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異世界メモリアル【第25話】


新学期が始まり、2年生の俺と沙羅さんは新人勧誘のための料理を作っていた。

春らしく、ちらし寿司(のようなもの)である。

すし酢に近いものを作成するのは難しく、寿司の再現は苦労した。

それにしても沙羅さんと一緒にお寿司を作るなんて、去年の今頃は想像もつかないな。

そんな思いを知ってから知らずか、俺を見て微笑む沙羅さん。

なんか、いい感じだよな~。

そんな俺のもとにトラブルメーカーがやってきた。


「料理部の体験希望~! 料理食べられませんけど!」


自称空気の読めるAIこと江井えい あいさんが、料理部のドアをスパーンと開けて登場。


「あ、AIの私に可愛いって言ってくれるえっちな先輩!」


俺を見つけるやいなや、この発言である。

AIだとしても空気が読めなさすぎだろう。

俺はこの自立歩行型AIの欠陥について、本人に説明しようとした。


「え、AIに向かって可愛いって言ってるの? 本気?」


俺が発言する前に、反応したのは沙羅さんだった。

若干、声が引いているように聴こえる。


「ち、違うんですよ、沙羅さん。俺はこいつにね」


俺が弁明しようとしているのに、AIは横から口を挟んだ。


「論より証拠です」


嫌な予感がする。


「か、かわいいよ! あいちゃん!」


あいちゃんの口ではない箇所から音がした。

――これ、俺の声じゃね?


「録音しておいた先輩の声を再生しました。 確実に言っています」

「お前のどこが人の気持ちを優先したAIなんだよっ!?」


こいつは鬼か、悪魔か。

このAIを開発したやつを殴りに行きたい。


ちら、と横目でおそるおそる沙羅さんを見る。

ぎゃあー! ここまで人は人を軽蔑していることを顔で表現できるのか!

どうしてくれんだよ!

さっきまで新婚さんのような雰囲気だったのに!

不倫が見つかった時のような目だぞ!?

俺は混乱し、なんとかせねばならない気持ち一心で変なセリフが口をついて出た。


「沙羅さんの方が可愛いですっ!」

「ええっ!?」


沙羅さんも混乱し、目がぐるぐるしている。

俺も目がぐるぐるしている。


「う、嘘でしょ、そうやって口から出まかせを」


沙羅さんは平常心を取り戻そうとして言ったのだろう。

ところが変なところばかり優秀なAIが隣にいた。


「声や表情、仕草などを分析した結果、先輩が嘘を言っている可能性は1%未満と断言します」


口をパクパクさせて何も言えない俺。

同じく口をパクパクさせて何も言えない沙羅さん。

シンクロ率100%である。

人は圧倒的なまでに説得力のある断言をされると何も言えなくなるようだ。


「ちなみにロト先輩は沙羅先輩の胸をよく見ています。私の胸はあまり見てもらえませんでした。そのことから大きい方が好みなのだと推察します。太ももについてはあれほど熱心に観察していたというのに」

「お前、もう出てけ!」


俺はポンコツAIの背中を押して追い出した。

やつは危険すぎる!

料理部への入部など、絶対に阻止するぞ!


振り返って沙羅さんを見ると、顔を真赤にして胸を抑えてこちらを睨んでいた。


******


「お兄ちゃん、入るよー」


2年生になって初めてのステータス確認タイムが始まった。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 146(+10)

理系学力 131(+10)

運動能力 144(+11)

容姿   152(+5)

芸術   99(+28)

料理   171(+18)

―――――――――――――――――――――――――――――


バランスの良いステータスの増加だ。

育成ゲームとしては順調に思える。


「舞衣、どう思う?」


なぜか上手くいってない気がして相談することにした。


「低すぎてマイナス評価になる部分はほとんど克服していると思う」


神妙な面持ちで答える舞衣。


「でもそれだけじゃダメ。嫌われないのと好かれるのは違うから」


あとは自分で考えろということか、そこで話は終わった。

ただバランスよく上げるだけでは誰かに好かれる事はできない。

この手のゲームならほとんどの場合、特定のなにかで活躍するのが攻略の鍵だ。

どこに力を入れるのか、考える時期に来ているということか。


「はい、親密度。新しい女の子に出会ってるみたいだね」


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [チューリップの花くらい好き]

望比都沙羅もうひと さら [なんかムカつく存在]

次孔じあな 律動りずむ [凡人にしては気になるかも!?]

寅野とらの 真姫まき [まじ唯一のボーイフレンドだぜ]

江井えい あい  [先輩を好きになる確率2%]

―――――――――――――――――――――――――――――


沙羅さん!?

これは嫉妬ってやつかよっ!?

嬉しいような気もするが、対処しないとだよなあ……。

そんで原因のAIは、可能性2%かよ!

なんて厄介なやつに出会ってしまったんだ。

しかし2%は悔しいものがあるね。


「お兄ちゃん、誰に一番好かれたいの? 私以外で」


妹にこんなセリフを言わせてしまう事になったことについては反省している。


「とりあえず人工知能に2%と思われているのをなんとかしたい」


正直に答える俺。

なぜか半眼になって俺を見据える妹。


「ふーん。えっちな先輩ですね」


――だから、なんで知ってるの!?

あいちゃんに好かれたいのはそういう理由じゃないし!

それにしても、えっちな先輩って言葉を舞衣が言うとスゴくエロいんですが?


「だから妹をそういう目で見んなっ」


俺のベッドにあった枕を投げつけられた。

そういう目をしていたらしい。

そう言われましても、1年前から同居し始めた俺に全く似てない異性だぜ。

妹っていわれてもなあ。

腑に落ちないんだよね。


あいちゃんにしても、ルックスが人と異なるのはうなじのソーラーパネルだけだし。

ただあいつは発言が人間離れしているので設定はしっくりくる。

でも、なんか気になるのよね。

やっぱ、えっちだからなのかな……。





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