異世界メモリアル【7周目 第10話】
夏休みのアルバイト。
ノベルティを手に入れる前に、てんせーちゃんに出会った。
「ふおおおおお! むぁわさか、うわさの男の娘がうちの学校の生徒だったとはあああ」
俺のしているバイト、それは女装コスプレイヤーだ。
カメラ小僧たちが有料で俺の撮影を行う撮影会が開かれている。
1年生の夏だからまだ容姿にそこまで自信がないが、そこまで見た目が悪いわけでもない。
人気はなかなかのもので、20人がぐるっと周りを囲んでいる。
言われたポーズをしながら写真を撮られるというのがお仕事だ。
このバイトを推薦した舞衣にいまさら文句などない。
死ぬほど寒い雪山に比べれば大したことないし、女装メイド喫茶でブス呼ばわりされていたことからしたらだいぶ楽しい。
容姿と芸術が向上するところもいい。
それはいいが。
「えっちなふとももしやがってー、うっひょっひょ」
この撮影会にやってきた一番変なカメラマンは、ぐるぐるメガネに青いジーンズ、チェックのネルシャツとリュックサックという古いタイプのアキバ系ファッションに身を包んだてんせーちゃんだった。
「スライディング! スライディングぅ!」
てんせーちゃんは超ローアングラーだった。
今の俺の格好はワルキューレ。ワるきゅーレではない。音楽ユニットでもない。冒険したり伝説になったりしたワルキューレだ。
盾と剣を持って構えているのに、スカートの中を撮ろうとするやつも多い。しかしながら一番ひどいのがてんせーちゃんとは。
地べたに這いつくばって、カメラを構えている芋虫のようだ。
「いいですぞ、いいですぞぉ~。タマタマがふっくらしているのがいいですぞぉ~。もっとスカートめくって! めくってぇ~」
キモい。
こんなキモオタのえっちなノベルティを欲しがっているというのか、俺は。
「いや~、正直拙者がこの前していた不知火舞より魅力的ですぞ~」
「それはないだろ! 絶対そっちの方がいいよ!」
思わずツッコんでしまった。
軽く想像するだけで胸が弾みますね。舞だけに。
「おや、それはそれは。ちょっと嬉しい」
わざとらしく頬を両手で挟んで恥じらうてんせーちゃん。そんな格好でなければ可愛かっただろうに。
「ではでは来週のコスプレコンテストに一緒にでませう」
「ええっ」
ほんとデートの誘いが多い。
「来週はですね、デートなんです」
「えー。誰とー?」
「義朝っていう男です」
「男!? そっち!? キター!?」
喜んだ。
そりゃそうだな。
ここで実はあなたのラジオのノベルティ目当てでやってるだけで、本当は違いますと言うのは簡単だが、それを言ったら二度と手に入ることはないだろう。
「じゃあ、二人で来てよ~」
うーん。
義朝が相手とはいえ、デート中に他の女の子と会うのはどうなんだろう。
腕を組んで悩む。なんでこんなことで悩まなければいけないのか、ということも含めて悩む。
するとてんせーちゃんは、両腕でふくよかな胸をぎゅっと持ち上げ、ぱちーんとウインク。
「サービスするからさっ」
「行きます」
今の俺の目の前の光景はあくまでダサいオタクの格好だが、脳内で不知火舞に変換されましたね。行かないわけがない。
翌日。
「義朝、今週のデートだけどな」
「お? どした?」
「コスプレコンテストに出ないか」
「なんだそりゃ。俺、そういうのは」
「てんせーちゃんがコスプレしてサービスしてくれるらしい」
「行こうじゃないか」
さすが義朝。思ったとおりだ。
男というのは本当に単純な生き物だ。
週末。
俺は白い柔道着。義朝は赤い柔道着だ。リュウとケンです。
「やっほー! ロトー! と、義朝くんだっけー?」
「「うおおおおおおお!」」
リュウとケンは思わずダブル昇龍拳です。
不知火てんせーちゃん、やっべー!
ぱねえー!
かわえー!
メガネのてんせーちゃんもいいが、外したてんせーちゃんもいいぞー!
「おりゃ!」
扇子を広げたー!
ボイーん。
「「うおおおおおおお!」」
リュウとケンは思わずダブル波動拳です。
「あはははは。いいねー。仲いいねー」
「え? 俺とこいつが?」
「別に普通っすよ」
「そういうところがいいんだよなあ」
何がいいんだか。
「ちょっとさ、二人さ、抱き合ってよ」
「「なんでそんなことを!」」
「だって、デートなんでしょ二人」
「「そうだけど!!」」
「息ぴったりじゃん」
確かにそうだが、どんな男でも同じ反応だと思いますよ。
「じゃあ三人で抱き合うっていうのは」
「「やりましょう」」
「息ぴったりじゃん」
どんな男でも同じ反応だと思いますよ!
「やべーどきどきしてきた」
「俺もだよ義朝」
「きゃー! そんなに二人はラブラブなのね」
「「違うよ」」
「じゃあ二人ともてんせーちゃんにラブラブなの?」
「「そうだよ」」
「きゃー! それはそれでいいかもー!」
てんせーちゃんはいつも楽しそうだ。
義朝はもちろん楽しそう。
俺も楽しい。
「あは、あったかいねー。ちょっと恥ずかしいかも新米」
「「……」」
ちょっとどころではない。
俺は右の神経を完全に遮断し、すべての神経を左に移動させる。
や、やわらけー。
きっと義朝も、てんせーちゃんの方だけに神経を集中させていることだろう。
天真爛漫な笑顔の女の子と、真剣な顔の男二人は、格闘ゲームのコスプレをしてしばらく抱き合っていた。
その日、俺たちはコスプレコンテストで優勝した。




