異世界メモリアル【8周目 第4話】
「おにーちゃん」
「どうした舞衣」
「勉強、難しくない?」
「そうだよ」
「こ、こんなに難しいこと勉強してたの?」
「そうだよ」
舞衣が何と比較して難しいと言っているのかはわからないが、この世界は周を重ねると勉強が難しくなる一方だ。
肉体や運動神経についてはステータスに合わせて弱まるんだが、知識は持ち越される。
そのため世界が求める学力が上がっていく仕組みだ。
これでも最初よりはマシ。日本語だから。『世界の基礎知識』の特技がないと文字の習得から始まるんだぞ。
異世界転生っぽくていいじゃんなんて微塵も思わないね。日本語最高。
まぁ料理はたまに懐かしくなるが。ヌポンフとかバレーレとか。
「わ、わかるの? この問題」
「まぁ……これくらいなら」
俺の学力はすでに大学教授並みだ。
特に『理系の心得』を取得しているため、理系の問題を解く時は頭が冴える。
「こんな数式が何の役に立つのー?」
ぼやく舞衣。気持ちは痛いほどわかるぜ。
周を重ねるごとに、みんななんでこんな難しいことを勉強しているのかさっぱり理解できない。
勉強内容は難しいのに、科学の発展はしない。変な世界だ。
まぁ、そもそも学びという概念がおかしいからな。将来役に立つとか、なりたいものになるためとか、研究することでよりよい世界にしていくとかそういう目的じゃないから。
学力のステータスが低すぎるとモテないからやらないといけないだけだから。やっぱクソゲー。
「このままだと中間試験で赤点かも……」
とほほーと肩を落とす舞衣。
俺のせいでとほほーってなっちゃうのはよく見たが、自分のことで肩を落とすのは珍しい。
「一緒に勉強するか」
「うんうん! 勉強会しよう! ふたりで!」
妹と幼馴染だとだいぶ話が変わるな。
一緒に勉強するために図書室に行くことへ。
舞衣の身長では届かない高いところにある分厚い辞書を取ろうとしたところ、ドンとぶつかってくる女子が。
「きゃー」
この棒読みのきゃーは……やっぱり。
来斗さんだ。
ぺたんと尻餅をついた来斗さんは、黒い下着が見えてるが……。
「うーん」
なんというか。このラッキースケベはあまり嬉しさがないな。はっきりいって、いつもと同じじゃん。
来斗さんだと通常運転すぎて、いまいちなんだな……。
ちょっとがっかりしつつ、手をとって立ちあがるのをサポートすると、引っ張りすぎたのか押し倒された。
「きゃあー」
なんでそうなるのか!?
彼女はくるんと前転して俺に覆いかぶさり、結果的に黒い下着は俺の顔にくっつくことに。
俺の首から上は完全にスカートで包まれた。
なるほどラッキースケベの効力はスゴいぜ。
「むがむが」
どいてくれと言うことも出来ない。
しかし普通はすぐにどくだろう。
来斗さんはレイプされたいと思っているくらいだから、むしろこの状況をラッキーだと思っているのかもしれないな。
それならこっちもラッキーなイベントだと思って楽しませてもらいましょう。そうしましょう。
「くんかくんか」
まずは思いっきり鼻から息を吸い込むことにした。
ふーむ……これが女の子の匂い……。
「きゃー」
そう言うならどけばいいじゃないか。
どかなくていいけど。
「ぺろり」
ふーむ……これがぱんつの味……。
「きゃあー」
ここまでしてもどかないことにビックリですよ。
いいんですか?
もっとやっていいんですかね?
まさか、舞衣の設定が変わったのと同じでこの世界の設定も変わった可能性が!?
「おにーちゃん、だいじょー……」
舞衣が様子を見に来てしまった!?
いや、見に来てくれただ。
終わってしまう……いや、ようやく助かるぜ。
「大丈夫ですか」
「ああ、すみません。この男性が無理やり……」
おい。
来斗さんだからしょうがないが。
「俺は手助けしただけだぞ」
「そんな? 立ち上がるときに手を取るだけでこんなになるわけないです」
うん。
それは同意なんだけどね。
そして原因はおそらくラッキースケベという俺の属性のせいだね。
じゃあ俺のせいってことになるのかな?
「おにーちゃん?」
「違うって! 舞衣は信じてくれるよね!?」
唯一絶対の味方であるということは変わってないよね!?
「じゃあヨコシマな感情はないと」
「……」
「否定できないと」
「いや、待ってくれよ。思想は自由ですよね? ヨコシマな感情はありますが、ヨコシマな行動を取ってないです」
必死で弁解する俺。舞衣が学校にいるというのもいいことばかりではないようだ。
「股間の匂いを嗅いだり、ぱんつを舐めたりされました」
「……」
されてた認識はあるんですね……。
「舐めた……ぱんつを……」
舞衣から冷たい目を向けられることは多々あったが、今までで一番キツイ。
来斗さんだからいいかなーと思ったんですが、そんなことを言ったらもっとヤバいと思う。
「ごめんなさい」
土下座することにしました。
「キレイな女の子の股間が目の前にあって、ラッキーだと思って匂いを嗅いだり舐めたりしてしまいました」
もう洗いざらい白状しました。
舞衣には嘘は通用しないし、本当のことを言えば許してくれるだろう。
「つまりレイプしたいということですね?」
「いえ、そうじゃないです」
「エッチなことはしたいというだね、おにーちゃん」
「はい、そうです。エッチなことはしたいです」
何を言わされているんだ。
「まー、嘘かホントかはわかったよ。私は舞衣。このえっちなおにーちゃんはロトっていうんだ」
「来斗述と申します」
来斗さんとの出会いイベントは大体いつもこんなものだったが、舞衣がいることによってここまでヒドイことになるとは。




