表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

213/364

異世界メモリアル【6周目 エンディング】


「手術は成功です」


良かった!

俺はドクターに全力で頭を下げる。

そして、隣にいる彼女の方を向く。


「次孔さん!」

「ロト!」


がばっと抱き合う。


「ありがとう、ありがとう、ロト」


ぎゅうっと抱きしめられる。うーん、やはり頑張ってよかった。


「あんがとな、ロト君」


次孔パパも、涙を流して感謝してくれている。

安いスーツを着て、薄い髪をきっちり整えて。

今は真面目に不動産会社で働いている。


「ロト……良かった……」


次孔さんも、目尻に涙を溜めていた。

もう一度抱きしめようかと思ったら、手術室のドアが開いた。


「ロトちゃん!」

「ハルミちゃん!」


ぎゅうううっと抱きしめられる。うーん、やっぱり頑張ってよかった!

ハルミさんは入院していたとはとても思えないくらい、元気でいい匂いがする。

良かったなぁ……俺はハルミさんの腰に手を回して、抱きしめ返す。


「ちょっと、ロト」


ぐいぐいと俺とハルミさんの間に体を割り込ませる次孔さん。

眉がつり上がって頬が紅いものの、本気で怒っている感じはしない。

ふうむ、これはいいヤキモチですね。

これはママに俺を取られてなのか、それとも俺にママを取られてなのか。

きっと両方なんだよ! かわいいですね!


「ハルミちゃん!」

「ロトちゃん!」


ハルミさんは俺の意図をわかってくれたらしい。

ものすごい勢いでニヤニヤしている。多分、俺もすっごくニヤニヤしているだろう。


「ママ! もう!」


くふふ。

怒ってるフリをしているが、嬉しそうなのがバレバレだぜ。


「は~な~れ~ろ~」


おしくらまんじゅう状態だ。

いや、俺とハルミさんで次孔さんを挟んだ幸せサンドイッチです。愛だけでで出来ている。

ずっとこうしていたい。

これが、大量の金塊で買えたなら安いものだ。

絶対離れたくないな……


「ゴホン。あーロト君。嫉妬しているのは律動(りずむ)だけじゃないんだが」


なんと次孔パパがヤキモチを焼いていた。

キレイに剃られてヒゲが無いが、癖で残っているのかやたら口の周りを撫でている。

いまさらじゃね? ハルミちゃんは今までずっと他の男と一緒でしたよ?

幸せサンドイッチがバラけて、パンのひとつが別の具の方へ近づく。


「あら……焼いてくれるんだ?」

「そりゃお前、当たり前だろ……」


おや……?

二人の様子が……?

おめでとう、ここに来て二人の関係がしんかした!

ちらちらと目線が動き、ときおり交わる感じがういういしい。

まるで新婚のようです。


「もう、女としては見てないのかと、興味ないのかと思ってた」

「バカ……オレはずっとお前しか……」


あら~。

俺が次孔さんの方を見ると、次孔さんも俺を見ていた。

ニヤリ。

ニヤリ。


「ロト、私達はお邪魔みたいだね」

「そうだな、行こうか」


俺たちの言葉に、顔を赤らめながら顔を見合わせて、手を繋ぐ二人。

やれやれ、お幸せにって感じだぜ。


「ふふふ」

「ははは」


次孔さんの笑顔に、俺も笑い返す。

左腕を掴んできた次孔さんと、病院を出る。

なんかこう、GetWildの曲がかかりそうな雰囲気だ。

今、病院の出口を一歩踏み出したところで一枚絵になって、ナレーションととともにデケデケデケデンデン♪ って流れてくるやつだよ。

なんて思ってたら脳内にいい感じの音楽が! これエンディングのやつじゃん!

アホなこと考えるからだ! ちくしょう!

待って! やだ! もうちょっとイチャイチャさせて!

アスファルトがタイヤを切りつけるのは、まだ早い!


「次孔さん!」

「ん?」


俺は強引に、桜色の薄い唇を奪った。

華奢な体を強く強く抱きしめる。

次孔さんはゆっくりと目を閉じるが、俺の目は今この時を一瞬でも見逃さないように見開いていた。

いやだ、離れたくない。別れたくない――

もう少しだけ、あと少しだけ。

柔らかく滑らかな口の中の感触が、甘い甘い感覚が、溶けていくバニラアイスのように、余韻を残して消えてゆく。

待ってくれ、ようやくハルミさんの病気が治ったばかりなんだ。

これからとびっきり楽しいイベントの回収があるはずだろ?

これが最後だなんて、いくらなんでもクソゲーすぎる。アンケートの評価を上げたければ、今すぐこのエンディングテーマを止めるんだ、神様(このゲーム)


抵抗も虚しく、いつものようにその後の人生の記憶が詰め込まれる。畜生!

大抵抗の末に始まってしまったエンディングであっても、これを見逃すなんてことは決して出来ないので集中する。


次孔さんはその後、大学を卒業して新聞記者に。ただし競馬新聞ではなく、この町のローカル新聞を作っている。ラジオで紹介していた人たちを応援するような、そんな新聞だ。よかった。

もちろん、次孔さんとは結婚した。

俺はボランティア世界一と見た目の良さ、それにこの町の有名人である次孔さんの夫という理由だからか政治家になったらしい。

ハルミさん達とは一緒に住んだ。あれから二人はラブラブで、旅行したり、犬を飼ったり。仲良し家族って感じだ。

最終的には孫の顔を見せることができた。

とはいえ、ふーん、そうなんだーという他人事感はいつもどおり。さっぱりしたものだ。


あと一週間、いやせめて一日でもと思わないでもないが、今回は満足かな、とも思う。

エンディングを迎えちゃって、あーそうなんだーっていう感じが少ないからだ。

このエンディングになったのは、俺の選択肢によるものだったという実感がある。

両親がラブラブで、二世帯住宅で。そんな結末を望んでいた。

それは俺がドナーを探して、金塊を探して、汗水たらして、ようやく成し遂げたんだ。

やはり自分の選んだ行動の結果だというのが、ゲームの醍醐味だ。まぁ、政治家になったことについては完全にへぇ~なんですが。正直、このゲームにおいては俺の職業なんてどうでもいい。

俺が目指した未来。

次孔さんの父親と母親と、次孔さんと俺が全員笑顔で一緒に暮らす。

それを達成したということがすべてだ。

清々しい。実に清々しい気持ちだ。

次もそういうプレイにしたいものだね。

それにしても次孔律動(じあなりずむ)のいない世界は、ちょっと想像つかないな……。


「うう……」


いくら満足のいく結末であっても、何度このときを繰り返しても、エンディングを迎えた時は、心臓を掴まれたように苦しく、コーヒーの粉を噛んでいるように苦い。


終わりました、6周目。次孔ルートが。(またの名を残念イケメン編)

さて、7周目を書くために、ここで言いたいことは唯一つ。


「感想をください、お願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 6周目お疲れ様でした! また1人行ってしまった…辛い かなり出番の多いキャラだったので次の周回がどうなるか全く読めませんね楽しみです。 [一言] バイトパートとアイテム購入パートが面白くて…
[良い点] 次孔は好感度下がったかと思ったけど、最後にはしっかり好きになった。
[良い点] 一人では解けない愛のパズルを抱いて、傷ついた夢を取り戻したんですね!(笑) [気になる点] リズム天国の次のパーソナリティーは義朝あたりだろうか? それとも舞衣ちゃんあたりか? ロト君が…
2020/08/12 11:30 にゃんこ聖拳
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ