異世界メモリアル【8周目 第5話】
写真部の活動として、運動部の撮影をするべくウロウロしているとテニス部でエンカウントした。
テニスコートにお邪魔する。
「星乃さーん」
……じりっ。
なんだ? なんで後ずさり?
あれ?
聞こえなかったのかな。
星乃煌という女性は、唯一の先輩キャラだ。
出会いイベントの条件はよくわかっていないが、そもそも学校にいない場合は出会えない。
今回の8周目においては生徒会長でも料理部の部長でもないようだが。
彼女は会長ではなく「星乃さん」と呼んでもらうことを喜んでいたが、7周目のときは部活の都合上「星乃部長」と呼んでいた。沙羅さんの手前もあり、星乃さんに気のある素振りは出来なかったし。
なので声をかけているのだが、避けられている?
出会うまでは親密度がわからないわけだが、星乃さんに嫌われる理由はないはずだ。
この世界で出会う女の子の中では、実羽さんと星乃さんだけは俺と同様、前世の記憶もあるし、前回までの記憶もある。
実羽さんからは嫌われている気がするが、7周目で星乃さんが卒業したときは快く別れたはず。
「星乃さーん」
もう一度大きく声をかける。
聞こえているようだが……じりじりと横歩きでこちらを見ながら遠のいていく。
露骨に避けている?
もしくは俺を熊か何かと勘違いしているのかな?
「それ以上は近づくな!」
マジでその可能性が出てきた。
思わずホールドアップする俺。
「いいか、こちらから近づくから、じっとしていろ!」
完璧なプロポーションのテニスウェアの星乃さんが、左手で胸を隠すように、右手でスコートを抑えながら歩いてきた。
なに?
なんなの?
二メートルくらい離れたところで、立ち止まる。身を守るようにしながら。
「ど、どうしたんですか、星乃さん」
「むっ、そんな悲しそうな顔をするな!」
「悲しいですよ、俺は」
「くっ……そういうところズルいよな……!」
何がズルいのだろうか。
むしろこの世界でズルいプレイが出来た試しがないんですけど。ガチ難易度高いんですけど。
「こ、こうみえてもな、乙女というか……男性経験が少ないんだ……!」
いきなり何を?
デートをしたことないからデートしろって言ってきたことも覚えているので、それは知っていますけども。
「だから……!」
「あーっ、あぶなーい!」
どこからかサッカーボールが飛んできたようだ。
星乃さんの形のいいヒップに当たる。
「うわっと!」
星乃さんはたたらを踏んで、俺に近づき……。
どしん。
ホールドアップしたままの俺に抱きついた。
「わ、わわわわ! やっぱり!」
慌てて離れる星乃さん。
様子がおかしい。おかしすぎる。
やっぱりってなんだ?
「どうしたんですか、星乃さん。なんか変ですよ」
「な、なにを知っているのかな。出会ったばかりだというのに!」
まぁ、そういうことにしておく必要はあるんだが。
攻略対象じゃなくなるから。
「あぶない」
「あっ!」
またしても後ずさりする星乃さんは、今ぶつかったサッカーボールを踏んでしまいそうになったので、俺は慌てて彼女の手を引いた。
「きゃああっ!」
まさに乙女な感じの声を出しつつ、俺の方に抱きつく。
片膝をついた俺の顔に豊満なおっぱいが当たった。すっごい弾力のあるバインバインの胸だ。さすが星乃さんだぜ!
「あーっ、やっぱり!」
やっぱりとは。
「ラッキースケベられの実績が解除された!」
「よかったじゃないですか」
星乃さんはなんか実績が解除されていくタイプの設定らしいからね。
ラッキースケベられなんて、俺がラッキースケベの属性持ちじゃなかったらそうそう解除できないよ?
「こ、こういう実績を解除するつもりはなかったのに!」
「いやいや、全部解除しましょうよ」
「な! こ、このスケベ!」
顔を真っ赤にして怒る星乃さん。ウブだなあ。
こういう実績というのは他にどんな実績があるんでしょう。気になりますね……。
「あぁ、ハグの実績も解除されてる!?」
あれで解除!?
俺はホールドアップしてたというのに?
っていうか人生で初めてハグしたの?
「うう……こうなると思ったんだ……!」
なるほど。
俺がラッキースケベ属性を手に入れたことを知っていたから、避けていたんだな。
それは悪いことをした。
近寄ること自体がセクハラみたいなもんだもんな。
「ごめん、嫌だったよね俺なんかと」
「いや! そうじゃないんだが! その、ちゃんと心の準備をして、いい雰囲気のときにして欲しかった!」
乙女~。
すっごく乙女だった~。
男子はちゃんとしてないときに起きるスケベをラッキーと思うわけだが、女の子からしたらそういうのはちゃんとムードを高めてしたいものなのだろう。
「いや、本当にすみません」
「うん……ちゃんとしたやつを今度してくれ……!」
今まで頼りになる先輩としてしか見てなくてどちらかというとノリの良い友人みたいに思っていたので、なんか凄くかわいらしく思えてきたぞ。
この人はカリスマ的人気と実力を持つ完璧な美人なので、手が届かない高嶺の花のイメージだった。
しかし男性との経験がまったくなかったのね……。
実は俺との初めてのデートも恥ずかしかったのか?
なんかあけっぴろげな雰囲気だったけど、照れ隠しだった可能性が出てきましたね。
実羽さんはちょいちょいピュアな発言はするものの、この世界では乙女ゲーム設定の生活をしているので年がら年中イケメンにチヤホヤされている。
そういう意味では実羽さんと星乃さんでは、大分異なるな。
「どこがいいですか」
「海岸で夕日をバックに」
「わかりました」
こうして8周目の初めてのデートが決まった。




