異世界メモリアル【8周目 第3話】
芸術を部活で向上させる。
すなわちてんせーちゃんと同じ部活に入る。
てんせーちゃんを攻略するかどうかはまだ決めていないが、有力な候補だろう。
両刀の属性を手に入れてしまうかもしれないという怖さがあるが。
今回のてんせーちゃんが所属しているのは美術部ではなく写真部だった。
なんとかスナップとかフォトなんちゃらとか、ゲームでの撮影経験はたっぷりあるが本当のカメラは触ったことがない。
なお、この世界ではデジカメやスマホはないので、アナログカメラです。
「やあやあ、お主も入部希望でござるか」
相変わらず距離感の近い、人懐っこい女の子が寄ってきた。
縁無しの大きくて丸い眼鏡と、星の形をした髪留め。
大きな目はらんらんと輝いており、栗色の髪を大きく二つに縛っている。
「俺はロト」
「がりょうてんせい、と申しまする」
「やあやあ、これはご丁寧に」
もう彼女のノリはわかっているので、仰々しく戦国大名のように挨拶を交わす。
傍からみたら、ものすごく仲が良いように思えるだろうが、てんせーちゃんはこれがデフォルトなのだ。
義朝が相手でもこんなもの。義朝はロリコンだから安心だが。
「実はラジオの大ファンで」
「大ファンって、まだ1回しかオンエアしてないっちゅーの! ぬはは!」
「だからてんせーちゃんって呼ばせてもらうね」
「もちろんですぞ~。てんせーちゃんをガリョウさんなんて呼ぶ人おりませぬ」
そう言いながら、握手してくれるてんせーちゃん。
でもマジで大ファンですから。
俺は世界で一番ノベルティを大事にしている自信があるぞ。
まぁこの8周目の世界ではまだノベルティは誰の手にも入っていないけれども。
「わたしは舞衣だよ、よろしくね」
舞衣はなぜか一緒に入部するという。
部活動だってサポートすることは出来るからねとのこと。今までそんなこと言ったことないのに。まぁ今回は色々と設定が違うのでよくわからない。
「ふみゅん。そちらのお嬢さんも入部希望でせうか」
「そうでせう。このおにーちゃんの幼馴染なんだ」
「おにーちゃんと呼んでくれる幼馴染がいるとは。ロト殿はうらやまけしからんですなー」
このこのー、と肘で胸をうりうりしてくるてんせーちゃん。
距離を詰めるのが上手というか、本当に人の懐に入るのが上手な人だ。ほんと腐ってなければモテるだろうに。
「部長からは、一年はとりあえず学校内をウロウロして好きに撮ってこいと言われてるよん。みんなで一緒に行きませうか」
「だな」
「はーい」
カメラのことなど知らないので、てんせーちゃんに着いていって学ぶしかないだろう。
「ロト殿はフォトスポットをご存知ですかな?」
ふーむ。
来斗さんがオススメの、パンチラスポットなら知っているが、それはやめておこう。
ラッキースケベと色男とパンチラスポットと写真部という組み合わせ。最強すぎる。最強すぎてもう絶対いっちゃ駄目。
「花壇かな」
「ほ~、意外とロマンチックですな、ロト殿は」
花壇はいつも実羽さんがボランティア部の活動の一環で面倒を見ている。
なぜか今回は妙に実羽さんが冷たいというか、好かれてないような。気になっていたから、思いついたのかもしれない。
「ん、っしょ。っと」
実羽さんがちょうど庭いじりをしていた。
そして、絶妙なタイミングでしゃがみ、バランスを崩して後ろ向きに倒れた。つまりぱんつ丸見え。
「シャッターチャンスだ!」
容赦なく撮影するてんせーちゃん。さすがすぎる。
「ロト部員も撮れましたかな? さすが、期待のホープ」
いや、撮れてないし、撮らないけど……と言う前に。
「さいてー」
そう言って、実羽さんが去っていった。
明らかに俺の方を向いており、てんせーちゃんには目もくれていない。さいてーなのは俺じゃないんですけど?
もともとヤンキー顔だからああいう表情されるとマジで怖いんだけど。
それにしてもどうしちゃったのマジで。あんなに俺のことを好きだったのに。あんなに一緒だったのに。デートしないとタダじゃおかねえと半分脅迫されていたのに。
いや、パンチラカメラマンだと思われたなら致し方無いのか? 撮ったと勘違いしているだけなのか?
むしろ、撮ってたとしてもそのことを何とも思わないてんせーちゃんの方がおかしいような気もする。
まぁ、でもてんせーちゃんだからなぁ……。
パシャ
怒ってどっか行ってしまう後ろ姿を撮るというのもどうかと思ったが、俺は花壇にいる実羽さんが撮りたかったので、シャッターを切っていた。
ロングの茶髪と、長めのスカート丈と、平和そうなチューリップたちの写真。
子猫に優しくする不良男子みたいで、結構いいと思うんだが。
「ねぇねぇ舞衣はおにーちゃんを撮りたいなー」
舞衣のお願いなので断るわけがなく、いままでの経験からカッコイイポーズを連発した。
容姿が800くらいあれば、てんせーちゃんも目をハートにするのだが、今のところはゲラゲラ笑っている。
キラーン☆ミ
とかしながらも頭の中は実羽さんのことでいっぱいだ。
どうして……。
実羽さんは色男が嫌いだから……?
いやそれは7周目のときからそうだしな。
待てよ。
考えてみたら、義朝の爆弾を破裂させてからずっと親密度が上がってないな。




