異世界メモリアル【8周目 第17話】
みんなが望んでいるとおり、今回は義朝を攻略することにした。
なんてな!?
嘘だよ!
しないよ!
いくら舞衣のお願いだとしても断りますよ。
正直なところ、てんせーちゃんを攻略しようと思っていた。割と最初から。
理由はブロマイドを持っているから、他の女の子よりは別れても寂しくないというのがひとつ。
だから写真部に入ったわけで。
しかし現状では別に他の娘を狙っても多分いけると思う。おそらく。
ただ、星乃さんは今年で卒業してしまうので、攻略できない可能性もある。この8周目に置いては、星乃さんの経験値が低すぎたので攻略するのはちょっと悪い気がしているし。
そして実羽さんは、ラッキースケベの発動回数が凄く多いので、次も期待できるから攻略するのはもったいないと思っている。最低な理由ですね?
よって来斗さんかてんせーちゃんの二択となると……やっぱり今回はてんせーちゃんがいいだろう……。
来斗さんはやっぱり気合が必要だ……。
じゃあなんで悩んでいるのかというと、ラジオが無くなること。
次孔さんのラジオがなくなったのは本当に辛く、それでも耐えられたのはてんせーちゃんのラジオがあったからだ。
それすら無くなったら……。
もちろん、代わりにまた始まるかもしれないが、来斗さんのラジオなんて始まったところですぐに放送中止になると思うし……。むしろ放送事故になるかもしれないし……。
「どうしたの、ロトおにーちゃん。なんか悩んでるの?」
「いや……」
まさか来斗さんのラジオを妄想して勝手に心配しているとは言えない。
そんなことで悩んでいる場合ではないんだ。
「てんせーちゃんを攻略しようかと思ってる」
「う、うん。頑張ってね」
ちょっとだけ残念な顔をするところを見ると、実は攻略されたかったのかと思ってしまう。
そんなわけないか。サポーターなんだしな。
ラッキースケベだって起きないしな。
舞衣にラッキースケベが起きてもいいと思うんだけどな。
なんで起きないのかな。
正直なところ、それが一番の悩みなんだけど。
一度だけふにょんってさせてもらったけど。あれはよかったですね……。
「ロトおにーちゃん?」
おっと何を考えているか見透かされているかのように、睨まれてしまった。
ま、顔に出ていたのだろう。
「んもう……運に頼っちゃ駄目だよ」
堂々とエッチなことをしてこいということらしい。
そんなわけないか。
悩みというのは、もちろんてんせーちゃんのこと。
てんせーちゃんの両親のことだ。
センシティブすぎるんだよな。
はっきりいって、来斗さんの父親みたいに明らかにどうかしている方がやりやすい。
両親が同性愛者である。
それが駄目なのか。
もちろん問題はない。
てんせーちゃんは養子だ。
当然問題はない。
しかし前提として、てんせーちゃんは愛を知らないはずなわけで。
ならばどこかに問題があるはず。
それがよくわからないので、攻略の仕方が見えないのだ。
「てんせーちゃんを攻略するってことは、クリスマスもてんせーちゃんとデート?」
「クリスマスは両親と過ごすんだってさ」
「年末年始は?」
「同人誌即売会で忙しいってさ」
ますます、とらえどころがない。
てんせーちゃんには一切不幸な要素がないのです。
「じゃあ、来斗さんとか他の女の子とデートするの?」
「いや、クリスマスと年末年始は俺も家族と過ごすことにしたよ」
「え?」
「あれっ、ひょっとして舞衣は用事があるの? まさかデートじゃないだろうな」
「ち、違うよ。ほら、だって舞衣は幼なじみであって、家族じゃないから」
「あー」
そう言えばそうだった。
この8周目では舞衣は妹ではないのだった。
確かに同じ歳ということで一緒に学校に行ってるわけだが、それでも他に違いはないわけで。
「俺にとっては家族……というか、家族よりも大切な人だと思ってるから」
「ロ、ロトおにーちゃん……」
ぽわぽわぽわ……とハートマークがいっぱい出ているかのような舞衣。
おっと、今ならエッチなことをしても許されるかもしれないですね。
「むー」
胸を隠すように露骨に警戒する舞衣。
俺は何もしてないのに、セクハラをしたような気持ちになりますね?
たまにならセクハラしてもいいと言われてるからこれは合意です。
「まぁ、でもそうだよな。妹みたいに思ってたけど妹じゃないし。クリスマスはデートしようか」
「えっ」
再度ぽわぽわぽわとする舞衣。マジでカワイイな。
「どこ行きたい?」
「え、えっと……どこでも……」
うーん。
可愛すぎる。
やはり舞衣を攻略したほうがいいのでは?
そうだよ、妹じゃなくなったっていうのはつまりそういうことなのでは?
……はっ? え? そういうこと!?
なんてな。
いや、本当は気づいていたが、怖いのです。
もし、舞衣を攻略して、普通に次の周が始まって、そのとき一人ぼっちだったとしたら。
少しでもそれを考えてしまったら、俺は恐怖で何もできなくなる。
正直なところ、舞衣が妹ではなかったことも、手放しで喜ぶことはできなかった。
はっきりいって怖い。
変化が。
変わってしまうことが怖い。
実羽さんと星乃さんは、この世界を知る特別な人だ。
他の女の子と違って、何かが起きるかもしれない。
そう思うと、やっぱり来斗さんかてんせーちゃんに絞ってしまう。
他の理由なんか言い訳に過ぎない。
ラッキースケベが起きようが起きまいが、そんなことはどうでもいいんだ。
何か思いがけないことが起きてしまうことが怖くて仕方がないんだ。
要するに俺は、この世界が、もうとっくに好きになっていて。
次の周が当たり前のようにやってきて、そこに舞衣がいる。
サポーターとして応援してくれて、一緒の家に住んで、おにーちゃんと呼んでくれる。
そうでないという可能性を少しでも考えたくないんだ。
世界の設定が変化してしまうことを恐れている。
次の周が始まらないことを、始まっても何かが変わってしまっていることを恐れている。
ただ単に勇気のない男。それがロトだ。
決して勇者などではない。
「……ロトおにーちゃん。やっぱり舞衣が選ぶよ、デート先は」
「それがいい」
攻略する相手でもない、舞衣と。
ただ仲良くクリスマスを過ごす。
そんなことこそが幸せなんだと、俺は気づいてしまっていた。
そして攻略対象を、消去法で選んでしまっていることに、気づいてしまっていた。




