異世界メモリアル【7周目 第1話】
闇でなく黒。
風も匂いもない、広さもよくわからない空間だが、もう慣れた。
なにせ七周目だ。
「あなたはロトだね。特技『理系の心得』と『世界の基礎知識』と『運動の心得』に『美容の心得』、そして前回プレイのアイテムを引き継ぎます。また、前回でのエンディング時のステータスからボーナスをポイントを算出します」
中性的な声というのは勝手に女性に思えるものだなー。
なんてことをぼんやり思う程度に、気が抜けていた。
このゲームスタートの特典はとても重要だと思うのだが、六周目にもなるとステータスでそれほど困らなかったこともあり、今までよりは興味が薄かった。
これまではもっとステータスのことに対して必死だったのだ。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 666
理系学力 818
運動能力 673
容姿 1199
芸術 635
料理 999
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少なくとも容姿と料理が高ければ、妹からはモテる。それ以上に何があるというのか。
いや、あります。妹の好感度を上げるのは目的じゃないので。
あぶない、ときおり舞衣とイチャイチャするだけのプレイをしたくなる。俺がユーザーならそういうアペンドディスクを熱望するね。
「部活や委員会でのステータス向上が倍の早さでアップする特技『スーパースター』を取得しました」
想像以上!!
部活の効果が倍ってことは、料理部なら料理が倍速、美術部なら芸術が倍速で上がるということ。
これがあれば攻略相手が誰でも相当有利だ。
最初に攻略するべき相手だった……いや、無理かな。部活で大活躍するというのはそれほど甘くない。
「さらに、容姿のステータスの上限突破による属性『色男』を取得しました」
ステータスの上限突破で特典が!?
なんてこった、そういうのがあるなら料理も突破するようにアイテムを買ったのに。
特技と別に属性があるのか。
ガリ勉とかバッドステータスのことを思い出すが、色男なら心配はあるまい。
「初期ステータスを確認して、ボーナスポイントを振り分けてください」
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 75
理系学力 111
運動能力 163
容姿 165
芸術 15
料理 15
ボーナスポイント 100
―――――――――――――――――――――――――――――
スーパースターはステータス向上特典だけで、ポイント補正がないので前回と同じ状況だな。
しかし前回ならボーナスポイントが直接攻略相手の選択と考えたが、今回はもう部活次第だろう。
部活では向上できないステータスを上げるべき、とも思うがじゃあ入らなったらどうするんだって話だ。
料理部以外に入部した場合に舞衣が不機嫌になってしまう。まぁ、不機嫌な妹も可愛いが……。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 75
理系学力 111
運動能力 163
容姿 165
芸術 65(+50)
料理 65(+50)
―――――――――――――――――――――――――――――
これでいいでしょう。
15とかヤバいからね。
芸術15ってのはカラオケに行けばジャイアン。楽器を弾けばしずかちゃん。絵を描けばのび太というレベルだ。のび太の描いた絵、知らんけど。
料理15も地獄だ。砂糖と塩を間違えたり、料理をなぜか爆発させるキャラクターの作る料理が出来上がる。恐ろしいことに砂糖と塩は間違えていないのに、そんな味になる。
よってこのボーナスポイントの割り振りは、無難な緊急回避処置というところだ。
突然、風が吹く。
暖かな、空気。清々しい晴れの日。
桜はキレイに咲いている。ありがたい。
このスタートはいつも最高の状態なのが嬉しい。ここで土砂降りとか桜が枯れていないところはクソゲーじゃないなと思える。
とりあえず鏡を見に行くか。
「あー、やっぱブサイクだな……」
色男なんて属性があるからどうかと思ったが、やっぱりルックスはヒドイ。
まぁ、あげようと思えばすぐにあがる。
男子トイレを出ると、肩を叩かれた。
「やっ」
実羽映子さんだった。
一番最初に会うことが多い彼女だが、ひょっとしたらわざわざ会いに来ているのかもしれない。
日本からの転生者で、俺のことが好き。
6周目は大変な目にあった。うっかり何でもするなんて言ったら、一番デートしなきゃ許さないなんて言われて、攻略相手の次孔さんよりもいっぱいデートしたのだ。
いや、楽しかったけど。実羽さんとのデートは楽しいけど。
しかし契約によってデートを強制されていたわけで、タダでレンタル彼氏をしていたような気がしなくもないです。
「はじめまして」
絶対に俺のことをよく覚えている、それが伝わるはじめまして。
今回はわたしを攻略してくれるのかしら、なんてからかわれているかのような。
しかし6周目でたっぷりデートしたおかげか、実羽さんに対して多少免疫が出来た気がする。
実羽さんは本当に善人なのだが、パッと見は怖い。不良っぽさとギャルっぽさを足して二で割る感じ。
だから気遅れしがちだったのだ。実際機嫌を損ねるとすっげー怖いし。
「はじめまして」
予定調和のお約束。
お芝居のようなものだ。
次は俺から名を名乗る。
「えっと、俺はロト」
「はい。私は映子。実羽映子と言います」
前回とまったく同じセリフ。
安心する自己紹介。
と思っていた矢先。
「映子って呼んでください」
その言葉に目をみはる。
前回と違った。
いきなり名前で呼べと。
それは6周目からの続きを意味する。
次孔さんのことは最後まで律動と呼べなかったが、実羽さんのことは映子と呼んでいた。まぁ半分命令だったわけだが。
「ロト」
言葉が出ない。
表情は微笑みのまま動かない。どういうつもりかまったくわからない。
常識的に考えて、男女がはじめましての状況で下の名前で呼ぶわけがない。
真意を確かめたいが、それを確認することはできない。
おそらくこのやりとりだけでは前世の記憶が続いている決定的な証拠にはならないだろう。
ここで変に質問をしてしまうとそれが決定打になってしまうかもしれない。
前々からの記憶を共有してしまった瞬間に、俺達は7週目における攻略対象で無くなる。
「え、映子」
はじめましてでそれはちょっと、と断るのもそれはそれで言いにくい。
とりあえず流れに乗っかることにした。
なんかこう、アメリカ学園ドラマ的なフランクな感じなのかもしれない。
「ロト~、ふふ」
なんと腕を組んできた。
なんなんだ。なんなんだよ。
6周目の最後でもここまでじゃなかったぞ。
なんか変だと思うが、4周目のスタートよりはマシだ。ランドセルを背負ってることに比べたら誤差の範囲とも思える。
「教室まで一緒にいこ」
「あ、ああ」
何が何だか分からないままに、教室へ。
まさか今回、強制実羽さんルートなのか……?




