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異世界メモリアル【7周目 第26話】


美人だなぁ……。

思っていた以上に美人だ。

まさに20年後の沙羅さんというか、清楚で和服美人。

なんというか、美人演歌歌手のようだ。

俺は沙羅さんとともに、沙羅さんの母親を訪ねていた。

望比都櫛(もうひとくし)というお名前だそうだ。


「なんの御用でしょうか。婚約の報告かなにか?」

「こ、ここここ、婚約!?」


必要以上に困惑する沙羅さん。愛おしい。

俺はもうこの世界が長い。この世界では攻略することは、すなわち結婚。一生を添い遂げる相手。

だからこっちはとっくに、その気持ちが出来上がっている。

しかし彼女は、沙羅さんは、当然だがそんなところまで考えてはいない。

よって慌てふためいているわけだが、俺のことを大好きで結婚したいことは妹に教えてもらってわかっている。


「婚約。そう思っていただいて結構です」

「ロ、ロロロロロロ、ロトさん!?」

「お義母さん」

「お、おかあさん!? わたしも呼んだことないのに」


沙羅さんがここまで大声を出すのはレアな状況なのだが、母親の前にいることも影響しているのだろう。

ほとんど会ったことが無いらしい。

ところが俺はほとんど初対面の大人の女性でも、結構平気だ。

もう攻略相手のご両親を相手にするのに、すっかり慣れている。

それにはっきりいって人生経験が違う。

下手すると、沙羅さんのお母様より俺のほうが長く生きてる可能性すらある。

よって、お義母さんとか呼ぶのも余裕ですよ!


「千年早いんだよ! このガキが!」

「ヒエッ!?」


こわっ!?

旅館の女将さんだと思っていた相手が、極道の妻みたいになったよ!

これは想定外です。

きっと美人に嫌われることに慣れる男子はいないでしょう。つらい。


「あなたのような人間に、おかあさんなどと呼ばれる筋合いはないねえ!」


ええ……。

啖呵を切るというのはこういうことか。見事です。マジで怖いです。

怒り狂った美人というのは、こんなに怖いものですか。

ごめん、俺は人生経験が豊富とか言ってごめん。

こんな怖いの初めてで、どうしていいかわかりません。


「は? ロトさんに向かってなんですかその物言いは」

「えっ?」


沙羅さん?


「ロトさんにガキとはなんですか、こんな素敵な男性いません。あなたの夫の方がよっぽどガキでしょ」


沙羅さん?

どうしたの?

自分の父親のことを面と向かってあなたの夫って言っちゃうのもどうかと思いますよ。

それに、さすがに沙羅さんのお父さんが俺よりガキってことはないだろう。かなりおっさんだよ?

櫛さんは若く見えるので、結構年の差婚っぽい。

肥氏と比較されては、そりゃガキだと思われるだろうし、いきなり押しかけてきて婚約のつもりだって言い切った俺に文句を言うのは普通のこととも思える。


「あら、あなたが何を知っているのかしら」


娘に向かってあなたって言っちゃう?

わかっていたつもりではあったが、ここまで仲が悪いとは。


「知らないですけどね、あの人のことなど。一生知ることもありませんが、ロトさんの方が大人なのは間違いないです」


ぷんすかしている様子はもはや幼児退行とも言えなくもないが。

しかしこれは沙羅さんは俺の味方をしてくれているわけだよな……。

嬉しい気もするけど、櫛さんと喧嘩するためにここにやってきたわけじゃないのですよ。

困ったなあという顔をしている俺に、櫛さんがふっと薄く笑う。美人。


「ふうん。あなたが大人かどうかはわからないけれど、ウチの娘から相当好かれているということはわかったわ」


さすが沙羅さんの母上、言い方がアレ。


「……」


散々口喧嘩してたのに、もはや顔を赤くして口をパクパクするだけの沙羅さん。弱い。でも、好き。

本当に弱点が明確な人だなあ。


「俺は沙羅さんに好かれています」


ドン!

と背中に文字が書かれそうな勢いで言ってやる。

沙羅さんはがぼーんと顎を外すようなことはなかったが、赤面のままぽかーんとしている。


「そして俺は沙羅さんが大好きです」


ドン!

言ってやったぞ!

しかし、沙羅さんはとっくにぽかーんとしており、リアクションがなかった。一世一代の告白なのに!


「言うじゃないか。先にそうしてれば、ここまで言やしなかったよ」


櫛さんはちょっと面白そうに笑うと、態度を柔和させた。


「それで? 二人はラブラブを見せつけに来ただけですか? わたしに婚約を認めて欲しいの?」


ようやく本題に入った。


「お願いがあります。そのために来ました」

「なんですか。私にできることならしましょう」

「料理を作ってください」

「料理?」


まったく理解できないとばかりに怪訝な表情に変わる。


「あなたに?」

「いえ」

「では、沙羅に……ですか」


初めて名前を呼んだ。

名前を呼ぶことすら抵抗がある親子。

そう考えると真姫ちゃんや鞠さんより、深刻な状態にも思える。


「いえ、俺でも沙羅さんでもありません。作って欲しいのは、望比都肥(もうひとこえ)氏。あなたのご主人です」

「……それは……わたしにできることではありません。あの人は……わたしの作るものなど口にしない」

「事前にご主人には、約束を取り付けています。食べるに値しない、と判断されたとしても口にすると」

「……だとしても……無理です」

「無理じゃない。妻が作る料理を食べるなんて、普通のことなんだ!」


俺は食い下がる。

ここは譲れない。俺の描くエンディングには、このイベントが必須なんだ。


「でも……自分でもまずくて食べられたものではありませんから……」

「え?」


マジで?

そういうことなの?

望比都肥(もうひとこえ)が普通の料理を口にしないっていうだけじゃないの?

櫛さんの作るものがマジで不味すぎるって話?


そうきたか……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想外の展開が多く飽きず面白いです。もっと早く見つけていたかったです。 [一言] 最近読み始めて一気見してようやく追いつきました。大変だと思いますが、更新頑張ってください。ちなみに好きなキ…
[良い点] 婚約発表〜。 ハッピーエンドへ王手! 沙羅さんのお袋さん、その彼氏、実はガキじゃなくて中身はおっさんです(笑) [気になる点] そう言えば沙羅さんは将棋好き娘の設定だから、将棋の話も忘れ…
2021/01/14 12:29 にゃんこ聖拳
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