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異世界メモリアル【第29話】


あー、イライラする。

理由はもう明白であった。

後輩として入学してきた江井愛えいあいである。

彼女は事あるごとに俺を尋ねてきて、ちょっかいを出してくる。

普通に考えれば、俺のこと好きなんじゃないのと思うところだ。

ところが俺のことを好きになる可能性は2%しかないのである。

そこが、無茶苦茶ムカつく。

しかも他の女の子との関係を崩していく。

なんという厄介なヒロインだ。

憎むべきお邪魔キャラクターだ。

ほんと嫌い。


しかし、あの人工知能のことは妙に気になる。

しかもいっつも嫌なタイミングでやってくるくせに、昨日と今日は顔を見ていないことも気に食わない。

何もかも気に入らない。

なんなんだこの気持ちは。


もうすぐゴールデンウィークだ。

ここでデートしないようでは、この世界に生まれた意味がないだろう。

大好きなチューリップと同じくらい好きだと言ってくれる天使のような実羽さん。

彼女を誘うべきではないのか。

攻略(丶丶)すべきじゃないのか。


そんなことわかってる。

わかってるはずなのに、俺は1年の廊下を歩いている。

はぁ~、これはゲームじゃねえんだよな~。

なんであいつに会いに来てんだ、俺は……。

後頭部を掻きながら、ぐだぐだと歩く。

そして、何やら男子と一緒にいるところを見つけた。


「あれ~、ひょっとして私のこと好きなんですか~?」


あいつ、クラスメートにもそういう事言ってんのか。

そういうのは、俺だけにしとけよ。

人工知能のイケてない実装について腹を立てつつ、廊下でうるさくしている彼女の様子を伺う。

なんとなく階段前の壁に張り付いて死角に入ってしまった。

何故俺は隠れているのだ?


「ゴールデンウィークにデートねえ、どうしようかな~」


げっ!?

あいつデートに誘われてるのかよ!?

どんな物好きだよ。

あいちゃんだよ?

確かに超かわいいし、悪いやつじゃないし、一緒にいるとなんか楽しいし……ってなんでこんな褒めてるんだ俺は。

葛藤しつつも、聞き耳を立てる。


「やっぱり、お断りします」


ふ~っ。

胸を撫で下ろす俺。

何に対して、これだけ安心しているのか。

彼があいちゃんの被害に遭わなくて済んだことをだろうか。


「やっぱり、普通にもっと格好良くて、運動が出来て、勉強もできる人じゃないと無理です」


はああああああ!?

なんだと、コラァ!?

何様のつもりじゃゴルァ!?

そういうのは完全無欠の高嶺の花が言っていいセリフだろうが!

てめえはステータス関係なく登場フラグが立つ、お邪魔キャラなんだろきっと!?

何言ってやがんだ、こんちくしょう。


ビキビキと青筋を立てて憤怒の表情を出している俺を、通行人が何事かと見ている。

ヤバイ、ここでは目立ってしまう。


「そこで何してるんです、先輩?」


見つかった!?

彼女は両手を後ろで組んで、様子を伺うように廊下を歩いてきた。

ニヤニヤと笑いながら、俺の顔を下から覗き込む。


「おやおや、寂しくなって私に会いに来たんですね~。んふふ、それも予測してましたよぉ~」

「んなわけねえだろ、勘違いすんなっ」

「ええ~! 先輩っていつの間にツンデレになったんですか~!? それは予測してませんでしたよ?」

「ツンデレじゃねえ! その、なんとなく来ただけだ」

「うわ~、完璧なツンデレですねー。貴重なデータです。インプットしておこう」

「すんな!」


ハァハァ、心拍数が上昇してしまった。

これは怒りに近い感情であって、決してドキドキしているわけではない。


「それでそれで? デートのお誘いですか?」


口に指先を当てて、にまにまと俺を見る。

なんと腹の立つ表情なのだろうか。

人をおちょくる機能だとしたら完璧過ぎる実装だな。


「そんなんじゃねえけど、誘われてなかったら可哀想だと思ってな」

「うわうわうわ、まだ続くんだ、ツンデレ。でも残念。さっきデートに誘われたとこですよ?」

「断ったんだろ?」

「聞いてたんですね~? んふふ、イケない先輩ですねぇ」


くっそ~、なんなんだコイツ~。

完全に会話のマウントを捕られている。

彼女は強者で、俺が弱者。

からかう方と、からかわれる方。

終始ニヤニヤ笑いが耐えない彼女に対して、俺はずっとタジタジの状況。

気に食わねえ~。

そしてさっき気に食わなかった発言に対して、俺は反論を企てる。


「お前、さっきイケメンでスポーツマンでインテリじゃないと嫌だとか言ってたな」


不機嫌な声なのがわかったのだろう、あいちゃんは目を丸くした。


「えっ? だって普通そうでしょ? 勉強もスポーツも出来て、容姿がいい方がいいじゃないですか? そうじゃない人いるんですか?」


ぐうの音も出ねえ。

そりゃそうだ。

普通はそういうやつがモテる。

さらにいえば、そういう世界だしな。

そうじゃなきゃ、数値で表されるワケもない。


「私、普通の女子高生ですから、好きなタイプも普通なんですよ~」


人差し指を立てて、くるくると回しながら得意げに言う自立歩行型人工知能。

絶対普通じゃないからな、お前。

大体な、頭を撫でるだけではわわ~ってなる方が、ロボ子としてあるべき姿何だよ!

一緒に帰ってるところを見られたら恥ずかしいとか言っていいタイプじゃねえんだよ!

もはやハラワタは煮えくり返っていた。


「でも、先輩とはデートしてあげてもいいですよ?」

「えっ、マジで? どこ行く?」

「フフフ、素直な先輩。当日までにデートプラン考えておいて下さいねっ」


バイバイしてから去っていく小さな背中を見送る。

ついさっきまで怒髪天を突く勢いだったのになぁ。

畜生……なんでこんなにデートが楽しみなんだよ……。



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