
来斗さんはすっかりレイプなんて言わなくなったのに、俺がレイプという言葉に囚われているんだ……なんてこった。
「着きましたよ。お弁当にしましょう」
「うん」
平和だ……。
小春日和で、おだやかで。
こんな日にレイプなんて言葉を口にするなんてどうかしてるよね……。
「どうぞ」
「うまそー!」
お弁当は俵型のおにぎりと、楊枝でつまめる一口サイズのおかずだった。
「あー! 卵焼き美味しいー! たらこ入ってるー!」
マジでうまい! 一度料理の頂点を極めた俺が言うんだから間違いないね!
来斗さんは料理も上手なのかよ、完璧か?
「それママが作ったやつ」
「あ、フライさんが。さすがだね」
なるほど、お母さんでしたか。
あの人も美人で料理上手なのか。蛮さんが羨ましいぜ。
「んー! これも美味いぜ。アスパラ肉巻き、好きなんだよね」
「お姉ちゃんがつくったやつ……」
「へー。アップさんも料理できるんだ」
お姉さんも美人なんだよなー。若いフライさんって感じで。
なんで攻略できないのか不思議だよ。
「こ、これは……!」
不味い!
煮物が不味いって、キツイ!
だが、決して不味いとは言えない!
これを作ったのは……?
「煮物は妹が作りました」
「エッ!? フェザーちゃんが!?」
あの天使のような可愛らしい美少女が俺のために煮物を!?
感動しかない!
「し、しいたけ、里芋、にんじんッ!」
苦い! 臭い! 甘すぎる!
だが、フェザーちゃんが作ったなら残すつもりはナシ!
「なんでそんなうちの妹を……」
愚問ですよ。
あんな可愛い子が煮物作ってくれたとか……。
「うう……」
「泣いてないで、ほら」
「むぐ」
あーんしてもらってしまった。
やっぱり泣くと得だな……。
「んー」
普通!
普通のきゅうりちくわ!
だって、きゅうりちくわはちくわにきゅうりいれるだけだからね!
「私が作ったんだけど、美味しい?」
「美味しいに決まってる!」
だって、こんな綺麗な景色のところで、来斗さんが作って食べさせてくれたんだからね。
「煮物より美味しいよね?」
「うん」
しかも嫉妬してくれてるらしい。
不味いより、普通のほうが美味しいだけだけど。
よかった……普通の来斗さん、最高だ……。
ライン下りでも、普通に紅葉を楽しんだ。
文句は一切ないのだが、なんとなく物足りないというか、寂しい感じがした。
義朝よりロトの方がロリコンなのではないか?
そんな疑惑が生まれた(いまさら)




