異世界メモリアル【8周目 第7話】
「おにーちゃん……赤点取っちゃった……」
「まぁ、しょうがないよな。勉強難しいもんな」
一年生一学期の期末試験、俺は理系はトップの成績。文系はそこそこという結果だった。
舞衣は全部赤点だった。
「なんでみんなこんな難しいのがわかるのー?」
俺もそう思う。
っていうか逆に俺がなんでこんなに勉強できるだよとも思う。
もうね、ずーっとこの世界をやってるから暗記とか得意になってるし理解力も高くなってるんだよな。
もともと関心があることは覚えるの得意だしな。
三国志の武将の武力や知力なんかは完全に記憶しているし。
種牡馬のダート適性とか気性の荒さとかも覚えてるし。
ルーラで飛ぶ先の町のマップだって大体わかるもんな。
ゲームだと思っていれば、能力を発揮できる。それがゲーマー。
よってサルトルの哲学書もフランス語の原文で読めるし、ニーチェも読み解ける。それでも成績はそこそこです。来斗さんは余裕で成績トップなのマジ摩訶不思議。
「神は死んだとかひどすぎるんだけど」
愚痴をいいつつ学校へ行った。
舞衣は夏休みに毎日補習に行くことになったようです。
俺は早めに容姿を上げたいので、美顔ローラー使いながらピラティスしたり、半身浴をしたりして夏休みを過ごそうと思っていた。
しかしその日の夜。
いつもの定例のことだ。
「おにーちゃん……うう……」
制服のままでやってきた。
補習がしんどいんだろう。
頑張れ、舞衣。
「こんな感じだよ~」
元気がないな。
なにか励ましてやりたい気持ちだ。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 111(+41)
理系学力 171(+60)
運動能力 169(+6)
容姿 196(+31)
芸術 120(+105)
料理 171(+6)
―――――――――――――――――――――――――――――
部活のおかげで芸術は非常に上がりやすい。
料理はなぜか幼馴染だから当然だよという理由で全部舞衣がやってくれている。
学力を着実に上げつつ、容姿をよくしておけば基本的にはいいだろう。
もちろん、来斗さんを攻略するなら文系を上げるべきなのだろうが……。
なんにせよ文系以外は倍速で上がる状況なので、ステータス不足にはならないだろう。
必要なアイテムは揃っているしアルバイトの必要はなさそう。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
実羽映子 [役不足を力不足という意味で誤用する人くらい好き]
星乃煌 [また抱きしめられたいくらい愛している]
来斗述 [一言だけセリフがあるモブ]
画領天星 [ロト×競艇場のおじさん]
舞衣 [舞衣はたまにならセクハラしても大丈夫だよ]
―――――――――――――――――――――――――――――
「え? 舞衣はセクハラして欲しいの?」
「なっ!? そんなわけないでしょ、おにーちゃん!?」
「いや、だってそう書いてあるもの」
「うう……恥ずかしすぎる……なんでこんな表記なの……」
親密度を見せてくれるのは舞衣だが、表現方法は舞衣にはどうにもならないことであるらしい。
つまり本音ということか……大丈夫なんだね、たまになら……。
舞衣へのセクハラはたまにすることにして。
てんせーちゃんは相変わらずよくわからないが、人間だからまぁまぁいい方。多分。
来斗さんもまぁ、モブより上っぽいから悪くない方。
星乃さんは、これはもうラブだな。今回は星乃さんイケるのかな!?
気になるのは実羽さんだ……ずっと嫌われている。多分舌打ちしたくなる感じで嫌われている。ミジンコの方がマシだ。何とも思ってないわけだから。
「おにーちゃんはさ、アルバイトとかしない、よね」
「今のところはするつもりはないけど」
「実は一緒にバイトしたかったんだ。アルバイトってしたことないから」
ふむ。
妹だったときの舞衣も働いたことはなかったはず。まぁ働くような年齢じゃないしな。酒は飲めますけど。
「それにおにーちゃんが働いているところを直接見たかったし……」
目をつむって微笑む舞衣。
俺が今まで働いていたのなんて、女装メイド喫茶だの、女装コスプレイヤーだの、ホモ漫画のモデルだのばっかりで全然見せたくない姿ばかりなんですけど?
あと舞衣ちゃんのオススメしてくるバイトは違法とかも多いし、俺は舞衣にそんなことをして欲しくない。
「でもバイトして何を買うんだ?」
舞衣は勉強に苦労しているようだから、アイテムが欲しいのかもしれない。
俺だって《萌える参考書 ~ねえ、妹と暗記しよっ~》を持っていなかったらとてもじゃないが勉強なんて耐えられない。
買ったアイテムの中であれがダントツだね。
「ひょっとして《イケメン参考書 ~ねえ、お兄ちゃんと暗記しよっ~》を買うのかな」
「そんなの買うわけ無いでしょ」
久しぶりに舞衣からグサッと刺さることを言われて懐かしい気持ちになる。
あの頃の舞衣のことも好きだよ。
「かわいい水着が欲しいなって」
「なにっ」
毎晩のように見ていた写真が無くなった今、俺は舞衣の水着姿不足となっている。
「わかった。俺がバイトして買おう」
「早い!? 待って、なんでそうなるの?」
「なんか変だったか? 舞衣が可愛い水着が欲しいのなら、俺が買うのが当然じゃないのか」
「……バカなんだから」
確かに。
大昔にも何のメリットにもならないのに真姫ちゃんのラムちゃん水着を見たいがためにクレジットカードを使ってしまったときに叱られたものだ。
でも俺は後悔していないからね。
「まさか水着姿を俺に見せてくれないとかじゃないよね」
「そ、そんなわけないよ。っていうかおにーちゃんに見て欲しいから買う……いや、今のなし」
「わかった、もう死ぬバイトでも違法でもやる」
俺の覚悟は決まった。
「じゃ、じゃあ。おにーちゃんのオススメ高額バイト、舞衣べすとすり~」
「なんでもこい」
「無理しなくてもいいからね?」
1.蒼天堀でシノギをする
2.不思議なダンジョンに潜る
3.どうぶつしかいない島にいって問答無用のローンを返すまでフルーツを拾って売る
うーん。
覚悟は決まっていたはずだが……。
「あの、1のことは詳細は知っているの?」
「なんかキャバクラ? を経営する? みたいな感じだって」
俺の知ってるのであってるっぽいな……。
そもそもシノギって書いてる時点でバイトじゃないだろ。
「女の子の指の形を見て灰皿を替えたり、グラスを持っていくらしいけど」
まぁそこはバイトっぽいけど……。アクションゲームパートだからね……。
「2についても?」
「なんか入るたびにダンジョンの形が変わるんだって。宝物は持って帰れるらしいよ」
うーん……死ぬ気がしますね……モンスターに殺されるか空腹で死ぬか……。
「3はもうわかった」
「本当は3を二人でやりたかったんだけど」
「俺も舞衣と一緒なら全然やりたいけど、一人で行くの怖いな。そもそも二学期までに帰ってこれるの?」
「わかんないけど……でも釣りしたりとかいろいろ楽しいらしいよ」
「うん、舞衣と一緒なら全然行くけどね」
絶対罠だと思うんだよね。
ゆっくりまったりリンゴを拾って過ごすだけのゆるふわ生活が始まると思わせておいて、要するにマグロ漁船だよね。
たぬきにローンを返すためだけの日々がエンドレスに続く可能性があるよね。
いつ帰ってこれるのかって保証がないよね。
これはナシ。
「うーん」
シノギもマズイだろ……違法じゃないけど、あれは暴力団関係者のおしごとなワケで。
キャバ嬢をスカウトする時点でヤクザに襲われる気がするし。
やめておいたほうがいいだろう……。
「ダンジョン潜ってきます……」
死ぬかもしれないが……。
「頑張ってね。水着はおにーちゃんが好きなの選んで」
「頑張ってきます!」
今までのアルバイトで一番気合が入っていた。




