異世界メモリアル【7周目 第7話】
「むっすー」
おかしい。
舞衣のご機嫌がナナメだ。
「どうしたの? なんか買おうか? アイス食べる?」
「んもー! 子供扱いしないで」
ますます怒らせてしまった。
「じゃあ、可愛い服とか買う?」
「……包丁買うんでしょ」
確かに包丁を買うくらいしか金が無いのだが……。
「バイトするよ」
「わたしに可愛い服を着て欲しいからバイトするの?」
「ん? うん……」
そんなこと言うとまた怒られそうだが……。真姫ちゃんの水着を買うためにクレジットカードを使ってバイトする羽目になりバカなのかと言われたことを思い出す……。
「ふんふん。ほうほう。わたしのためにアルバイトを。可愛い服を着せたいと。ほうほう」
おや。機嫌がよくなってきた気がします。
妹の機嫌が悪いことは一番マズイですからね。
「じゃあ、買ってもらおうかな~。選んでね、可愛いやつ。えっちなのは駄目だよ」
やったー!
機嫌が治ったぞ。
バイトする羽目になったけど。
正直攻略するために必要なステータスは日常生活で十分に手に入る。
アイテムなんか、もはやいらないのだからバイトしなくていいと思っていたが、しょうがない。
「先に包丁買おうね」
「はい」
百貨店に到着した。
服の値段も覚悟しなければならなさそうだな……。
7階までエスカレーターで登る。俺はただひたすら妹の後をついていくだけだ。
舞衣と二人で買い物に来たのは、沙羅さんと星乃部長の二人から買い物に誘われて、どちらかを選ぶことが出来なかったからだ。
まさかもうデートに誘われるなんてことはまったく想定しておらず、ビビってしまったというのもあるけれど。
星乃部長は、おそらく記憶を残している。いつか攻略して欲しいと言われているんだ。だとすると、ここで承諾してしまったら彼女を選んだみたいになりかねない。
沙羅さんについては料理部を辞めただけであの悲劇が起きたというトラウマがある。目の前で他の女性を選ぶなんて俺には出来ない。
かといって沙羅さんを選ぶ勇気もなかった。
二人とも選ばない。
それが一番無難かと思ったのだが……。
「デートを断る口実に妹を使うとか、ほんとバカなんだから」
舞衣のいうとおりだった。
まさか、どちらとも傷つけるとは……。
「そうか妹か……! 沙羅くんならまだしも……くっ!」
「違いますよね、ロトさん。要するに断りづらいから妹と行くなどと。はっきりお前なんかと行きたくないとでも言ってくれれば」
そんなことを言われてしまった。超最悪の選択肢を選んでしまったっぽい。
あのあと、二人とも料理部に来なくなってしまい、俺は二人を必死で探し出し、謝り、別の日付にデートに誘い、なんとか機嫌を治してもらったというわけだ。
ただし、包丁は家で妹と同じものを使うから一緒に選びたいということにした。本当のことは言えないし。
要するに妹を選んだわけじゃなくて、二人のどちらかを選べなかっただけなんだよな。
「ふふふ。これなんか刺しやすくていいかも」
「舞衣さん!? なんで俺を包丁で刺そうとするの!?」
ご機嫌治ったんじゃなかったの!?
やっぱり先に服を買ったほうがよかったのでは!?
「冗談、冗談。その方が楽しいかなって」
「いや、そんなことしなくても、舞衣との買い物は楽しいから」
1周目の頃は超近所への買い物で、やたら事務的だったが、今や完全にお出かけショッピングだった。百貨店ですよ?
「ほんと? 楽しい?」
「そりゃもう。毎週でもいいくらい」
「そかそか。へへ」
ん~?
おかしいな、毎週こんなことしてたらバイトも出来ないし、ましてや女の子の攻略なんて出来ない。ツッコミを入れてくるかと思ったのに……今回の舞衣はどうもよくわからないな……。
わからないことでいえば、二人もわからない。
「しかしなんで二人とも出会ってすぐにデートのお誘いなんて……親密度がかなり上がってからならわかるけど」
そうなんだ。確かに相手から誘ってくることはあるけど、こんなにグイグイ来るわけがない。それこそゲームバランスがおかしくなっているのではないか。
「モテるねえ、色男」
……舞衣の言い方がちょっと気になるな。
色男……あっ!?
6周目に容姿のステータスの上限突破させたことで『色男』っていう属性が付いていた! 忘れてた!
それだったのか……これってイイことなのか?
女の子を傷つけたという噂が流れる羽目になるだけなのでは……?
「最初に買う包丁かぁ。料理部の人の方が詳しいのになあ」
買い物とはすなわち俺にとっては選択肢を選ぶだけなので、先に舞衣が三択に絞らなければならない。
百貨店はさすがの品揃えで、舞衣もいろいろな包丁を手にとって見比べている。
とはいえ1周目の世界だったらヌポンフとかバレーレとか捌かないといけないから難しかったけど、もはや簡単なのでは?
「よし、じゃあこの3つから選んでね」
1.無駄にカッコいい男子ウケのいい包丁
2.ガチ感の強い料理部ウケのいい包丁
3.ロト&マイと名入れされた妹ウケのいい包丁
……そういう選択肢なんだー。
刺身包丁とか中華包丁とかそういう選択肢だと思ってたから、驚いちゃったなー。
「説明しようか?」
すっごくわかりやすいけど、一応聞くか……。
「お願い」
「うん。1はね、まず名前がカッコいい。竜の爪。見た目は黒いけど、食材を切ると模様が浮かび上がる。カッコいい」
意外と惹かれるな……。一番無いと思っていたが……。
そもそも本来の目的でいえばこれが正しいんだよな。義朝の胃袋掴むために料理しようっていうんだから。
とりあえずカッコいい。わかった。
あと「ほら、かっこいいでしょ」って見せてくる妹はかわいい。
「2はね、普通。まぁ、あの二人が来てたら最終的にはこれを買うんじゃないのっていう感じ。ついでに料理スキルに+100の補正がある」
ついでの部分がとても重要な気がするんですけど。
見た目とかよりそっちの方が大事なんじゃないかなって思っちゃうんですけど。
あと妹の表情からすると選択肢に入れたのは自分なのに、全然おすすめしてないのが丸わかり。
「3はね。えへへ。この包丁は名入れサービスができるんだって。どうかな?」
うん。わかった、これね、選択肢になってない。これはおねだりって言うんだよ。
「3にします」
「うそ! ほんと?」
「本当です」
「やったー!」
しかしようやくわかってきた。7周目の舞衣について。
おそらく、色男属性は妹にも影響がある。そういうことですね……こりゃ大変だぞ……。




