異世界メモリアル【6周目 第24話】
金を稼ぐ。
ボランティア世界一から一番程遠い活動だ。
野球選手とかになれば稼げただろうに。
しかし、俺には武器がある。
「舞衣、俺は目指すぜ。アイドルの頂点を」
やはり容姿に勝る武器などあるまい。
俺はテレビの中でスポットライトを浴びているアイドルよりも格好いいのだ。
次孔さんからはボラドルなんて言われていたが、ここまで来たら本格的にアイドルになるしかあるまい。
アイドルをマスターするしかないでしょ。
プロデューサーとしてではなく、サイドエムとして。
歌って踊って、写真集を売る。
なんなら握手会もして、チェキも販売だ。
ガンガン稼ぐぜ! じゃりんじゃりん稼ぐぜ!
「アイドルは恋愛禁止なんだけど」
「えっ。えっ?」
ぺろぺろと棒アイスを舐めながら、雑誌をめくりつつソファーに寝そべる妹を二度見した。
「いいの? デートできなくなるけど」
「いやー、駄目ですね」
「じゃ、そういうことで」
一度もこちらを見ること無く、あっさりと会話は終了した。
嘘……だろ……。
これしかないと思ったのに……。
アイドル以外にどうやってお金を稼ぐというのだ。
「舞衣……教えてくれ……俺は、どうやって金を稼いだらいい……」
「ん」
ぽいっとバイト情報誌を放り投げられた。
「ちょっと。ちょっと、舞衣さん」
「なに」
「あのー、いつからこんなリアルな感じの妹になっちゃったの」
舞衣は舞衣であり、そんじょそこらの妹と同じでは困ります。
「舞衣はリアルな妹ですけど。ファンタジーな妹じゃないんですけど」
ふーむ。そりゃそうなんだろうが。
「いや、そういう意味じゃなく。ほら、俺の本当の妹だったらこんなに可愛いわけないだろ?」
「え!? いやいや、お兄ちゃんはほら、アイドル顔負けのイケメンじゃん。何言ってんの」
「舞衣こそ何言ってるんだ。俺の格好良さなんて、数字で計れる程度のもんだよ。舞衣みたいな心の奥底までビンビン伝わってくる本気の可愛さとは比べ物にならないだろ」
食べ終わったアイスの棒を咥えながら、妹はゆっくりとソファーから立ち上がると俺を睨んだ。
顔は真っ赤で、今にも飛びかかっていきそうな勢いだ。
「んもー。んもー!」
「な、なんだよ」
怒るようなことを言ったつもりはないのだが。
「仕方ないんだから」
仕方がない自覚はあるのだが。
「格好いい男の人が金を稼ぐといったらアイドルよりホストでしょ」
「ホスト!?」
ちょっとホストになるゲームはやったことがないです。
キャバクラ的なお店に行くゲームならやったことありますけど。
っていうか高校生がアルバイトでホストなんてあり得るの?
まぁこの世界のバイトの種類考えたら今さらだが。むしろ露骨に犯罪じゃないだけマシとも言える。
「ウインクして星を出してうぬぼれているお兄ちゃんにはもってこいの仕事でしょ」
「うぐ」
「それじゃ今夜から頑張って」
「今夜から!?」
そんなわけで。
面接は一秒で終了。
即、研修が始まって、三分で終了。
シャア専用みたいな赤さのスーツを羽織って、髪をちゃらく整えるのに三十分。
ライターでタバコに火を付ける練習に二時間を使って、本番スタートだ。
タバコを咥えた瞬間に、蓋を開けて石を回して火を付けるという単純なアクションゲームなのに超難しい。
「いらっしゃいませ!」
お客様がやってきたようだ。
「頼むぞ」
「うす」
軽く肩を叩かれた。早速登板らしい。
「ロトです。ヨロシクおねがいします☆ミ」
「ぎゃあああああああああ! がっごいいいいいいいいい!!!」
厚化粧のおばさんがのけぞった。ま、俺様の格好良さなら当然だ。
しゅぼっ
「ふう」
ふう。席に案内して、ドリンクを用意、タバコに火を付ける。
ここまでは完璧だ。
「あたいってさ」
あたい!?
いい感じに太った厚化粧のおばさんの一人称があたい!?
「あんたから見て、恋人にしたい?」
したいわけがねー。
わけがないが、ここはもちろんだと言うしか……
「それとも、妹にしたい?」
妹!?
まだ母ちゃんの方がわかるんだけど!?
「そ~れ~と~も~、雌奴隷?」
「……」
「ね、どれ?」
なんちゅー三択やねん。
こんなもん一つ目しかないやろ。アホかっちゅーねん。
コテコテの関西弁になっちゃうよ。
「もちろん、恋人です」
「あー。ないわー。寒いわー」
ええ!?
「チェンジやな」
「チェンジ!?」
俺様がチェンジ!?
容姿が千を超えている俺様が!?
「おい新人、次は頑張れよ」
くそ。
ボーイに発破かけられたぞ。
「お主がわっちを楽しませてくれるのかえ」
またしてもキャラの濃いお客様だな!
「ロ、ロトでございます」
今度は花魁みたいな服を着たアラサーだ。
ホストクラブってのは個性的な人が集まるのかな!?
キセルに火を付けるのは習ってないぞ!
「わっちの前世はなんじゃと思う?」
わかるわけがない!
「貴族の娘か、ペルシャ猫か、便所コオロギだと思うのじゃが」
また変な三択を迫られるのかよ。
絶対貴族の娘を選ばないぞ俺は。
しかし、そうか……この三択は正解を選ぶものじゃないのかもしれない。
さっき、このお客様はなんと言った?
考えろ……!
「……便所コオロギですね」
「ほお? なんでそう思うのかえ?」
「前世があまりにも美しくなかったから、神様が不憫に思って、あなたのようなとびきりの美人に生まれ変わったんですよ」
「ふふ……そうかえ」
トーン、とキセルのハイを灰皿に捨てる。かっけー。
「シャンパンを頼むぞえ」
「え? は、はい! ありがとうございます!」
「やったな、新人!」
「うっす! あざっす!」
そうか、ホストの仕事は楽しませることなのだな。恋人という答えは面白くなかったのだ。
ただイケメンならいいという仕事じゃないのね。
これが会話で選択肢を選ぶゲームだと考えれば、これこそギャルゲーかもしれない。
……ちょっと相手の年齢層が高いけど。
ロトか。それ以外か。
これから始まるホスト編にご期待ください!(嘘)




