異世界メモリアル【第28話】
「あっ、ロトせんぱぁ~い! ってなんで逃げるんですか~~!?」
逃げるに決まってるだろ!
お前がいると他の女の子の見る目がどんどん悪くなっていくんだぞ。
俺は単純に、この人工知能を避けるようになっていた。
「やっぱりここに居ましたか」
しかし、あっさりと見つかってしまう。
昼休みの花壇には他に誰もいない。
俺は花壇なんて来たこともないし、なぜこいつには俺の逃げる先が分かるのか。
「行動予測など、最先端の人工知能にとっては朝飯前ですよ。朝飯食べたこと無いけど」
ふふん、と腰に手を当てて威張るあいちゃん。
こういうわざとらしい反応が、妙に可愛いんだよな。
博士の趣味で作られているらしいが、素晴らしいご趣味だと思う。
毎日髪型が変わったり、髪飾りもいろいろと試されているようだ。
今日はハートのゴム留めを使っている。
高校生にしては少し幼い容姿にバッチリ似合っていた。
「あ、今日の髪型気に入りました?」
そして俺の考えはすぐに見透かされる。
やはり逃げよう。
すると今一番会いたくない人がやって来てしまった。
「ロトさん、どうしたんです? こんなところで」
実羽さんだ。
絶対嫌われたくない相手である。
そしてあいちゃんと一緒にいると、その可能性は非常に高いものになる。
「うっわ~、美人ですね~」
実羽さんに話しかけるあいちゃん。
それは完全に同意だ。
博士の趣味とは異なりそうだが、すらりと長く細い手足でモデルのような体型。
くっきりとした目鼻立ちで、いかにも美人という感じ。
この美人から冷たい目で見られることは避けねばならない。
「そ、それでは俺はこのへんで」
「ちょっと先輩、それは無いんじゃないですか? 逃げるみたいに」
俺が逃げたいのはお前がいるせいなんだけどね!?
こう言われちゃうと他所に行きづらい。
「実羽さんはどうしてここに?」
俺がここに来た理由は言いづらいので、質問を質問で返した。
後輩を巻くため、なんて言ったら好感度が下がるに決まっている。
「私はチューリップが好きなので、たまに見に来るんですよ」
――!
この前、親密度をチェックしたときに見たぞ。
俺のことをチューリップの花くらい好きって書いてあったじゃないか!
やっべぇ~、結構好かれてたのか。
「先輩? なんで顔が赤くなるんです?」
その質問には答えられません。
「そうですかぁ~、チューリップそんなにお好きですか~」
俺がデレデレの声で聞くと、実羽さんは少し不思議な顔をしながらも答えた。
「ええ。好きです」
くっはー。
これ、もう告白されてるようなもんだよ。
だってチューリップくらい好きなんだもん俺のこと。
「先輩? 好きなのは先輩じゃなくてチューリップですが?」
俺の表情については完全に把握できているにも関わらず、全く理解できないのだろう。
こいつ大丈夫か? と言わんばかりに俺の顔を覗き込むあいちゃん。
グフフ、なんとでも思うが良い。
俺は超絶に幸福なのだ。
顔が溶けるんじゃないかと思うほどニヤニヤしてしまう。
「先輩、なんか気持ち悪いです」
「そうですね、なんか気持ち悪いです」
げえっ!?
気持ち悪がられてしまったっ!?
なんてこった。
またしても、あいちゃんと一緒にいたせいで評価を下げる結果に……。
******
「お兄ちゃん、なんで怯えてるの?」
俺は怯えているのか……。
軒並み下がってしまったであろう親密度を見るのが怖いのだ。
「まあいいや、始めるよ」
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 151(+5)
理系学力 137(+6)
運動能力 151(+7)
容姿 155(+3)
芸術 109(+10)
料理 181(+10)
―――――――――――――――――――――――――――――
「バランス良いけどね」
「そうだな」
「……ん?」
あっさりとした俺の反応に、いささかの疑問を持つ舞衣。
正直ステータスなど、今はどうでもいい。
「次は親密度だけど」
「おっ、おうっ……来るなら来い」
「何があったの? そんなに怖いの? 顔真っ青だよ?」
そうか、それほどまでに俺は怯えているのか。
無理もあるまい……。
ステータスが上がる限りは親密度もずっと上がるものだったのだ。
ここへ来て下がるというのが思った以上に堪える。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
実羽 映子 [チューリップの花くらい好き]
望比都沙羅 [なんかムカつく存在]
次孔 律動 [そんなに巨乳がいいのか!?]
寅野 真姫 [まじ仕方ない]
江井 愛 [先輩を好きになる確率2%]
―――――――――――――――――――――――――――――
よかった~、やっぱ実羽さんって天使だったんだ~。
全然下がってないよ~。
……やっぱ良くねえ!
沙羅さんに続いて、次孔さんも真姫ちゃんも明らかに低くなってる!
しかも原因となったあいちゃんもどうかと思う。
あれだけ俺に絡んできておいて2%とはなんだ、2%とは。
前回から少しも変わってないではないか!
「怯えてたかと思ってたら喜んだり悲しんだり怒ったり、お兄ちゃんって表情豊かだねぇ」
落ち着いた表情の舞衣に、冷静に言われてしまった。
俺の心の中のリアクションは顔にも出ていたようである。
「ところで、この次孔さんの親密度は何? どういう事?」
そこ、聞いてきますか!?
俺は慌てながらも弁解する。
「違うんだ、俺はそれほど大きければ良いというわけでもなくて舞衣くらい……」
セリフの途中で、俺はグーで殴られた。




