異世界メモリアル【7周目 第17話】
「次の料理部の部長は、お前だロト!」
「がんばります、星乃部長」
「じゃあ、我が家のクリスマスパーティーの料理も頼むな」
「はい、副部長の沙羅さんと一緒にがんばります」
12月中旬。料理部で俺は次期部長となった。
料理スキルが高いからだ。俺は望比都沙羅より料理がうまい。
部員のみんなが、部長就任を祝って拍手をしてくれる。
「ロトさんが部長なら、この部は安泰ですね」
沙羅さんのセリフは皮肉ではない。
それはステータスと親密度を確認すればわかること。
一度は義朝バクダンのせいで壊滅的状況になったが、すっかり回復していた。
沙羅さんはいまだかつて無いほど、俺のことが好き。
そして、俺はいまだかつて無いくらい、沙羅さんが好きだった。
そう。やっぱり沙羅さんのことは好きだ。
そもそもこの世界において、彼女との関係は長い。
初めて誕生日プレゼントをあげたのも沙羅さん。
初めてデートしたのも沙羅さん。
そして、初めてぱんつを見たのも沙羅さんだ。白いコットンの布地に紫の水玉。一生忘れないよ。
「沙羅さん、よろしくね」
「はい」
俺がぱんつのことを思い出していることなどつゆ知らず、微笑んでくれる沙羅さん。大事にしたい。
「クリスマスは何を作ろうか」
「そうですね、ちょっとベタかもしれませんけど、七面鳥なんかどうでしょう」
クリスマスといえばターキー。もはやこの世界でもそういう考えになっているんだな。ジャムルフの丸焼きが懐かしい。異世界感が減ってきて寂しい気もするな。
「ケーキとかね」
「そうですね。ふふ」
俺が初めてこの世界にやってきたとき、彼女はケーキを知らなかった。俺の創作料理だと思っていた。
それで一緒に作ってくれると言ってくれたんだよな。
当時は料理のステータスも低くて、容姿も低かった。
それなのに、それなのに。
「ちょ、ロトさん?」
「あ、ごめ」
泣いていた。
はじめてのクリスマスのこと。クリスマスケーキを一緒に作ったこと。あーんしてあげたこと。その後傷つけたこと。
思い出したら、涙が流れていた。
この世界で一番つらいことは、思い出を共有できないこと。
クリアしなかったら、リセットされて忘れている。
クリアしたら、もう二度と会えない。
「そんなに部長になったのが嬉しかったですか?」
「いや、沙羅さんとクリスマスを過ごせることが嬉しかったんだ」
「な。なんですか。別に一緒にパーティの準備をするだけですよ」
恥ずかしがるところが可愛いのも昔からだ。
「沙羅さんとクリスマスー! 沙羅さんとクリスマスー!」
「本当に阿呆なんですから」
皮肉を言うときは、クールな表情をする沙羅さんだが、ダイレクトに言うときは優しい表情なんだよな。
そういうところが本当に可愛いと思う。
「おまえたちは、本当にバカップルで羨ましいな!」
星乃部長に肩を叩かれる。普通はこれが皮肉だったり、もしくはいじり、呆れなどの可能性があるが、星乃部長は本気で羨ましがっている。
「ロトさんのせいでバカップルなんて言われちゃったじゃないですか」
「俺は沙羅さんとカップル認定されて嬉しいけど」
「もう、本当に阿呆なんですから」
ふふふ。楽しいが、呆れられているのは三人共だ。
料理部において俺たちは、やれやれしょうがないなこの人達は。と、そう思われている。
もちろん、星乃部長は人気者だし、好感を持って生暖かい目で見守られているが。
「沙羅さん。買い出しデートしようね」
「仕方のないロトさん」
そうして俺たちは週末に買い物にでかけて食材を買い込み、クリスマスイブ当日に星乃部長の豪邸のキッチンへやってきた。
「まあ、作っても作ってもすぐに食べ終わる。作り甲斐がありすぎますね」
そういう沙羅さんは、いつものように丁寧に編み上げた長い黒髪。
涼やかで優しい目元に、泣きぼくろが一つ。
普段と違うのは服装のみ。
クリスマスに相応しいパーティードレス、ではなく。割烹着だった。
やる気満々なのも、うなじが色っぽいのもいいことだが、やっぱりちょっと寂しい。
「沙羅さんも普通にパーティーに出たいと思わなかった?」
初めてこの世界に来たときの話ではあるが。
彼女は父親の命令で料理をやらされていると言っていた。
決して料理が好きというわけではない。
本当なら料理部じゃなくて将棋部に入りたい。
そう思っているはず。
「え? 思いませんでしたね」
意外だ。
確かに部活での沙羅さんは楽しそうにしているが、それは料理が好きというよりは星乃部長が楽しくさせているという要素が強いと思っていた。
「どうして?」
「ど、どうしてって……」
首をかしげる俺に、沙羅さんは急激に頬を赤らめ、わたわたと目線を泳がせた。
「うーん。あ、ひょっとして俺と一緒にいられるからかな」
「な! ち、違います」
「違うの? 本当に?」
「……違いません」
「そっか、そうだよね。俺のことめちゃくちゃ好きだもんね」
「~ッ」
ぽかぽかと肩を叩かれる。気持ちいい。
沙羅さんはこういうときに否定しなくなった。デレデレだ。はっきりいって最高。
「俺もめちゃくちゃ好きだよ」
「も! もうもうもう!」
ボカボカと肩を叩かれる。痛い。結構痛いが、このやりとりをやめたくない。
「沙羅さんと俺は相思相愛だから、クリスマスに一緒にいられればそれでいいんだよね。料理してようがなんだろうが、パーティードレスなんて着てなくても二人っきりでいられればそれで痛てて痛い痛い痛い痛いです! 痛い! ごめん! からかいすぎた! 待って、武器はやめて! 手に持っているすりこぎ棒をどうするつもりなの!?」
こうして楽しくクリスマスを過ごした。
ということで7周目は沙羅さんルートで確定になったのです。
タイトルを長くしたらPVが増加して嬉しいのですが、感想は増えないので寂しいです。
一度も感想書いてないなーって方は、一言でもいただけると嬉しいです。好きなキャラを書いてもらえるととっても嬉しいです。




