異世界メモリアル【9周目 第5話】
そろそろ一年の夏休みに入る。
夏休みどうするか。それはとても重要なことなのだが、俺はそれどころじゃなかった。
「ちくしょう~!」
リビングで思わず声をあげる俺。
びくっとしてこちらを見る妹。いや、妹同然の付き合いをしている幼なじみの舞衣だ。そして、もう長いことずっと連れ添っているパートナー。
「どしたの、ロトお兄ちゃん」
「ごめんごめん。ちょっとうまく行かなくて」
「えっ、うまく行かないことなんてないんじゃないの?」
目を丸くする舞衣。
舞衣は俺に対する評価が高い。
「部活は一年からレギュラーだし」
「まあな」
すでにサッカー部では大活躍している。
ちなみに義朝もレギュラーだ。
俺は部活の効果が倍になるスーパースターを習得しているからできることで、義朝はすごい。
「テストも学年一位だし」
「まあな」
理系も芸術系も簡単だし、時間に余裕があるから文系も勉強出来ている。
勉強が苦手な義朝に勉強を教えてあげなきゃいけないので、頑張っているということもある。
赤点を取ると部活に出れなくなっちゃうと涙目になる義朝、かわいい。
「料理もできちゃうし」
「まあな」
前回は料理をしなかったが、今回はしている。
というのも舞衣と義朝と俺の三人で、交代でお弁当を作ることにしているからだ。
義朝は本当にうまそうに食べるので、つい張り切ってしまう。
「超かっこいいし」
「まあな」
容姿を磨くことをサボったりはしない。
義朝にかっこ悪いところは見せられないしな。
ちょっと髪型をいじるだけでも気づいてくれるので、やりがいがある。
もちろん、俺だって義朝の変化は見逃さないぜ。
「モテモテだし」
「まあな」
色男が効いているのか関係ないのかわからないがモテる。星乃さんも実羽さんも、やたら積極的だ。
義朝は親友のためまさにフレンドリーで、異性としてどうなのか気がかりだが。親密度も「一緒に風呂に入ってもアリ」などとなっており、ますますわからない。とりあえずお風呂は入りたい。
「悩むことなんてないんだよね。だから全然出番がないんだよね……」
肩を落として、大きな胸も落とす舞衣。ん?
「いや、今まさに悩んでる。迷ってる。困ってる。つらい」
「え? そうなの? おっぱい揉む?」
「揉ませてくれるのか!?」
「もちろんだよ~」
リビングのソファーに座る俺に、どうぞと差し出されるおっぱい。
幸せか?
幸せすぎか?
「あ~」
ありがて~。
ありがたすぎる~。
もう悩みなんてどうでも……
「よくなーい!」
「あれれ」
おっぱい揉んでる場合じゃない!
俺は鉛筆をかじりながら、頭をかきむしる。
「完璧なロトお兄ちゃんがそこまで悩むことって一体」
コップの麦茶を飲み干して、俺は情けない答えを言う。
「読まれないんだ」
「へ?」
「ラジオで読まれないんだ、俺のハガキが……」
「あ、あ~。星乃さんのラジオの」
「うん……」
こんなラッキースケベはイヤだ。一見俺が有利そうなお題だったが、全滅。
その後もまったく読まれない。
星乃さんの読むハガキは面白い答えばかりで、ちゃんと実力で選んでいることがわかる。
ここへきてステータスの高さではどうにもならないミニゲームが始まるとは思わなかったぜ。
ラジオのノベルティは一応ステータス補強効果はあるものの、誰かを攻略するにははっきりいって不要だ。
あくまで俺が思い出の女の子に会えなくて寂しい気持ちを紛らわすためのアイテムと言っていい。
だからこそ苦戦しているというか。
「今回のお題ってなんだっけ」
「うん。こんな幼なじみはイヤだ、だね」
難しい。超難しい。
「だって幼なじみがどうであれ、イヤなんてことはないからな」
困ったものだ。
「え、ロトお兄ちゃんは……その、幼なじみのことどう思ってるの」
「んー。かわいい……かわいすぎて困るって感じかな」
「へ、へー」
なにやら嬉しそうにする舞衣。なんでだろう。
「例えば、幼なじみが汚い言葉を使うとか?」
「んー」
仮に、義朝が「おーい、ロトー。一緒にウンコ行こうぜ~」って誘ってきたとする。うん、全然イヤじゃないね。「おー、行こ行こ~。男子便所と女子便所どっちでする?」とか言っちゃうだろうな。
「全然イヤじゃないな」
「へ、へー。まぁ言わないけどね。じゃあじゃあ、小さなときの失敗をいつまでも言ってくるとかは?」
「んー」
仮に、義朝が「ロトって小さな頃、俺と一緒に風呂に入ったときめちゃめちゃ恥ずかしがってたよなー」とかイジってきたとする。うん、全然イヤじゃないね。「今一緒に入ったら、お前だって恥ずかしがると思うぜ」とか言っちゃうだろうな。入ろうぜマジで。
「全然イヤじゃないな」
「へ、へー。まぁ言わないけどね。じゃあじゃあ、他の幼なじみの悪口を言うとか」
「んー」
仮に、義朝が「舞衣ちゃんって、ブスだよな」とか言い出したとする。
「ふっざけんなー! いくら義朝でも舞衣の悪口は絶対に許さん!」
「ふえっ!? ロトお兄ちゃん!?」
「仮に嫉妬みたいなカワイイ理由だとしても許さん」
「幼なじみって私のことじゃなかったんだ」
「舞衣はただの幼なじみじゃない。そんな簡単に言える間柄じゃないよ」
「へ、へー。へへへー」
舞衣はご機嫌になったが、俺はご立腹だ。
更に言えば、ハガキに「他の幼なじみの悪口を言う」なんて書いたって別に読まれない。面白くないから。
「でもさ、もし義朝ちゃんが男だったとしたら?」
「ん!?」
そりゃそうだ、幼なじみが女の子とは誰も言っていない。
そうか、義朝が男だったときのことを思い出せば……大体腹が立つじゃないか。俺の妹をエロい目で見てるとかだよ。イヤですね~。
「おおー、書ける、書けるぜ~。ありがとう舞衣~」
俺のペンを走らせる音はしばらく止まることはなかった。




