異世界メモリアル【6周目 第31話】
「そんなわけで舞衣! ホスト以外でがっつり稼げるバイトを頼む!」
次孔さんのお母さんであるハルミ・次孔・レジーナさんを助けるための高額の手術代。
ゲームエンドを迎えるまでの、あと三ヶ月以内に稼ぎ出すにはどうすればいいか。
それは妹のみぞ知ることだ。
妹はここに居まし、世はすべて事もなし。
舞衣さえいれば俺は無敵だ。
俺はどうすればいい! 教えてくれ、舞衣!
妹の言う事なら、なんでも聞く。それがこの俺、ロトだ。
決まったな――。
「無いよそんなの」
え?
そんなわけがない。
「舞衣さん? よく聞こえなかった」
「無いよ」
「パードゥン?」
「だから、無いって」
な、なんだと……!?
そんな馬鹿な。
「あの、舞衣さん? そんなはずはないんじゃあないかと」
「いや、普通無理でしょ」
「普通じゃない方法なら……」
「無理だよ」
それはないだろう。いくらこの世界がクソゲーだからって、ハルミさんを救えないなんてことはないだろう。それはない。
「いやいや……そんなはずは……」
「あのさ、お兄ちゃん」
「ん?」
「そのハルミさんって、倒れただけだよね」
「んん?」
「今までもずっと病気だったけど、基本的には大丈夫なんだよね」
「おー……?」
「あと数ヶ月の命とかじゃないよね」
そ、そういえば、それはそうだな。
でもほら、エンディングを迎えちゃうじゃん?
「例えばお兄ちゃんが医学部に行って、将来医者として救うとかもありえるよね?」
な、なんだと……!?
それってつまり……本来ハルミさんはこのゲームのプレイ中で病気を治すわけじゃないってこと!?
医学部だと……!? そんなの部活で活躍しながらは難易度高くないか!?
「もちろん、野球選手とかになってすごい年俸を貰ってっていうのもありえると思うけど。将来的に」
!?
つまり、ハルミさんの病気はエンディングの後日談的なところで治すもので、高校生活三年間にすることじゃないということか?
そ、そんな……。
確かに普通はドナーも見つからないし、ハルミさんに会ったのもホストのバイトをしたからであって、真っ当にプレイしてたらこうはならないな。
「しかし舞衣さん、俺は医学部に行くことも野球選手になることも出来ないのですが」
「ホストなんかやるから……」
ホストやれって言ったの舞衣じゃないですかー!
「お金を稼ぎたいならホストがいいよって言っただけだよね」
確かに……ホストはあくまで次孔さんの父親に甲斐性を見せるためだけのことで、なにもハルミさんの手術代を稼ぐための方法ではなかった。
「でもハルミさんが……」
「そんな女の子、知らないんですけど。そんな親密度のわからない女の子なんて知らないんですけど」
つめた~い。
舞衣さん、冬の自販機のコーラよりつめた~い。
つまり。
次孔さんを攻略するのに移植手術は必要がない。将来それが出来る見込みであれば十分だった。
そういうことか。
なら……
「いや。無理だ。もう無理。ハルミさんを救いたい」
「は?」
舞衣に凍てつく波動を浴びても俺の気持ちは変わらない。
用意されているルートなんてくそくらえだ。
俺は次孔さんとのエンディングが見れればそれでいいなんて思わない。
元気なハルミさんを見るのが、あんな走馬灯みたいな一瞬でいいわけないだろう。
「俺は次孔さんと、ハルミさんと一緒にデートしたい」
「……」
「いや、さらに言えば次孔パパも一緒にみんなで競馬場行きたい」
「……本気なんだ」
「ああ。やる。なんとしても」
「……死ぬ可能性があるバイトでも、リスクが大きくても?」
「やる。それで死ぬならそれまでだ。次こそみんなで競馬場行けるようにする」
「……ロト……」
クリアすればそれでいい。
俺はそういうプレイスタイルじゃない。
「わかったよ、お兄ちゃん」
舞衣は俺の決意の固さを理解してくれたようだ。
「じゃあ、いくよ! 何が何でも稼げるバイト、舞衣ベストすり~!」
この空気の重さを吹き飛ばすように、タオル地のアニマルプリントのルームウェアでくるくると、魔法少女の変身のようなポーズの妹。うーむ、やはり舞衣さえいれば俺は無敵だ。
1.舞衣の挑戦状
2.チャンピオンシップロトランナー
3.株トレーダーロト
やばい。やばさしかない。
しかし普通には稼げないからなんでもやると言った手前、何も文句は言えない。
「一応、説明を頼む」
「いちおうってのが気になるけど、説明するね」
いやだって。
「1はねえ、特に説明しないけどうまくいけば宝の地図が手に入ります」
やっぱり!
ろくでもないし、よくわからない理由でヤクザに殺されたり、意味不明な理由で死んだりするに違いない! セスナに乗るのも怖い!
そして何より最後の最後で舞衣に「こんなゲームにまじになってどうすんの」とか言われるのが最悪だ。
「これだけは絶対にしない」
「今の説明でよくそこまで拒否するね」
「舞衣は知ってるのか、そのバイトの詳細を」
「んー。正直よくわかんない。詳しく見てもわかんない」
やっぱり!
「んじゃ2ね。これは金塊を集めるバイトです」
「やはりそうか……」
そして難易度がものすごく高いんだろう。
「3は株の取引をするバイト。仕手行為に負けずに頑張って」
「それはバイトとは言わないんだよなあ……」
最後まで聞いたけどやっぱりろくなものがなかった。
容姿の高さどころか、今あるステータスの優位性がひとつもないね。
せいぜい3がホストクラブで稼いだお金を元にできるくらいか。
「2かな」
「ん。頑張ってね」
2を選んだのは一番まともだから。
一か八かのギャンブルで手術代を稼ぐのは違う気がした。
真っ当に金を稼いでこないと、次孔さんの父親に認めてもらえない。
そんな気がしていた。




