異世界メモリアル【7周目 第19話】
料理部の世界一を決める大会、その名もクッキングファイト。
三年生になった俺と沙羅さんは、リーグ戦へのエントリーを行った。
他の学校の料理部に勝つことでポイントを獲得し、夏休みの決勝リーグに参戦するのだ。
「頑張ろうね、沙羅さん」
「ふふ、気合が入ってますね」
優勝が必須とは思わないが、おそらくこれは沙羅さん攻略に必要なイベントが起こりそうな予感がするからな。
料理部に入らなくても攻略は出来るのだろうけど。
「お二人とも、意気込みをお願いします」
俺たちは今、新聞部の取材を受けていた。
クッキングファイトへの参加自体がこの学校では初めての出来事だからだ。
星乃部長は面白そうだから出たいと言っていたが、参加資格を得るための料理部部長による試験をクリアできなかった。
試験は魚の三枚おろしだったり、出汁のとり方だったり、基本的なことが出来るかを見る。
星乃部長はそういう型にはまったことは嫌いで、妙な創作料理を編みだすことに面白さを見出していたタイプなので不合格となった。激辛部門があれば出場できただろうに。
もちろん俺は余裕だ。料理のステータスは現時点で700を超えていて、7周目では確実にカンストする。
よって自信はある。
「時は来た。それだけだ」
破壊王っぽく言ってみる。
こういうのは新聞部なら喜ぶだろう。
「そうですか。それでは副部長もお願いします」
冷た!
冷たい反応!
次孔さんだったら、こうはならないね!
俺よりお前の意気込みを聞きたいわ!
そんなことじゃね、新聞部の未来は明るくないよ?
「時が来ただけ、ではありません。我が料理部のみんなの力を集結させて、目標に向かって果敢に挑戦するということです」
ツッコミじゃなくて全否定されちゃった。
さすが沙羅さんだぜ。沙羅さんはこうじゃないとね。そこの新聞部、見習いなさいよ。
「一回戦はダルシム高校ですが、勝てますか」
「勝負する前から負けること考えるやつがいるかよ!」
今度は燃える闘魂ぽく言ってみる。
「副部長いかがですか」
無視!?
部長の俺を無視!?
なんかもうこいつ言葉通じねえなみたいな扱いじゃねーかよ!
ナニコラ、タココラ!
一番凄いのはプロレスなんだぞと思っていると、沙羅さんが普通に答える。
「おそらくカレー勝負になります」
やっぱり!?
ダルシム高校はやっぱりカレーなのね!?
食べると辛さでヨガファイヤーなんですね?
「まぁロトさんのカレーうどんなら圧勝です」
「そうなの!?」
カレー勝負でカレーうどん出しちゃっていいんだ?
っていうか俺が部長なのに、俺が作る料理はもう決められてるんですね?
「ロトさんのカレーうどんは、本当に美味しいですからね……」
そう言われちゃうと、文句は言えないが。
嬉しいから。
「さぞ美味しいのでしょう……食べているところの写真が欲しいですね」
新聞部め。
とはいえ気持ちはわかる。
文字だけの記事より美女が写っている記事のほうがいいに決まっている。
「実は撮ってある」
「おお」
「ロトさん!?」
俺は自分の料理を沙羅さんが食べる時はこっそり撮影するタイプ。
だって沙羅さんは美味しいものを食べてる時が、一番可愛いからね。
「これはカレーうどんを上品に啜ったけど、やっぱりカレーがハネちゃった沙羅さん」
「どう気をつけてもハネるのよ、あれは」
「これは素晴らしい写真ですね」
「わかるか」
「新聞部ですから」
なるほど、ただのぼんくらではなかったようだな。
「ではこれも見せてやろう」
「こ、これは」
「生卵をつけたすき焼きを頬張る沙羅さんだ」
「お、おお……なんかエッ……いやなんか色っぽいですね」
「ふふふ、そうだろう」
「ちょ、ちょっと?」
沙羅さんはすき焼きを食べる時はちょっとはしたないが舌で肉を迎えに行ってしまう。
生卵でてろてろになった高級な肉を、舌を出しながら恍惚とした表情であーんするこの顔。
まさにシャッターチャンスだ!
「しょうがない、これも見せてやろう」
「こ、ここここ、これは!」
「チョコバナナを食べようとする沙羅さんだ」
「うわー。うわー」
「両手で優しく持ってるところがいいだろう」
「たまりませんね」
「な、なにがたまらないんですか!」
「たまらないよね」
「たまらないですね」
名も知らぬ新聞部の男子と親友同士のように肩を抱き合う。
わかりあえる仲間がいることの喜びだ。
「わかるよな、この沙羅さんのエ……魅力が」
「わかります、エ……魅力」
「わざと言っていますね……?」
胸を隠すようにして顔を赤らめる沙羅さん。ふーむ、やはり魅力的だな……。
今まで出会った女の子の中でも、一番色気があるといって間違いないだろう。
真姫ちゃんは特大の胸を持っていたが、色気とはほど遠い。
女性らしさという点では、鞠さんだと思うが、天然ということもありセクシーな感じはあまりなかった。
「他に写真は?」
さらに写真をねだる新聞部。
ここで更に写真を見せると、沙羅さんはもっともっと色っぽくなるのかもしれない。
「しょうがない、しょうがないなぁ……これはアイスキャンデーを舐める沙羅さん」
「素晴らしいですね……」
「これはきりたんぽを頬張る沙羅さん」
「最高ですね」
「五平餅」
「五平餅!」
スパーン!
頭をしばかれた。
もちろん沙羅さんにである。
「……」
無言で睨まれる。
「ご、ごめん。ちょっと自慢したくって」
「すみません……」
新聞部も謝る。
「調子に乗りすぎです」
顔をぷいっとさせる沙羅さん。
そういうことをするからまた調子に乗ってしまうのだが……。
「ところで新聞に使っていい写真ですが、こちらのチョコバナナで」
「じろっ」
「カレーうどんにしますね」
「そうしてください」
こうしてインタビューは終了した。
じろっ、てされて羨ましいと思ってしまった。




