異世界メモリアル【9周目 第10話】
2年生の12月。
そろそろ攻略対象を選ぶ時期。
俺はもう、とっくに気持ちは固まっていた。
【ステータス】
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文系学力 780(+605)
理系学力 791(+680) アイテム+10
運動能力 868(+705) アイテム+10
容姿 768(+603) アイテム+10
芸術 777(+612) アイテム+10
料理 699(+534) アイテム+10
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大体同じくらい上がっているが、当然意図的なもの。
攻略に必要なステータスを確実に得るという意味もあるが、上限突破の恩恵を取りにいっている。
今回義朝が女の子になったような事が起きるのであれば、ただ攻略に役立つということでもない。
ゲーマーとして、他の属性が不明のまま終わるのは不満だ。
【親密度】
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来斗述 [主演]
古々路野 義朝 [ちゃんと告白してくれるならアリ]
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実羽さん、星乃さん、そして舞衣はもうここに表示されない。
つまり、攻略対象から外れるような話をしたということ。
絶対に攻略しないとなれば、言っておいた方がお互いのために良い。
もちろん、仲良く円満にすんなりと……いくわけがない。
それぞれいろいろな要求をされている……それでもその方が良いんだ……いいよね……いいだろ……。
「お兄ちゃん」
舞衣はロトおにーちゃんという呼び方をやめている。
別に怒っていないのだが、なんとなく責められているような感覚がしますね。
ロトとしては舞衣以外を攻略するのが正しいはずなんですが、どうも最近攻略して欲しいとアピールをされている気がするんだよね。
「ほんとにいいの?」
……やっぱり自分を攻略して欲しいのだろうか。
「義朝さんのことが可愛いんだよね」
「あ、ああ」
そっちか。
ちょっと安心だ。
「義朝は可愛い」
「うん」
「明るくて元気で、気さくで一緒にいると楽しい」
「うん」
「笑顔が可愛い。動作が可愛い。アホなところも可愛い」
「うん」
ここで舞衣の方が可愛いけど、って言ってよく怒られていたことを思い出す。
思っても、言わなくなったな。これが成長というやつか。
「義朝は可愛いが、つまりは、見慣れていないからだろうなと」
「ん?」
「義朝以外は、俺からするともう何十年も見ているんだよね」
「うん」
「だから可愛さに敏感になりやすいってだけで、正直みんな可愛い。今会ってる女の子たちもそうだし、このプロマイドの女の子たちも」
俺はようやく集まりつつあるプロマイドから一つを見せる。
ニコ・ラテスラ。
俺が最初に攻略した女の子だ。
「可愛いだろ……これは12歳くらいの見た目のときだ」
「ロリコン……」
「え!? なんだって!?」
「声が大きいよお兄ちゃん、ごめんごめん」
ニコは本当に可愛い……。いつまでも見ていられる……。
「ニコと一緒にいるときは本当に楽しかった……見た目の年齢が変わるのも良かった」
「ロ……むぐ」
ぎろりと睨むと黙った。
「惜しいなと思うことがある。それはすぐに攻略してしまったことだ」
「ああ……もったいないと思ってるんだ」
「会いたい……10歳のニコと……水着デートしたい……ソフトクリーム一緒に食べたい……」
「……」
舞衣はなんとも言えない表情だ。
ヤキモチかな?
「そんなわけで義朝をクリアしちゃうのは勿体ない」
「なるほど」
「……というのが理由の一つ」
「うん」
「やっぱり来斗さんを攻略してあげたい。遅すぎたくらいだ」
「うん」
「あと……来斗さんもやっぱり可愛いしな」
ラッキースケベがいまいちラッキーじゃないと思っていた時期もあったが、親密度が上がってくるとそこに恥じらいが出るようになって、一気に魅力が高まった。
来斗さんは黒髪ロングのスレンダー美少女。やや細長い目をした、無表情な女の子だ。
めったに笑わないが、笑うとセクシーに見える。
そして、恥ずかしがったりして顔を赤らめると非常に可愛らしい。
普段はポーカーフェイスなので、そういう顔が新鮮でぐっとくる。
すぐにレイプという言葉を使うのが玉にキズだったが、どうやらそこには深い事情があることもわかっている。
「だから文芸部に?」
「うん……その方がいいかなと」
今更にもほどがあった。
義朝、舞衣、実羽さんと星乃さんの四人が在籍し、キャプテンを俺が、義朝が部長をつとめるサッカー部を辞めるというのは、かなり反対されることだった。
決して同じ部活じゃないと攻略できないというわけでもない。
しかしやっぱり来斗さんを攻略すると決めたら、部活でも一緒にいたい。
別にサッカー部の俺に憧れるような人でもないからね。
「ふーん。楽しい?」
「楽しいよ。来斗さんの作品はよくわからないけど」
来斗さんの書く小説は、ホラーとミステリが混ざっているが、基本的に主人公の女の子がひどい目にあうだけ。どこが面白いのか謎だ。いつもバッドエンド。
「ふーん。さて、じゃあ、今日もマッサージしてもらおうかな」
「へいへい」
俺は舞衣に無限マッサージ券を渡している。
サッカー部をやめて、来斗さん攻略に専念させてくれと、お願いした代償だ。
別に舞衣の体をマッサージするなんて、頼まれれば喜んでやるのだが。
星乃さん、実羽さんにも弱みを握られている。
だとしても攻略しないことを明言し、爆弾が出ない方が安全だからな。
今までもヒロインの家族は厄介な人が多かったが、今回が一番ヤバい予感だよな……。
舞衣の太ももを揉みながら、もうすぐ会うことになりそうな彼女の父親を想像していた。




