異世界メモリアル【9周目 第4話】
「よろしく」
「よろしくな!」
え?
なんで?
俺は首を横に45度に曲げた。
俺がサッカー部に入り、義朝と一緒に活躍することを誓った。
そして幼なじみの舞衣がマネージャーになったのだが。
「サッカー部の新人マネージャー、実羽映子です」
「同じく、星乃煌だ!」
俺は首を逆に90度に曲げた。
なんで?
「実羽さんは、ボランティア部では?」
「兼部」
「あ、そうですか……」
ロング茶髪の実羽さんが、ぶっきらぼうな言い方をすると怖さが引き立つ。
まさにマガジン系スポーツモノのマネージャーだな……。
「星乃さんは……生徒会じゃないんですか」
「両立する!」
「はぁ……っていうか星乃さんだったらマネージャーじゃなくて、サッカーやる方が似合ってるんじゃ。キーパーとかどうですか」
「ルールがわからない!」
「そうですか……」
マネージャーはルール知らなくてもいいのかよと思うが。
星乃さんは基本何をやっても出来る人なので、ルールだってすぐに覚えるだろうし、キーパーでもストライカーでもミッドフィルダーのキャプテンでもできそうだが。若林+翼+小次郎って感じ。無敵じゃん。
「で、マネージャーはどうしたらいいの」
「なんでも言ってくれ!」
そう言われてもな。
俺はマネージャーじゃないから何をしているか知らないぞ。
「舞衣に聞いてくれ」
甲斐甲斐しく麦茶を作っている。
舞衣の作った麦茶には、必ず行列が出来る。美味いからではない。みんな舞衣にデレデレだからだ。当然だね。売れ行きがいいので、ずっと麦茶を作っている。
「忙しそうだね」
「そうだな!」
そして二人はまた、俺をじっと見るだけ。
マジでなんなんだろう。
「ロトー!」
「おー、義朝!」
「いえー」
「いえーい」
肘をビシガシさせる俺たち。
このやりとり、毎日少しずつ動作が増えていくのだが、それがまた楽しかったりする。
「お、そのヘアバンド新しいやつ?」
「そうそう。別に髪長くないからいらねーって言ったんだけど親父がさ」
「へー。かわいいじゃん」
「そうか? ならよかったぜ」
笑いあう俺たち。
義朝は話しやすいな。
「おい」
「こら」
「え?」
満面の笑みの義朝と違い、睨みまくっている実羽さんと星乃さん。どしたの。怖いですよ。
「なんでヘアバンド褒めてんの」
「え? 何か? 別に普通じゃない?」
実羽さんはキレる寸前のような雰囲気だ。
意味がわからなすぎる。
「ロト! 我々の格好を見てなんとも思わないのか!」
「へ?」
実羽さんと星乃さんは、サッカー部のユニフォームを着ていた。義朝と同様に。
舞衣はジャージなのにな。
「だから、マネージャーじゃなくて一緒にサッカーするのかなって」
「そういうことじゃない!」「そういうことじゃないでしょ」
同時にツッコまれた。しかしどういうことかわからない。
「う~ん?」
再度首を曲げる俺。なんか今日はずっと首を曲げてないですかね。
「だから~」
「でも絶対こっちから言わないぞ!」
腰に手を当て、わかりやすく不満を口にするお二方。
なんなんだ。マジでわからんぞ。
「おい、ロト」
「ん?」
義朝が、つんつんと肩をつついた後、耳打ちしてきた。
「あのさ、二人はユニフォーム褒められたいんじゃない?」
「え? そうなの?」
「そうだろ~。お前、わかってないな~。女心~」
「マジか~」
「そうだよ~」
「さんきゅ」
「いいって」
ぱんぱんと肩を叩いて、ウインクを交わす。
それから二人の方に向き直って。
「二人とも、そのユニフォーム似合ってるよ。かわいいね」
「「嬉しくねー!!」」
個人的にはバッチリ完璧に褒めたつもりだったのだが、二人とも絶叫するほど嬉しくなかったようだ。なんでだろ。
「お世辞じゃなくて、本心だけど」
「「そういうことじゃなーい!」」
こんなにハモリますかね。
二人のキャラクターは結構異なっていたと思うのですが。
「義朝~」
「うーん。なんでだろうな」
「え~。義朝でもわかんないのかよ~」
「ちょっと、今のやってみてくれよ」
「おう。義朝、ユニフォーム、似合ってるぜ。かわいいぞ」
「お、おー。へへ。嬉しいけどな」
「そうだろ? そうやって照れるところも可愛いな」
「やめろよ~。からかうなって」
「からかってないって。マジで可愛いって」
「そ、そっか? ありがとな」
頬を赤らめて、本当に可愛いやつだな。
「「あー!!」」
それに比べて二人はどうしてしまったのだ。
頭を抱えて空を見上げている。
本当に意味がわからない。
それにしてもなんでこんなに息がピッタリなんですかね。
「あのさ~」
「どうしたの、実羽さん」
不機嫌極まりないものの、普通に話をしてくれるだけでありがたい。
「なんでそんなに義朝くんと仲良いの」
「え? 親友だしな」
義朝に「なぁ?」と目線をやると、投げキッスで返してくれた。お茶目なやつだな。
「だから、そのイチャイチャっぷりは一体なんなんだ!」
激昂する星乃さん。
「なんで義朝くんなのよ……」
髪をかきむしる実羽さん。
よくわからないが……。
「おーい! ロトー、ランニング始まるぞー!」
「おー! ごめん、練習始まるから、行ってくるね」
俺はサッカー部の練習を開始した。
「しっかし、相変わらずランニングのときの義朝の胸は揺れてるなー」
「見るなって言ってんだろ、このスケベ!」
「見ちゃうんだって~」
「んも~、マジで変態だよな~」
「しょうがないんだって~」
いつもどおり、楽しい部活だった。




