異世界メモリアル【第24話】
ついに1年経ったか――。
この世界に転生して1年。
ただのギャルゲーの1年じゃない。
リアルタイムで1年だ。
あのときは歩くだけでもしんどかったな……。
今日から俺は2年生。
ギャルゲーとしてはこれからが本番といっていいだろう。
学校へと登る階段の途中、校舎の影になるところ。
そこにうずくまっている女子がいた。
丁度俺が去年、実羽さんに肩を叩かれた場所だな。
どうしたのだろうか?
「大丈夫ですか?」
駆け寄って肩を触ると、違和感があった。
冷たい?
あるべき体温がない、というのが正しいだろうか。
「ひ、日向に……」
階段の脇にある、陽の光を浴びた芝生を指差す女子。
とりあえず肩を貸して、移動する。
――重い!?
見た目に反して重すぎる。
ちらりと彼女を見ると、うなじに何か付いている。
ソーラーパネルのような……。
日陰を出ると彼女が軽くなった。
「ありがとうございました、助かりました」
ぺこりとお辞儀をした彼女を正面から見る。
うっわー、これまた超絶かわいい。
顔が丸っこくて、目がくりくりしている。
新一年生だとしてもちょっと幼い顔つきだ。
これは、出会いのイベントなのか?
「私は、自立歩行型人工知能試作機です。試験運用のためにこの学校に配属します」
あ、あー。
普通には信じられないが、ギャルゲーならしっくりくる。
いわゆるロボ子だ。
ロボットというか、アンドロイドというか。
つまり本当は人間じゃない人工物で見た目が女の子ってやつ。
「充電が足りずに動作が出来なくなるなんて、お恥ずかしい限りです。できればご内密に」
唇に人差し指を当てて、ウインクする彼女。
あざとい!
これが人工知能の為せる技なのか?
当然というかロボットらしい仕草ではない。
人間よりも人間らしい表情なので、むしろぶりっ子に見えるレベルだ。
「普段は単にAIと呼ばれていますが、この学校では江井 愛と呼称いたします」
誰だ、そんなネーミングしたやつは!
でも、あいちゃんか。
ルックスに相応しい名前だ。悪くない。
「これからよろしくおねがいしますね、先輩」
しかも、後輩キャラだ。
属性多めのヒロインが1年経って投入されるなんて、良く出来たギャルゲーだなこの世界!
今までず~っとクソゲーだと思ってたよ。
「よろしくな、あいちゃん」
俺は握手をしようと右手を出す。
すると、頭に? が浮かぶほど大げさに困惑の表情を浮かべたあいちゃんが言った。
「表情を伺うに、初めて会ったばかりの私に好感を持ちすぎているようです。あいちゃんという呼び方も一般的なコミュニケーションを構築するにはいささか唐突といえるでしょう。さらにこの握手には通常の挨拶とは思えないほど先輩の心拍数増加が見られます。このデータを本部に送って研究の材料として使うことを了承いただけますでしょうか?」
長台詞をスムーズに聞きやすく話しきったあいちゃんに俺は言った。
「やめてほしいです……」
俺は右手を出したポーズのまま、羞恥で顔を赤くして固まっていた。
やっぱクソゲーかもしれん。
「ご安心を! 私は人の心を優先するようプログラミングされています。空気の読めるAIなんですよ」
どうだ、と言わんばかりの自慢げな笑顔を見せるあいちゃん。
全然、空気読めてません。
俺の右手を両手で握り、上目遣いで表情を伺うように聞いてきた。
「ひょっとして、先輩から見て私ってカワイイ?」
なんつーこと聞くの!?
こいつは確かにAIだよ!
普通の人間にはできないと思う!
「可愛く思われるように出来ているはずではあるんですけどね~。どうです?」
ん? ん? という顔でじっと目を見てくる。
こ、こいつ男を恥ずかしがらせるための実験装置なんじゃないの!?
「カワイイって言ってくれたら、ちょっとだけサービスしてあげますよ~?」
すると左手は俺の右手を掴んだまま、右手の親指と人差し指でスカートの裾を持ち、少しだけ持ち上げる。
――えっ!?
ええっ!?
め、めくるってコトぉ!?
スカートの裾を持ち上げたり、下げたり。
ちらちらと肌色の面積が増えるさまから、目が離せない。
「か、かわいいよ! あいちゃん!」
気づいたら叫んでいた。
こうなってしまっては恥ずかしいもクソもない。
自分の欲望にボロ負けした俺を笑うがいいさ!
「じゃあサービスしますね」
スカートをつまんでいた指を離し、俺の両手を掴み直す。
あれ?
あ、気持ちいい。
彼女は両手で俺の右手をマッサージし始めた。
引っ張られた指をリズムよく押されて……ってこれがサービスかよ?
「これがサービスですが? ふふふ、先輩は、えっちですね?」
んなっ!?
こ、こいつっ……完全に弄ばれているだとっ……?
そうはさせるか。
「は? 別に? お前マッサージうまいな?」
「先輩が話を誤魔化すときは、目が左上に移動して声が低くなります。右足の指を浮かせることも多いようです」
……。
ダメだ、完全に弄ばれている。
完敗だ。
「さて、このままここにいては遅刻してしまいます、それではまた。えっちな先輩」
あいちゃんはスカートをひらひらさせながら、軽やかに階段を上がっていった。
遅刻するという忠告は全く頭に入ってこず、ぼーぜんとしたまま俺はこんなことを思っていた。
こいつだけ、エロゲーのキャラなんじゃないのかな……?




