異世界メモリアル【9周目 第16話】
普通に考えたら、スポーツみたいにすぐに優勝が決まるわけがない。
多くの人が小説を書いて、それを選考するのであればかなりの期間がかかる。
しかしお約束というのだろう。あっという間にBUNGEIグランプリ本選の結果が決まる。
俺が大賞、来斗さんが優秀賞となった。
「さすがですね、ロトさん」
「いや、俺は来斗さんの方が面白いと思うけどね」
なぜなら、つまりは来斗さんが書いたのは俺と来斗さんの物語であり、俺への愛にあふれているからです。読んでいると恥ずかしさで死にそうになりますが、嬉しすぎて発狂しそうでした。
「ロトさんの妹への愛も伝わりました」
「あ、うん。はい」
あくまで文芸の話であるが、どうにも居心地が悪かった。
つまり彼女は俺への愛にあふれた作品で、俺は別の女性への愛にあふれた作品を作ってしまったわけで。
いやあの、作品は作品なんで、作者の意見ではないということをですね。
「それより、どこから行こうか」
「そうですね」
スーツケースを持った二人。
はっきりいって、BUNGEIグランプリは攻略にとってあまり重要なイベントではないだろう。
それより、重要だと思うのがこの旅行。
俺たちは夜行列車で二日かけてやってきた。
「来斗さんのお母さん、フライさんの実家……」
「どこにあるのでしょう」
なにせレイプされないように避難させているだけあって、詳しい住所はわからないようにしているらしく、来斗さんのパパである蛮さんも連絡先を知らないということだった。
国とおおまかな地域はわかっているが、あとは探すしかない。
しかも当然、田舎だ。交通の便はすこぶる悪い。
「でも超美人だからすぐに見つかるんじゃないの」
来斗フライさんの写真は手に入った。数年前のものだが、金髪で色白で胸が大きく、目鼻立ちがはっきりしているものの、優しげな表情。
この人を知りませんか、と尋ね回る旅になるってことです。
「よしあのひとに聞いてみよう」
駅だから多くの人がいる。
「すみません」
「はい」
「……」
美人だった。
金髪で色白で胸が大きく、目鼻立ちがはっきりしている。
そうだった、単に見慣れていないだけで、この世界はみんな美男美女しかいなかった。
「あの、この人を知らないですか」
「さあ、知らないわ」
「あ、そうですよね、ありがとうございます」
頭をかきかき戻ってくると、来斗さんがナンパされていた。
「キレイな黒髪だねー、超かわいいじゃん」
「レイプしたいですか?」
「え? レイプ? いやー、まずはお茶でもしたいな」
相手の方がまともだった!
守らないと、彼の方を。
「あ、ごめんなさい。彼女は俺と一緒に旅の途中でして」
「あー、そうなんですか。そうですよね、こんな素敵な女の子だったら、彼氏くらいいますよね」
「いえいえ、いやー、すみません」
「あ、わかりましたー。残念ですけど、仲良くしてくださいねー」
めっちゃいい人だった。
金髪で背が高く、すらっとしていて、爽やかな笑顔。超モテそう。そんな男にナンパされる来斗さん。
ちょっと心配になるが……。
「レイプよりお茶だって。変な人だったね」
変なのはあなたなんですよ。
だから、ここにやってきたんだ。
お母さんと会ってどうなるか。不安ではある。
来斗さんが変わらないという結末ならいい。
怖いのは来斗さんの母親、来斗フライさんが突然レイプされた過去におびえてしまうとか、来斗さんがレイプレイプ言ってるのを聞いて卒倒してしまう方が心配だ。
ただその可能性があったとしても、来斗さんと、フライさんが会って話をして欲しい。
現状を乗り越えて、家族が一緒に過ごせるようになって欲しい。
いや、願望じゃない。
俺が、そういう未来にしてみせる。
フライさんを探すのは大変そうだが、諦めないぜ。
「さて、駅でもう少し聞き込みを……」
「そこのお嬢さん、今お時間ありますか」
「レイプですか?」
「え? いや、違います。綺麗なお嬢さんだと思ったので」
「つまりレイプでは?」
「あー、もう! 来斗さんは俺から離れないで!」
今度はメガネをかけてスーツを着た知的なお兄さんに声をかけられていた。
気づいたらナンパされて、気づいたら相手を困らせている。
来斗さんは押しに弱そうな雰囲気があるので、ナンパされやすいのだ。
だがすぐにレイプレイプ言うためナンパを退けている。悪い虫を避ける方法としては優秀なんだよなあ……。
言わなくなったらよりナンパされてしまうかもしれないな。
「手をつなぎましょう」
「……レイプ?」
「だから違うっていうの!!」
まったく口を開けばすぐレイプだ。
だからここに連れてきたのでしょうがないか……。
その後、駅で情報収集したが成果はなし。
なんの手がかりも得られずに、探しに行く羽目になった。
「どうするか……きっと田舎に住んでるんだろうな」
レイプされないように保護する目的で実家に帰っているわけで。
知らない男が立ち入るような場所では意味がないだろう。
問題は駅からどっち方面なのかだ。
駅はこの町の中心にあり、しらみつぶしにやっていたら夏休みは終わってしまう。
「お母さんの家……きっと山の方」
「山?」
「お母さんから荷物が届いたことがある。手編みのマフラーと一緒に入ってたのは梨だった」
「梨……梨園の近くってことか」
「多分」
「大ヒントだよ、来斗さん」
俺たちはとりあえず山の方に行くバスに乗った。




