異世界メモリアル【8周目 第20話】
「あなただったのか……」
俺は夏休みに入ってからずっと探偵もののアドベンチャーゲームよろしく、天星の両親を探していた。
そしてようやく見つけた相手は、知っている人だった。
デートはいつも天星ではなく、てんせーちゃん。つまり彼女の濃いキャラクターとだけデートしている。
彼女がペルソナをつけていると明言したあの日からてんせーちゃんはよりキャラクターを強め、ラッキースケベの発動など必要ないんじゃないかと思えるくらいにサービスしてくれる。
「ちょっと胸が重いので、片方持って欲しいです」などと言われるデートの日々だ。はっきりいって幸せです。
てんせーちゃんはこういうやり取りが天然ではなく作られたキャラだとわかっていても、いやわかっているからこそ愛らしいところがある。
ちょっとえっちだけど、いやらしくはないんだよね。
これが来斗さんだったら、こっちが引いてしまう。そもそも重たくないだろ、というツッコミは無しとして。
で、優しい俺は片方と言わずに両方持ってあげたりして。
「わぁ優しい」なんて言われちゃったりして。
「いくらでも持ってあげるよ。お尻も持とうか?」なんて言っちゃたりして。
「お尻は重たくないんだけど~、ちょっと持ってみちゃう?」なんて言ってきたりしちゃったりして。
「確かに重たくないねー」とか言いながら撫でちゃったりして。
そんなやり取りをしているのが最高に楽しい。
こんな毎日が永遠に続けばいいと思う。
しかしそれは完全に孔明の罠。ぬるま湯に浸かっていると思っていたらジワジワとお湯の温度が上がって、茹でガエルの出来上がりというわけだ。
ステータスを上げて、いちゃいちゃデートさえしていればハッピーエンドになるとは今更思わない。
彼女へどうこうしていても埒があかないと判断した俺は、探偵になったということだ。「たばこをすう」のコマンドが使えないから見つからないかと思ったぜ。
もう、20年も前になるか。
彼女に初めて出会ったのは。
「あ、新しいバイトくん? じゃ、さっそくだけどお尻見せて」
「相変わらずですねえ!?」
「相変わらず……?」
「あ、いや、今回ははじめましてですね」
「え? キミってなんかヤバい人?」
あんたにだけは言われたくないよ!
彼女は……BL漫画家。1周目の世界でバイトとしてアシスタントをさせてもらった先生だ。
芸術のステータスが上がるバイトをよろしく、と舞衣に頼んだら紹介してくれたんだよな。
エロく誘うようにお尻を出せだの、一生懸命描いたキャラをブスだの散々なことを言ってくれたぜ。
あの人がてんせーちゃんの母親か……納得しかねえ!
しっくりくるにも程がある!
そうかそうか、なるほどね……。
「いや、実はですね、娘さんのことをよく知ってまして」
「あー、てんせーちゃんの」
親もてんせーちゃんって呼ぶのね。
いや、この人が名付け親なのかもしれん。納得しかねえ。
「それで聞きたいことが」
「まぁ、それは後にして。締め切りヤバいから」
「あ、はい」
どんだけヤバいんだよ、と聞きたくなるくらいヤバい目つきだった。
こりゃ今は聞ける雰囲気じゃない。
「早く尻を出して!」
「はい!」
「おっ、いいね。エロいね」
一度経験しているからね。
しかしそれがエロい尻の出し方とは。こんな異世界行ったら本気出すがあるかよ。
「あとここにモブ描いて」
「はいはい」
「おっ、いい感じのブスだね」
一度経験しているからね。
写真部として活動していても、芸術パラメータがあるから上手に描けるわけだが。
基本的にこの作品では美しいのはすべて男であり、女性はみんなブスなのだ。先生が描くより俺のほうがよりブスになっていいらしい。
あのときは一生懸命可愛く描こうとしてのブスだが、今はあえてブスを描いている。なんだろう、この成長のむなしさ。
「この調子なら二徹くらいで終わりそう~」
「……あ、はい」
俺もしんどいバイトは散々やってきたからね。雪山とかほんと辛い。でも、その中でも漫画のアシスタントはしんどい方なのってどうなんですかね。
しかも芸術はどうせカンストするんで、ステータスアップの効果もあまり意味がないし。
結局女装メイドカフェが一番だと思う。っていうか女装したい。
作業も順調そうだし、そろそろ聞けるだろうか。
「てんせーちゃんのことって……」
「そんなことより料理作ってくれない? まともなもの全然食べてないのよね」
今回の俺は料理が上手じゃないんだが……。
まぁ、美食を求めているのではないだろう。
「こんなんでいいですかね」
俺が作ったのは、ホットサンドイッチ。
食パンの間にチーズとベーコン、それにピザソースを塗ってホットサンドメーカーで焼いただけ。
それとカフェオレという、朝食のようなものだが……。
「最高じゃん!」
大絶賛だった。
完全に俺の目論見通り。
要するにこういうときはあったかくて、栄養があって、食べやすいということが重要なんだ。
ここで一時間かけて食べるフレンチとワインなんて出してもしょうがない。
「あんた出来るわね」
「どうも」
これで点数が稼げたか。
てんせーちゃんのことを聞くことが出来るか……。
「うちの旦那も手伝ってあげてくれない?」
「え」
てんせーちゃんのパパ?
いつかは会うと思っていたし、ちょうどいいのかもしれない。
この人に聞くよりは、そちらのほうが期待できるか。




