異世界メモリアル【7周目 第3話】
習慣とは恐ろしいものだ。
もう次孔さんはいない。
それがわかっているのに、ラジオをつけてしまう。
番組が始まる前のラジオCMは聞き慣れたものだ。
リズム天国と同じ。そうであればそうであるほど、これから始まる番組がリズム天国ではないことが悲しくなってくる。
消そう……いや、でも……リズム天国だけあって天国の次孔さんが放送してくれるんじゃ……。
「何を言っているんだ俺はーッ」
ベッドでのたうち回る。
女々しい野郎すぎて、バッドエンドの曲が聞こえてきそうだ。
そんなことをしていたら開始時刻を過ぎてしまった。
若干の期待を抱いて、まくらを抱きしめる。
「はーじまりましたー! 記念すべき第一回のおん☆えあ~!」
むっ。
次孔さんではない。
次孔さんではないのだが、聞いたことがあるぞこの声。
これは……
「新進気鋭の大人気JK漫画家、てんせーちゃんのMEGAMI☆てんせー!」
てんせーちゃんだ! てんせーちゃんのラジオが始まっただと!? メガミてんせーだと!?
「このラジオは、てんせーちゃんがメインパーソナリティーをつとめますが、構成作家もつとめちゃうしディレクターもいないのでやりたい放題なラジオでーす! きゃぴっ♪」
ヤバいじゃん!?
嫌な予感しかしない。
しかし期待している自分がいる。
「オープニングトークはやっぱり時事ネタから始めたいですよね」
うん……まぁそうだけど……次孔さんもそうだったけど……。
嫌な予感しかしないんですよね。
「てんせーちゃんもそうですが、新生活が始まる出会いの季節です」
そうだね。ほんとうにそうだね。
杞憂だったかな。
「早くも気になる男子ができちゃったんじゃないですか~?」
ほう。女性リスナー向けのラジオなのかな。
いいね、微笑ましいね。
「そこの男子! ぐふふふふ。ボーイ・ミーツ・ボーイって素晴らしいですよね!」
嫌な予感、的中です。
そうだったわ、これがてんせーちゃんだったわ……。
リズム天国とはまったく違うラジオだわ、これ……。
「素敵な男子に出会った男子は、ぜひおハガキを送ってくださいね~」
ぜってー書かない。
誰が書くんだよ、そんなハガキ。
「採用されたリスナーにはノベルティとして、てんせーちゃんの描いたえっちなイラストと、てんせーちゃんのえっちな水着写真をセットでプレゼントしますよ~」
ぜってー欲しい!
書くしか無いのか!?
なんてこった……。まってろ義朝。
「さて初回だからフツオタを読んでいきますね~。普通のお便りですよ、普通のオタクじゃないですよ~」
知ってるよ。なんだよ普通のオタクって。
「ラジオネーム、ほのぼのレイプさんからのフツオタです。ありがと~ございま~す」
名前からしてすでに普通じゃない気がするんですけど。
いや深夜ラジオだからこれくらい普通なのだろうか。次孔さんがパーソナリティだったときが健全すぎたのだろうか。
「てんせーちゃん、こんばんわ。わたしもこの春から女子高生です。わー、同い年のリスナーさんですね」
普通だ。普通のお便りだ。
ラジオネームが変なだけっていうのは、よくあることかもしれない。
「中学の時に一度もレイプされなかったので、高校では絶対レイプされたいのですが、どうしたらいいでしょうか、とのことです」
来斗さんですね。絶対に来斗さんです。来斗さん以外にそんな人がいると思いたくないです。
お付き合いしたい、ならわかるんですよ。フツオタなんですよ。
これは普通じゃないんですよ。
「そうですねえ。てんせーちゃんもまだですねえ」
てんせーちゃんの受け答えは、フツオタとしては正しいかもしれないが、絶対間違ってると思うぞ。
そもそもこのハガキは読んじゃ駄目。
「レイプされやすいように、あらかじめスカートを破っておくのはどうでしょうかー?」
ろくでもないアドバイスだった。
なんで事後の格好をするんだよ。おかしいだろ。
来斗さんならやりかねないし、最悪だ。
明日すぐに会いに行こう。舞衣に変えのスカートを借りておかないと。
「続きまして、ラジオネーム、スネークさんからのフツオタです。ありがと~ございま~す」
ダンボール箱に隠れて移動しそうな名前だな。
今度こそ普通であってくれ。
「てんせーちゃん、こんばんわ。いつも漫画を楽しく使っています。使ってくれてありがと~」
使うって……そういうことだよね。深夜ラジオ……。
しかし、てんせーちゃんはエロ漫画家ではなかったはずだが……詳しく調べる必要がありそうだ。
「高校入学おめでとうございます。はい、ありがと~。それにしても制服がよく似合ってますね。登校中も下校中も可愛いけど、やっぱり体育の授業のときの体操服が一番ステキかな。ブルマ最高! それでは、これからの学園生活楽しんでくださいね、水泳の授業も楽しみですとのことです。ありがと~ございます~」
スネ――――ク! ストーカーじゃねえかよ!!
スニーキングミッションじゃなくて、ストーキングミッションをしてるぞスネークが。
てんせーちゃんものんびり喜んでる場合か!
なんてこった、とんでもないやつに目をつけられてるぞ。
「やっぱりブルマは最高ですよね~」
そうだね。転生する前は見たことなかったけど最高だよね。ってそうじゃねー!
やばいな、スネークをなんとかしないと……。
それにしても、とんでもない番組が始まってしまったもんだぜ。




