異世界メモリアル【9周目 第12話】
三年生になり、部活はいわゆる大会へ。
運動部であれ、文化部であれ、三年生の春から夏が一番盛り上がる。
いままでもさまざまな部活で活躍を求められていた。いろいろな思い出が蘇る。
しかしながら、今回は地味だった。
「BUNGEIグランプリか……」
野球部だったら甲子園に該当するものが、文芸部においてはそれだった。
とはいえ、書いた小説なりエッセイなりを応募するだけ。地味過ぎる。
料理部ですら大人数が集まる大会があったのに。
まぁそういう場所に来斗さんがいるというのも違和感があるか。
なんにせよ、地味だから参加しないという選択肢はない。
「参加するとして、どんな条件なのかな」
鉛筆を鼻に乗せて椅子を揺らす俺に、来斗さんは応募要項を読み上げる。
「予選が5000文字以内で、本選は10万文字以内です」
率直に鉛筆でそれだけ書くの大変だな……という感想だ。パソコンがあれば。
「春に予選を行って、通過したら夏の本選ですが、本選用も書き始めないと間に合わないですね」
「だよね~」
どんな話を書けばいいだろうか。
文系も芸術も数値は高いのだが、結局のところ役に立たない。書く能力はもちろんあるが、面白いかどうかは能力値ではどうにもならないからだ。
陸上部や水泳部のような運動能力が中心のものや、料理のようにそのまんま数値化されているものなら良いのだが。
アイデア、アイデア……例えば、弟を切る草の話とか……かまいさんという名字の人が集まる夜の話とか?
いっそ、昭和の田舎の村でひぐらしが鳴いている話がいいか。
いや、ホラーなんて書ける気がしないな……渋谷という街を舞台に……この世界に渋谷が無いな。
となると伝奇か? 鬼の血を引く主人公と四姉妹の話とか?
過去の英雄を呼び出して聖杯を奪い合うとか?
ゲームしかしてこなかったので、ノベルと言えばこの辺しかわからない。
……なんにしてもパクリだな。駄目だ。
頭を振って、チラシを見ている長い黒髪を見やる。
「来斗さんはどういうの書くか決まってるの?」
以前、男だったときの義朝に聞いたことがある。
ミステリを読むのが好きだが、書くのは伝奇が多いと言っていたな。
「恋愛ものにしようかと」
「そうなの!?」
映画やマンガでもそういうのは読まないという話だったが。
俺も基本的にそのジャンルは選んでいない。
恋愛ものか……最後にゴールしてもいいよねってなるようなイメージしかわかない……。
「レイプは恋愛じゃないよ?」
一応言っておく。
当たり前過ぎることを言っておかないといけない。それが来斗述。
「そうですね。レイプシーンは無しにしておきます」
「よかったよ」
ほんとに良かったよ。
たぶん審査員が腰を抜かしますよ。
しかし、そうか、恋愛小説か……。
考えてみれば、俺は恋愛経験豊富なのだった。
この世界に来るまではゲームしかしていなかったが、もう何人もの女の子と恋愛をしてきたんだよな。
ゲームを元ネタにしてしまったらそれはパクリだが、俺の経験を元ネタにすればそれは俺のオリジナルと言えるだろう。
家に帰って、小説のアイデアを考えることに。
「……みんな可愛かったけどなー」
ベッドに転がって、ブロマイドを見る。
当初目的としていた、攻略しおわった女の子のものは全部手に入れていた。でも舞衣のブロマイドがあるらしいからね。それも手に入れないとね。
「ニコか~」
ニコ・ラテスラ。
初めてグッドエンドを迎えたヒロインだ。
見た目の年齢が変化するので、本当にいろいろな顔を見せてもらった。
ブロマイドでは17歳となっている。それでも小柄だ。キレイな娘だったな~。
「う~ん」
しかし一緒に実験に明け暮れるだけだったな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「あいちゃんか~」
江井愛。
人工知能のヒロインだ。
ムカつく一面が多かったが、可愛かったんだよな~。
ブロマイドはべ~っと舌を出している。らしい写真だな。
「う~ん」
しかしソースコードとにらめっこだからな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「うん、真姫ちゃんね」
寅野真姫。
超巨乳のヒロイン……じゃなかった運動部のヒロインだったな。
おっぱいがおっぱいでおっぱいだったな。駄目だ、思い出すと頭が悪くなる。
ブロマイドは水着。素晴らしい。
「う~ん」
しかし親父とバトルだからな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「鞠さんか」
庵斗和音鞠さん。
天然ボケで運動部に所属していたけど、実は容姿のヒロインだったんだよね。クリアして初めてわかったパターン。
モデルみたいな女優みたいな……金髪美人だった。
ブロマイドはウインクだ。セクシーでビューティフル。
「う~ん」
しかし最終的には親父さんと飲みに行ってばっかりだからな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「次孔さん」
次孔律動。
必ず新聞部に所属する女の子で、リズム天国っていうラジオのパーソナリティでもあった。
ポニーテールの似合う元気で活動的な女の子。
ブロマイドはガッツポーズ。ちょっとドヤってるところがいいね。
「う~ん」
しかし彼女のお母さんとも仲良くなりすぎちゃったからな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「沙羅さん」
望比都沙羅です。
料理部だけど将棋が好きな女の子で、皮肉がきっついのよね。
泣きぼくろがあってうなじもセクシーで、実はけっこうえっちだったんだよな。歴代キスの回数はダントツです。
なんとブロマイドはメイド服。これは最高ですよ。
「う~ん」
しかし基本的には料理ばっかりしていたからな。恋愛小説にはならないな。
次だ次。
「てんせーちゃん」
画領天星……。
芸術的な才能に溢れていて、腐女子的な才能にも溢れていた。
おっきな丸い眼鏡で目もおっきくて、そして胸もおっきかったね。ノリがいいから楽しかったな。最後のねこ耳モードが忘れられない。
ブロマイドはてんせーちゃんだけ四枚もある。
「う~ん」
しかし女装して不良とバトルだったからな。恋愛小説にはならないな。
「まいったな~」
結局どれも使えそうになかった。
恋愛経験があると思っていたが、恋愛小説になるようなストーリーじゃなかったんだよ。所詮クソゲーなんだよ!
「どうしたもんかな~」
結局ブロマイドを見てゴロゴロしていたら、いつの間にか寝ていた。




