異世界メモリアル【7周目 エンディング】
「まぁ、これは考えつかなかった妙手です。ひょっとしたら人類で初めての戦法かもしれません」
「むう……」
沙羅さんのセリフは辛辣すぎる皮肉だったが、傍目には幸福な家庭以外の何でもなかった。
俺は櫛さんの作ったイマイチな野沢菜漬けをかじりながら、お茶を啜っている。
望比都肥は将棋を始めた。趣味として。
望比都櫛は料理を始めた。趣味として。
「沙羅……もう王将しかないのだが?」
「負けましたって言わないからですよ」
「とっくに詰みに出来たよな?」
「負けましたって言わないからですよ」
「むう……」
沙羅さんはどうしても父親に負けましたと言わせたいらしい。
「ロトちゃん、美味しい?」
「食えなくはないですよ」
「美味しいかな?」
「お茶は美味しいですよ」
「ロトちゃんの淹れたお茶は美味しいけど、野沢菜漬けは美味しいかな?」
櫛さんはどうしても俺に美味しいと言わせたいらしい。
どうしようかなと思っていると、沙羅さんと目が合った。
微笑み合う。
幸せだ。
こうして家族が仲良く、ゆったりと楽しい時間を過ごすという素晴らしい時間。
縁側から庭を見ると、爽やかな日差しが花に注がれ、春の始まりを告げるように小鳥が鳴いている。
俺は7周目にしてようやく、満足のいくエンディングを迎えられそうな気がしていた。
いっつもちょっと待て、もう少し時間をくれ、やり残したことがある、っていうことになっていたからな……。
「ま、変なところで苦労したけど……」
色男の属性のせいでこの段階でも来斗さんが「抱いて」などと迫ってきたが、うまく逃げた。さすがに罠にもほどがある。
さらに義朝もなぜか親密度が上がりすぎており、事あるごとにアプローチしてきて、それをてんせーちゃんがガン見するという状況もちょいちょいあったが、なんとか躱した。
星乃さんももうとっくに卒業しているのに「実は無理やり婚約させられそうになっているから、君を彼氏として紹介させてくれないか」というベタな依頼をしてきたし。すぐ断った。
「しかしようやく未練無しにエンディングを迎えられそうだ……」
今回はクリスマスにちゃんと二人で過ごすことが出来た。ちゅーもした。
元日は一緒に初詣に行って、もっと仲良くなれますようにとお願いした。ちゅーもした。
バレンタインデーはチョコレートを貰った。ちゅーもした。
他のデートでも、けっこうちゅーした。
したんだよなあ……。
望比都沙羅という女の子は、青みがかった長い黒髪で、清楚な印象。物腰柔らかだが、言葉は冷たい皮肉だらけ。趣味は将棋で、ネグレクトを受けていた少女。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花みたいな日本美人……なんだけど、実はキスは情熱的だった。
これは歴代最高、圧倒的。
もうね、なんか唇と舌をね、これでもかっていうくらい色々してくるからね、ずーっとしてても全然飽きないの。凄い。1回で数分しちゃうし、またしちゃう。
あれ、こんなにちゅーしていいんだったらその次も出来るのではって思うくらい凄いんだけど、それはやっぱり出来ないらしい。この世界は全年齢版なんだよなぁ……。
ただしハグとキスはいくらでも出来ることが判明したので、ガンガンしました。そして沙羅さんはガンガンいこうぜの作戦をまったく拒否することは有りませんでした。マジ幸せ。
あと俺が椅子に座ってるときにハグの要求をすれば、顔を胸に埋めることくらいは出来ました。いいです。十分です。ありがとうございました。
今までもこのくらいは出来たのか、それともこれが色男という属性を手に入れたからなのか、それとも沙羅さんが単に実はえっちな女の子だったからなのかはわからない。
わからないが。
「よし」
じゃあ、もう一度あの濃厚なキッスをするために、デートに誘おう……と思った途端。
あー。
エンディングテーマだ。約3年ぶりに聞く、エンディングテーマです。俺の脳内だけで流れる爽やかな曲です。実はいい曲なんだな。今までそんなの聞く余裕なかったです。
なんかこうちょっと俺に未練を残した状態で終わるよね、この世界。ほんとそういうところクソゲーなんだよなぁ……。
まさにギャルゲーのエンディングのように、頭の中に後日談が流れ込む。
俺と沙羅さんは当然結婚したのだが、娘より先に弟が出来た。櫛さんが出産したからだ……キューピッドは多分俺だな……。俺は婿養子に入り、更に妹が生まれる。
そして俺と沙羅さんの間にも息子が出来た……。完全に日本の国民的アニメの家族構成です。
俺は親子二代の料理研究家になる。なんせ俺は容姿のステータスが高いイケメンなので、料理番組にも引っ張りだこで、料理雑誌の表紙も飾りまくりだが、超愛妻家で家族思いということで好感度もめっちゃくちゃ高いというスーパースターになったらしい。いや、その人生ほんとにやらせてくださいよ。なんで「だったらしいよ」みたいな感じなんだよ。
いや、まぁ、いいか。みんな幸せになったってことだし。
沙羅さんは本当の愛を知り、家族との幸せな時間を知り、そしてキスの味を知ったわけだし……ハッピーエンドだな。
はい、俺は沙羅さんを幸せに出来ました。
次は誰を幸せにしましょうか。
今日がちょうど連載開始して三年ということで、七周目のエンディングが迎えられて嬉しいです。
これだけのんびり更新しているものにお付き合いいただきありがとうございます。
今回のようなエンディングのときだけでもいいので、感想をいただけると大変嬉しいです。




