異世界メモリアル【7周目 第16話】
「義朝、悪かった。なんでもする、許してくれ」
「な、なんだよ」
「でも、焼き土下座は勘弁してくれ。普通の土下座ならいくらでもするから」
「な、何言ってるんだよ」
「これはけじめなんだ」
そう。
俺は義朝を攻略することにした。
なんていうことは決してない。
あくまでも、傷つけた状態を放置したことに対するけじめだ。
男は傷つけた状態でほったらかせばよい。
ラジオのネタにするためにデートをして、散々利用して、都合が悪くなったら知らぬふり。
そういう考えの人間は、誰かを好きになってはいけない。好かれる資格がない。そういう理由からだ。
義朝を傷つけたというのはもう学校中の噂になっているため、俺が義朝を裏庭に呼んだことも学校中に知れわたっている。
「けじめって何?」
「さぁ」
俺が頭を下げている今、見守っている生徒は少なくない。ちらほら声も聞こえる。
なんと新聞部も来ている。次孔さんではないけれど。
義朝は周りのことなど気にすることもなく、じっと俺を見据える。
「つまり、どういうことだ」
「なんでもするってことだ。それが俺のけじめだ」
それしかない。
詫びろ、詫びろ、詫びろ、俺~。
「なんでもするってよ」
「へえ~」
周囲からの声が耳に入ってくる。
オーディエンスの中には星乃部長や沙羅さんの姿も見える。
これは少しも躊躇しちゃ駄目だな。
義朝に誠意を見せつつ、その姿をみんなに見せなければならない。
俺が許しを乞う相手は、一人ではない。
「じゃあ、デートしてくれるんだな」
「当然だ」
「じゃあ、手をつないで歩いてくれるのか」
「当然だ」
「恋人繋ぎでもいいのか」
「当然だ」
正直なところ、女の子だったら嬉しいことだが、義朝に言われるのはキツイ。
恋人繋ぎでルンルンデートなど、想像するだにおぞましい。
しかしこれは禊のようなもの。
むしろ厳しいほうがいい。
無茶な要求を聞くほうが罪悪感が減ってよい。
とにかくなんでもすると宣言した以上、ためらっている場合ではない。
ここで「いや、それは……」とか言って躊躇した途端に、信頼感を失うことになる。
なんとしてでも、ここは成功させる。
「わかった、じゃあ仲直りのちゅーしろよ」
「ほらよ」
義朝の前髪をかきあげ、おでこにキスをした。
「「きゃあああああ」」
悲鳴、ではなく黄色い歓声があがった。
というか俺も何をやっているんだ。
ニコにでもするように、ナチュラルにやってしまった。
義朝が腰をかがめて、上目遣いでねだるような表情をするからだ。っていうかなんでそんなポーズをするのか。やめろ。俺もこの世界で生きてるのが長いからスムーズに行動してしまったじゃないか。さすが色男。
とはいえ決意が弱かったらできなかったに違いない。
ならばこれでよかったということなのか。
「しょうがねえ、今週デートしてやるよ。それで仲直りだ」
後ろに両手を組んで、覗き込むようにしながら顔を赤らめる義朝。
なんだこいつ。女子力高すぎるだろ。
実は女の子だったとかそういう訳じゃないですよね。そういうパターンあるからね。
しかし義朝は顔といい、ガタイといい、間違いなく男子。
中性的な顔立ちでもないし、よく見たら可愛いなんていうこともない。
水泳の時も普通に上半身ハダカなので、サラシで胸を巻いていましたというオチもない。
こんなオス同士のキスシーンを見て喜ぶなんてあの人くらいかと思っていたが……。
はっ。
そうだ、これだ。これだよ。
「うをおおおおおお」
これは、俺が義朝にキスするところを見たてんせーちゃんの絶叫ではない。
俺の絶叫だ。
ついに俺のラジオネームが。ついに、ついに。
そう、てんせーちゃんのラジオ、MEGAMI☆てんせーのボーイ・ミーツ・ボーイのコーナーでついに読まれたのです。
やったぜええええ!
「この人は、女子とばかり付き合って、肝心の男子を放置していたんですねー」
そうです。その肝心な男子は義朝です。間違えて女子とばかりデートしていました。その女子の中にはてんせーちゃん、あなたも含まれていますけれど。
「それを何でもするから許してくれと言ったですって。何でも! うひひひひ」
そうです。なんでもするって言いました。相手がてんせーちゃんじゃなくて良かったです。
「で、言われたのが、仲直りのちゅーしろよ、でおでこにほらよだって! やば! こいつヤバ!」
そうです。そのヤバいのは俺です。
「しょうがねえ、今週デートしてやるよだって! なにこいつ! 可愛すぎ!」
そうです。その可愛すぎるのは義朝です。
「こんなことを学校でやってるとか、すごくない!? なにこの学校!?」
その学校はあなたが通っている学校です。あの場にいなくて本当に良かったです。
「やはー、これは美味しかったですね」
てんせーちゃんは、自分好みのネタのことは美味しいと表現します。俺とは趣味が合いませんが、美味しいと言われるのは光栄です。
「そんなわけで文句なし、ノベルティをプレゼントしまーす」
ついに7周目になってからの目標となっていた、てんせーちゃんのえっちなブロマイドを手に入れた。
これで義朝とこれ以上デートすることもないだろう。
そろそろ本格的に攻略を開始することにしよう。
攻略するよりノベルティ手に入れる方が難しかった説




