異世界メモリアル【6周目 第25話】
「ご指名ありがとうございます! ロトです」
今夜も俺はホストだぜ。
仰々しく大げさにカッコつけても絵になるぜ。なぜならイケメンだからです。
「わー、ホントに格好いい」
「ありがとうございます! お姉さまもお美しい」
今回のお客様は30代後半くらいの綺麗なお姉さまだ。
明るそうな表情にポニーテール、真っ赤なドレスにハイヒールと派手ではあるが下品ではなく、人懐っこい印象だ。
正直、結構好みだな。
この世界はギャルゲーの世界のため、ホストクラブに来るお客様であっても見目麗しい。
とはいえ、普段は高校生として生活している俺にとってはどうしてもオバさんに思えることがほとんどだ。
しかし、このお姉さまはそうは見えない。まだ独身なんだろうか。
「かんぱ~い」
「いただきます」
ホストはとにかくシャンパンを飲む。
高い酒を飲めば飲むほど収入が上がる。不思議なものだ。
普通は汗水たらして働いて飲むものだろうに、飲むことが仕事なんてな。
「でも若いのね~。娘と同じくらいかも」
「そんなバカな、俺は赤ん坊じゃありませんよ」
「ヤダー! そんな若くみえる~?」
ばしばしと肩を叩かれる。
こういうじゃれ合いをするのは楽しい。
しかし、そうか。子供がいるのか。独身だと思ったな。
なんというか、子育てをした雰囲気がないんだよな。
所帯じみてないというか……。
おっと、変な分析をしている場合ではない。
まずは褒めて褒めて褒めちぎる。
若く見えますねの次は、子供を褒める。
自分の事より子供を褒める方が喜ぶというのが、親というものらしい。
「お姉さまの娘さんなら、さぞ美人なんでしょうね」
「ん~、どうかしら」
「可愛いんじゃないんですか?」
「うーん。最近あんまり見てないのよね」
どうやら娘さんを褒める作戦は失敗のようだ。
まぁホストクラブに来るお客さまには、家庭の事情が入り組んでいる人も多い。
あまり首を突っ込むべきではないね。
結婚指輪も嵌めていないし。
「おっと」
しゅぼっ。
あぶねー。
いつの間にか細いタバコを取り出していた。
ホストはタバコに火を付けるのが遅れたら即死のアクションゲームだ。
会話だけに集中していたら、あっという間に残機ゼロですよ。
「ふ~。そうねぇ……あの子ももうあなたと同じで、子供じゃないのよね」
紫色の煙を吐き出して、物憂げに天井を見やっている。
うーん、これはやぶ蛇覚悟で娘さんの話を聞いたほうがいいのか?
触れたほうがいいのか、触れないほうがいいのか微妙な雰囲気だが。
ここで話を変えるのも、ちょっと変だよな……。
「俺もまだ子供ですし、娘さんもまだ甘えたいんじゃないですか?」
「あはは。キミなら甘やかしてあげるんだけど」
「それはヤバいですね。駄目な大人になりそうです」
「はは……あたしは駄目な大人だわ。娘を甘やかすこともできず、自分は男に甘えてばかり」
「おっと、俺にも慰めさせてもらえるチャンスが到来ですか」
パチーン☆
「ふふっ。ふふふっ。かわいい子」
大人の微笑みだ。
少しこの人の気持ちを癒やすことが出来たなら、こんなに嬉しいことはない。
このときのためにウインクしたら星が出るようにしたのかもしれないね。
「こーんな男の子が自分の子だったら、仲良くできたかもしれないけど」
頭をがしがしと撫でられる。かっこよく整えた髪の毛が台無しだが、もちろん気分はいい。
「母親として自信がまったくないから、娘の面倒はまったく見れなかった」
俺の頭もくしゃくしゃだが、お姉さまの顔もくしゃくしゃだ。
こういう人もいる。
こういう人に優しくできるホストという職業は、素晴らしいのかもしれない。
娘さんだって、本当はあなたのことを好きだと思っているかもしれませんよ。
そう言って慰めてあげよう――
「ごめんね、律動」
なんだって?
改めて、この女性の顔を見る。
なんで気づかなかったのかと思うくらいそっくりだ。
ああ、このお姉さまが。
このお客様が。
この人が、次孔さんの母親なのか……
「どうしたの?」
何も言えずに固まってしまった俺は、返答に困った。
俺は、この人を慰める事が出来ない。
かと言って、憎むことも出来ない。
自分の感情を自分で扱いきれないのだ。
「次孔さん……」
「あら、名字教えたっけ」
やっぱり。
やっぱりそうだ。
やっぱり、次孔さんの母親も決して許せないほどの悪じゃなかった。
次孔さんのお父さんも。
ニコの父親も。
あいちゃんの両親も。
真姫ちゃんの父親も。
鞠さんのパパも。
だからこそのやりきれなさ。
なんでこの世界は、好きな人のために敵を倒させてくれないのか。
いや、そんな文句は間違っている。
「今度、店外デートしてくれませんか」
「え? ふふ、いいけど」
この目の前にいる女性を、殴ろうなんて思うわけがない。
憎むなんてとんでもない。
次孔さんにしてきたことを、許せるかどうかは別にして。
この人のことを、この人の悩みを、この人の憂いを帯びた顔を見てしまった。
俺は、俺の意志で、この人とデートする。
それが次孔さんルートに必要だから。
そういう考えもあるのだけれど。
仮に、もし。
俺がこの異世界のギャルゲーの攻略本を手に入れたとして。
そこに次孔さんの母親とのデートは、必要のないイベントだと書いてあったとしてもだ。
俺は、この人とデートする。
単純にロトくんが年上好きになったという可能性も捨てきれない




