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異世界メモリアル【9周目 第19話】

窓の外はたっぷりの雨雲で暗く、天気までもが悲痛に泣いているかのようだった。

そんななか、唯一聖母のように微笑んでいられる彼女は尊敬する。が、やはりそれは悲しいことに思えた。

俺は、ここまでやってきて何ができるのか。何も出来ないのではないかという無力さにさいなまれている。


「うっ……うう」


普段ポーカーフェイスの来斗さんは、下を向いていても号泣しているのがわかるほどだった。

こんなことをもっと子供のときに聞かせるわけにもいかない。めちゃくちゃな嘘だと思ったがいまや、正しいように思える。

どう考えても絶対に許せないと思っていた来斗さんの父親は、この上なく正しい人間だったのだ。

もちろん、他の方法はあったのかもしれないが、これを間違いだと言うことは決して出来ない。

だけど。

このまま黙って帰ることも、もちろん出来ないよな。

こんなとき、必ず正解が一つある選択肢が出ればいいのだが、肝心なときに限って、ギャルゲーの要素がないんだよな……。


「ふー……」


落ち着け。

落ち着いて、ちゃんと考えよう。

俺がここに来た目的を思い出そう。

俺が望んでいる未来を思い描こう。


「よし」


気持ちの入れ替え、完了だ。

俺はレイプが愛だとか、レイプされたいという願望は議論の余地がないと思っていた。

それゆえになんとか、俺がまともなことを言えば普通に納得してもらえると考えていた。

そんな俺があっさり論破されるというのは、実は当たり前なのかもしれない。

先に理解しないと。俺の気持ちを伝えるのは、その後だ。


「確かに……確かにレイプには愛がありました。レイプがなければ、来斗さんは……述さんはこの世に生まれなかったし、とても愛されて生きてきた。だから、レイプされてよかったんだ。そういうことですよね?」


俺のセリフを聞いて、ゆっくりと頷く来斗さんの母。

ここで「わかりました」と言って終わり。そんな選択肢は、三択でも決して選ばない。


「今まで起きたこと。それを否定するつもりはありません。そんな資格がない。ただ、俺のわがまま……いえ、俺の愛も否定されるものではないんじゃないかと思うんです」


フライさんが俺の目を見る。

優しい。優しい眼差しだ。だけど、その優しすぎるところが問題なんだ。


「俺は、来斗さんにも、フライさんにも、レイプされて欲しくありません。二人がいいって言っても、俺がイヤです」

「そう……まぁ、しかたないわね」


俺の考え方も否定しない……そういう返事だった。


「それじゃ、困るんです」

「え?」

「俺は、もう二度とレイプなんてされないと誓って欲しい。そして、俺にも守らせて欲しい。だから、蛮さんのもとに……家族の元に戻って、来斗さんと……述と一緒に暮らしてください」

「えっ……?」


フライさんも驚いたが、述も驚いたようだ。

しかし俺はいたって普通のことしか言ってないと思う。


「蛮さんはフライさんにもうレイプされて欲しくないから、この家に避難させてるんです。本当は一緒に暮らしたいんですよ」

「そ、そんな……」

「それを言ったら過去のことも否定することになる。あのときレイプされたことをまた思い出して辛い思いをしてしまう。それよりは遥かにフライさんのためになる。そう考えてのことです」

「ああ……」


フライさんがつらそうな顔を見せる。

だが、ここは、ここだけは乗り越えて欲しい。


「みんな、本当に愛し合っているんだ。それは俺にはよくわかった。でも、述は、レイプされていないから愛されていないなんて言うようになってしまった。それはこの状況のせいなんです。もう過去のことは過去のこと」


俺は述に近づいて、優しく抱きしめる。

一瞬びくっとしたが、すぐに力を抜いてくれた。


「これからは普通にハグをして愛してることを伝えませんか」

「ロトさん……」

「どう? 伝わってる? 本当に好きだから、これだけでも伝わるはずなんだけど」

「……言葉で言ってる」

「おっと。抱きしめるだけで伝えようとしたのに」

「ふふっ」


来斗さんを笑顔にすることには成功した。

あとは……フライさんだ。


「見せつけてくれるなあ……そっか……そんなことも忘れてたんだ。述……私もハグしていい?」

「うん……」


俺のもとから、母のもとへ。

おずおずと。初めて抱き合う俺たちよりも不器用に、ハグをした。

愛してると伝えようとするハグは、さっきバス停で抱き合っていたのとはまったく違い、なにか神聖な雰囲気すら漂っていた。

来斗さんがレイプ願望を持つようになった背景は、結局のところ愛情不足。この世界での攻略ヒロイン共通のものだ。

きっと来斗さんはさっきのように抱きついたとしても、愛を感じることができなかった。レイプされれば愛されていると実感できると考えた……そういうことなんだろう。


「これでよかったんだ……ただ優しく抱きしめてあげればよかったんだ」

「ママ……ママ」

「愛してる。述。ごめんね」

「ママ……おかあさあああん」

「述……述……!」


俺も来斗さんに出会ってからの年月は、フライさんにも負けてないと思うんだけど。母娘の愛には勝てねえな……。

勝つ必要もないけどさ。

さて、ゲームとしてどうかはさておき。

俺にとっては、もうこのシーンが、来斗述のトゥルーエンドだと、自信を持っていえると思う。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この作品読んでいて良かった と思える話でした えがった とってもえがったよーーー 感謝 [一言] まさかレイプをここまで感動させる話題にするなんて クラウザーさんもビックリ
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