異世界メモリアル【7周目 第15話】
定例で訪ねてきた妹は、もう寝る前だというのに部屋着ではなく、白いブラウスと赤いスカートだった。
これからデートでも行くのかと思うような格好です。
そんなことはお兄ちゃんが許しませんよ、と言う前に。
「ぼかーん!」
「へ?」
舞衣さんが突然弾けた。
なんか体を大の字にして、ちょっとジャンプした。なにやってんの。
「爆発してしまいました。義朝が」
「エーッ!?」
義朝って呼び捨てなの!?
いや、そこじゃない。そこはどうでもいい。
「まさか傷つけた義朝を放置してたらマジで爆発しちゃったの?」
「よくわかってるねお兄ちゃん」
いや、そうかもしれないなーと思っていたけどさ。
そういうシステムなんじゃないかなーとは思っていたんだよ。
でも、義朝は男じゃん? これはガールズサイドじゃないんだよ?
しかし、あのゲームのように爆弾が爆発したのだとするとゾッとする。
「爆発したらどうなるの」
そう。別にね。みんなの親密度が無くなるわけじゃないだろ。
だって義朝だよ?
義朝が「ロトが最近冷たいんだよ、ひどい!」と言って泣いたからといってそれが何だというのでしょう。
あのゲームとは違うだろう。
「親密度を見てみようね~」
【親密度】
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実羽 映子 [ゴキブリくらい好き]
古々路野 義朝 [泣いて焼き土下座するならアリ]
星乃 煌 [酢豚に入っているパイナップルくらい愛している]
望比都沙羅 [マヨラーくらいの存在]
来斗述 [切られ役]
画領天星 [ロト×種馬]
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「むちゃくちゃ嫌われてるー!?」
ひと目でわかる嫌われっぷりだった。
まさに爆弾爆発。
舞衣の教えてくれる親密度の表現は好かれているかどうかはわかりにくいが、嫌われてることは一目瞭然。ひどい話だ。
俺は酢豚に入っているパイナップル好きだけどな。実は星乃部長もそうだったという可能性は低そうだ。
まず間違いなく、みんな俺を嫌いになったと言っていいだろう。つらい。
「あちゃー」
ぺしんとおでこを叩く舞衣。
おかしい。
おかしいですよ舞衣さん。
なんというか、ぽんこつ過ぎる。
こんなことになるというのは、舞衣は予測できていたはず。
いくらなんでもここまで放置するだろうか。
今までなんにも言わなかった。少しもアドバイスをする素振りすらなかった。
「こうなるってわかってたよね?」
「~♪」
出た!
久しぶりに口笛出たよ。
この露骨すぎるごまかし方に為す術もないんだよなあ。
「どうすりゃいいんだ、こんなの……」
義朝に焼き土下座なんて絶対しないけど。
したからと言って他の女の子が「きゃー、義朝くんに泣いて焼き土下座するなんてロトさんのことを見直したわ! 嫌いだったけど好き!」なんてことになるわけがない。
「まあ、いいんじゃない?」
「え?」
いや、いいわけないだろ。
ギャルゲーの世界のパートナーとは思えない発言ですよ。
「みんなに好かれる必要なんてないよー」
そうかもしれんが。
「大切な誰かと一緒に幸せになればいいんだよー」
確かにそうだけれども。
二年の二学期であれば、これから誰かに絞っていけばうまく行きそうな気がする。
爆弾解除は重要だが、一度爆発したくらいならどうにかなったはず。
攻略ターゲットが欲しているステータスが十分にあれば、だが。
「ステータスはどうだったっけ」
「ん? うん。あんまり気にしないけどな……」
【ステータス】
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文系学力 289(+159)
理系学力 421(+211)
運動能力 400(+153)
容姿 505(+140)
芸術 246(+133)
料理 559(+362)
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「うーん」
いままでの恩恵があるから全体的にステータスは上がりやすいが、デートしまくっていたために休みはほとんど能力が増加しない。
だから、そこまで高いこともない。
料理を除いては……。
「まあ、悪くはないんじゃない? 男の魅力は数字じゃないと思うし」
いや、この世界は数字で魅力が表現される。
性格良ければいい。そんなの嘘だ。思いませんかどころじゃない。確実に嘘。
7周目ともなればわかりきっている。
「お兄ちゃんには数字では表せないものがあるよ。大事なのは中身だよ」
中身。中身か。
中身さえ良ければ好かれる。そんなことはない。ただ、逆はあるのだろう。
つまり、性格が悪ければ嫌われる。
爆弾を破裂させたのは、俺が悪いに違いない。
ラジオのノベルティが欲しいという理由で義朝に近づいておきながら、傷つけたとなれば放置。
そんな男に愛想をつかすのは当然じゃないか。
特に実羽さんと星乃部長だ。
あの二人から嫌われるなんて思っても見なかった。それが調子に乗っているということだ。何様だっていうんだ、俺は。
「まぁ、ほら、心機一転さ、ここには載ってない本当に好きな人をね」
「舞衣、わかったよ」
「わかってくれた!?」
「ちゃんと義朝とデートする」
「えええー!? なんでー、なんでなんでー」
妹はなぜか手足を振り回して混乱しているようだ。
しかし、俺はもうこの7周目をどうするべきなのか、いや、どうするか、もう決めた。




