異世界メモリアル【8周目 第9話】
結論から言うと、マイクロビキニは買えなかった。
なぜならば。
「おにーちゃん、ありがとう。一緒に海に行くための水着を買うためにバイトしてくれて」
……つまり、もしマイクロビキニを買った場合。
海にいるやつらに舞衣のマイクロビキニを見られてしまう。
下手したら、義朝に見つかるかもしれない。
それはマズイ。
もし義朝が舞衣のマイクロビキニを見ることになってしまったら、俺が殺人の罪を犯してしまう。
「どうかな」
「うおおおおお!!!!」
普通に可愛いフリルの付いたピンク色のビキニを買ったのだが。
可愛すぎる……。
ツインテールにしてるところもポイントが高い……。
「シャッターチャンスだ!」
今ほど写真部に入っていてよかったと思ったこともない。
「ぴーす」
舞衣もノリノリでいくつかポーズを取ってくれる。
よくやった、俺。
不思議なダンジョンで何度も死んだかいがあったというものだ。
「しかし、ついに。ついに舞衣とデートできるとはな」
「おにーちゃん、泣いているの……?」
「すまん。嬉しすぎて涙が」
「ふひひ。そっか、そんなに嬉しいんだ」
舞衣とのデートは悲願であった。
これはきっと6人ものヒロインとのエンディングを向かえて、成仏させたから得られた報酬に違いない。
ただ、ひとつだけ疑問がある。
なぜ舞衣だけはラッキースケベが起きないのかということだ。
やっぱりサポーターという役割だから別なのかな。
ま、いっか。
だってラッキースケベに頼らずとも、セクハラしていいと言われているのだから。
「焼きそば買ってくるね~」
「お、おう。ありがと」
「ラムネも買っておいたから」
「お、うん。さんきゅ」
「浮き輪借りて、ぷかぷか浮かぼっか」
「ん。いいね、ナイスアイディア」
「……どしたの、おにーちゃん」
セクハラする機会を伺っているとは言えない!
せっかくの初デートなのに、なにをやっているんだ俺は。
ちゃんとやらないと駄目じゃないかっ。
そう思って、大きな浮き輪でぷかぷかしている舞衣に近づこうとしたところ。
「いやーん」
手で胸を隠してる来斗さんに遭遇した。
なにをしているんだ!?
「ら、来斗さん!?」
「水着が流されちゃったわ」
俺のラッキースケベのせいか!?
舞衣とデートしているときに他の女の子にも発動するのは厄介!
じとーという目線を浮き輪の上から感じるが、このまま放置するわけにもいかない。
「水着取ってきてあげるから」
「わかったわ」
流されているという黒いビキニは波打ち際で浮いている。
ささっとゲット。
早めに返却。
「写真撮らなくていいのかしら?」
撮りたいけど!
撮りたいけどね!
舞衣がいるのよ!
来斗さんはこういうとき妙にサービス精神旺盛だよね!?
手ぶら写真撮っていいんですね!?
「な、何言ってるんだよ。早くつけなよ」
「わぁ。紳士ね」
バスタオルをかけてやり、ビキニをつけるのを待つ。
来斗さんの言う通り、俺は極めて模範的な紳士であり、舞衣に冷たい目を向けられるのは理不尽だと思います。
「何やってたの、来斗さん」
「レイプ待ちってところね」
「ナンパ待ちみたいな感覚で強姦されるの待っちゃ駄目だよ!?」
普通に晴れた日の夏休みの海水浴場だから、ありえないけどね!?
人もいっぱいいますし。
「ま、俺はデート中だから……気をつけてね」
「そうね。なんかチャラい大学生らしき色黒の集団がシルバーのアクセサリーを見せつけながらウェーイウェーイ言ってるのでうかつに近づくことにするわ」
「やめなさい!?」
義朝に舞衣のマイクロビキニを見られる方がまだマシな未来が見えたよ!?
「わかった、わかったよ」
「ロトさんがレイプするんだね」
「違うよ!? 一緒に……デートしようぜ」
「さんぴーということかしら?」
「普通に! 普通に遊ぶだけ!」
来斗さんは調子が狂う。
こっちは舞衣からセクハラしていいと言われているのにうまく出来ないのに、なんで来斗さんは俺にこれほどナチュラルにセクハラしてくるのか?
俺も、ここで「いいね、一緒に楽しもっか!」などと言えればいいのだが、来斗さんは難しいんです。てんせーちゃんなら言えるんですけど。
来斗さんを連れて、波に揺れている舞衣のところへ。
「舞衣~」
「デート中に、他の女の子を連れてくるなんて、さっすがおにーちゃん」
「舞衣~」
そんな沙羅さんみたいなこといわないでよ~。
俺だって初めてのデートは二人きりがいいよ~。
でも、来斗さんはほっとけないんだよ~。
なんならまだ義朝の方が安心だよ~。
「ロトさん」
「なに、今ちょっと大変なんだけど」
「今度は水着の下の方がどっかいっちゃったのですが」
「んもおおお!!!」
なにやってんだよ来斗さん、と思うけどおそらく俺のラッキースケベのせいなのよな。
全然それは今、俺は求めてないんですけど!?
求めてないラッキースケベっていうのもあるんですね!?
「シャッターチャンス?」
「撮らないよ!」
ビーチならともかく、海の中までアナログカメラ持ってこないよ。
いや、そういう問題ではないが。
「おにーちゃん……」
「もががががもがもがもももがんもんももももももがもがもがが!」(水の中で来斗さんの下半身を見ようとなんてしてないよ!)
「毛は剃っています」
「もがががががががが!?」(!?!?!?!?!?!?)
「おにーちゃん……」
「もがががががががが!?」(もががががががが!?)
溺れる前になんとか水着は見つけ、無事に返却した。
その後も、舞衣との初デートは終始こんな感じであり、絶対に舞衣から呆れられたと思われる。
もちろんセクハラはされるだけですることは叶わなかった。




