異世界メモリアル【8周目 第24話】
「天星、キミの両親はがっつりセックスをしている!」
などと言えるはずもなく。
彼女の間違った認識をどうしたらいいのか、わからないまま時は過ぎ。
合宿が終わり、もうすぐ夏休みも終了する。
そんな状況で俺達……いや、あたしたちは。
「やはー」
「ん。やはー」
浴衣デートをしていた。
彼女は浴衣で。
あたしも浴衣だ。
え?
誰だって?
あたしだよ、あたし。ロト子。
ほら、今は気持ちが女の子だから。
ただの女装ではなく、女の子のつもりだから。
それが天星のリクエストなので。
ペルソナっちゃあペルソナかな。
天星は、男と女ではなく、女の子同士でのデートをお望みだ。
なんでかはわからないが……いや、ちょっとわからなくもない。
とりあえず、あたしとしてはキャピキャピの女子デートを楽しむことにする。
「やば、てんせーってばめっちゃ浴衣似合うねー? かわいすぎなんだけど」
「あんがとー! ってかロト子の方がヤバい。まじマブいんだけど」
「やば、てんせーってばなんでそんな言葉遣いなん? ギャルっぽくね? やばくね?」
「やばいのはロト子だから。見た目全然ギャルじゃないのになんでギャルっぽくしてんの? ギャル好きなの?」
「んー。なんかー? こういうほうがー? やりやすい的な?」
「フーン。ならいっけどー」
思ったとおりだ。
あたしがギャルっぽくしたら、てんせーちゃんもギャルっぽくなった。
もともとてんせーちゃんの態度は、なーんとなくオタクっぽい雰囲気で話しているだけ。
いつも一度普通に話そうとしたことを、ちょっとオタクっぽく言っておくかとアレンジしている。そんな台詞回しだった。
そしててんせーちゃんのノリの良さは、それこそ天性のものがあり、こちらの提示した設定はすぐに受け入れる。
正直あたしは女装慣れしているとはいえ、普通の女の子っぽく振る舞ったうえで、てんせーちゃんが普段どおりだったらすぐにボロが出るだろう。
その点、ギャル同士のデートってことにするなら楽だ。恥ずかしさも薄まる。
決めポーズやキメ台詞も、コスプレしていたら堂々とできるように、ギャルになりきれば女装も堂々とできるというわけだ。
これなら女の子同士での浴衣で夏祭りデートもうまくいきそうだな。
問題は……
「ねえねえ、そこの二人、俺らと一緒に回らねー?」
「チョコバナナおごっちゃうぜ~」
「ついでに俺のチョコバナナも食べて欲しいわ~」
「ぎゃはははは!」
超絶軽いノリの男からナンパされることだろうか。
ギャルって大変だな!
なんというか派手な髪型と髪色で、じゃらじゃらとピアスやらなんやらアクセサリーをいっぱい身にまとったわっかりやすい奴らだ。二人組だが、どっちがどっちかわからない。個性とは一体なんなんでしょうね。
「え? それあーしらに言ってるの? 嬉しいなー。お猿さんからバナナおごってもらえるとか光栄だし」
あまりに鮮やかな切り返しにあたしは目をむいた。いくらなんでもてんせーちゃんはノリが良すぎる。
え? 本当はギャルなの?
それとも、こういう役を演劇でやったことがあるの?
あるいは、こういうシーンを漫画で描いたことがあるとか?
全部ありえるところが天星だよなあ……。
「は? ブスな方がなんか言ってるな」
「まじ、お前はこっちの美人のおまけだっつーの」
「メガネザルさんにはチョコバナナあげるからどっかいってていーよ?」
「ぎゃはははは!」
そしてこの輩共は調子に乗りすぎた。
確かにあたしは可愛いけど、こいつはちょっと許せないな。
「あ? 俺の女になに言ってくれてんだ」
「……は? その声、おまえ、まさか男なの?」
「どう見ても男だろ」
「いや、どう見ても美少女だろ……マジかよ」
「これもう詐欺だろ」
「だな。詐欺罪で現行犯逮捕だろ」
「口に無理やり俺のチョコバナナツッコんでやるよ!」
輩が言うなりバトルのBGMがかかる!
アレ!?
バトル始まるの!?
あんまりこの世界でこういうの起きないのに、女装したときに限っておきます!?
「このオカマ野郎が!」
大ぶりに殴りかかってくる男。
意外と動きは悪くない。
もし芸術だけステータスを向上させていたら、あっさり倒されていたかもしれない。
しかも、こっちは可愛い浴衣姿だ。
あまり脚を動かすことができないし、返り血で汚したくないし。
ハンデはあるが、この程度のやつに負けるわけにはいかない。
あたしは必要最低限の動きで攻撃を躱し、手のひらで顎をかちあげる。掌底だ。
手首をつかんで、地面に叩きつけ、みぞおちに膝を落とす。
「ぐへえ!」
あっけない。
こちとら何のバトルスキルも持っていないというのに……。格ゲーはいっぱいやったけど。
格ゲーでは、浴衣の裾がめくれないように気をつけて戦う女装男子なんていないしな。当たり前だが。
まぁ運動能力は高いし、真姫ちゃんをクリアしたときに修行してるから余裕だった。
「おい、大丈夫か」
片方がぶっ倒れたやつの肩を抱えて立ち上がる。
こっちも殴りかかってくるほど馬鹿ではなかったようだ。
ゲームなら二人ともぶっ倒しても問題無さそうだが、現実問題動けない男が二人倒れてる状態で放置はできまい。
「覚えとけよ……」
情けなさすぎる捨て台詞を残し、逃げていった。
俺……いや、あたしは天星に被害が及んでいないことを確認する。
「あいつら、ダサかったねー」
「……だね! ってか超ロト子強くね?」
相変わらずのノリの良さで、普通にデートは再開されたが。
一瞬でも、俺の女という言い方をしてしまったことを後悔していた。
天星ちゃんが現段階で俺の女という言い方をしていい存在じゃないことももちろんだが。
ロト子じゃない一面を見せてしまったことの方が、気分が重かった。
女の子同士でデートをするということを、おままごとのように軽んじてしまったように思えて。
焼きそばを食べながら、打ち上げ花火を見上げているとき、天星の表情は大輪の花のようだったが。
線香花火のような、儚さも感じた。




