異世界メモリアル【6周目 第22話】
「始まりました~、次孔律動の、リズム天国ぅ~!」
久しぶりだ。
「もう毎日毎日暑くて大変ですよね~。誰か助けて!」
6周目では二度目になるな。
「普通じゃあ夏の暑さはどうにもならないと思いますが、この人なら助けてくれるかも!」
次孔さんのラジオに。
「そんなわけで今週はゲストをお呼びしています、ボランティア世界大会で優勝した、我が学校の誇り! ロトさんで~す」
出演するのは。
「どうも~、ロトで~す」
「ぱちぱちぱちぱち~」
現在は夏休みが終わろうかという時期。
俺は次孔さんから、ボランティア世界大会が終わったらラジオに出演して欲しいと依頼されていた。
「毎日、次孔さんをうちわで扇いで助けたいと思います」
「さすが! 世界一のボランティア! 助かります!」
「汗だくになるまで必死で扇ぎますよ」
「うわ! 暑苦しいからやっぱりいいです!」
ディレクターとミキサーの二人の笑い声が聞こえる。ウケたらしい。やったぜ。
「さて、リスナーの皆さんはご存知ですよね、ボランティアアイドル略してボラドルのロトさんですけれど」
その言い方しているのは次孔さんだけですが。
あんまりボラドル言われたくないし。
「なんと世界大会で優勝してしまったんですよ! すごい! ですが、そもそもボランティア世界大会ってなんやねんって方も多いでしょうね」
「そうでしょうね。俺も知ったのはついこの前ですからね」
「これは毎年行われている世界大会なんですね」
「そうです」
知らなかったけどね。
「私も新聞部として、取材のために参加させてもらったんですけど結構大規模で」
「でしたね」
サッカーのスタジアムいっぱいになっていた。
「参加者はほとんど大人なんですよね」
「そうですね」
別に学校の部活で参加している人だけではない。
スポーツや楽器、絵画でも全国の学校の生徒の中でのトップに立てばいいわけだが、ボランティアについては全世界が相手だ。
「若くして世界一になるって、凄いです」
「いやはや、恐縮です」
「しかもラジオでは伝えられないのが惜しいんですけど、カッコよさも世界一なんですよね。なんせボラドルなんで」
「ははは」
「ほんと、各国の報道陣が取り囲んじゃって」
「でしたね」
優勝する前から写真を撮られまくっていた。
芸能関係のスカウトもされまくった。
「ボランティア世界一になったロトさんですが、なぜイケメンなのにボランティアをしているんでしょうか。なぜ世界大会に出ようと思ったのでしょうか。今日はたっぷりお話を聞かせてもらいます~」
「よろしくおねがいしまーす」
コマーシャルに入った。
次孔さんは、アイスティーをストローでちゅうちゅうしている。
俺は……困っていた。
なぜボランティアをしているのか。
それは前回出演時に次孔さんが言っていたとおり、汚名返上のためだ。偽善。
では、なぜ世界大会に出たのか。
それは次孔さん攻略のためである。部活で活躍することが目的でボランティアじゃなくてもよかった。
……とても言えない。
ラジオでこんなことを言ったら、ボランティア大会そのものの権威が失われるだろう。
世の中にいる真面目なボランティアをしている人にも迷惑だ。
どうすればいい……?
何の答えも出せないまま、CMが終わり、ジングルが流れる。
「はい、次孔律動の、リズム天国。今週は今年度のボランティア世界大会で優勝したロトさんがゲストに来てくれております~」
「ど、どうも」
「あれ? さっきまでノリノリだったのに今になって緊張してきちゃいました?」
「そ、そうですね。これはラジオなんだって意識しちゃいまして。さっきまでは普段次孔さんとデートしているときと同じ感じだったんですけど」
「ちょっ!?」
ん?
次孔さんが慌てふためいている。
あ、そうか。
「違うよ、次孔さん。次孔さんとのデートで緊張しないっていうわけじゃないんだよ? ちゃんと緊張してドキドキしてるよ?」
あぶねー。
デート慣れしまくってるからデートのときいつも普段どおりだと思われたらヤバいよね。
「ちょ、ちょ、ちょ~~!?」
次孔さんはわちゃわちゃしている。
これはマズイのでは?
しかしブースの外にいるディレクターやプロデューサーはニヤニヤしているだけだ。番組としては問題なさそうだ。
「ロトさん、そのデートのことは」
「え? デートのことを話す?」
「ちがっ、ちがくて」
次孔さんは、テンパリまくって、まったくパーソナリティとして機能しなくなった。
ディレクターは「デートの話して」というカンペを出している。
これは僥倖。
このままデートの話でラジオを終わらせてしまえば、ボランティアのことは有耶無耶に出来る!
「次孔さんとのデートはいつも楽しいですね! 競馬場以外の場所でもずっとはしゃいでて可愛いです!」
「ああ……はう……」
「個人的にはやっぱりプールが最高だったな! 次孔さんはスタイルがよくて、パステルカラーのビキニがポニーテールによく似合う!」
「も、もうそのへんで」
「でも、花火大会もよかったかなー。浴衣の次孔さんも可愛かったな~。もう花火ほとんど見ないで次孔さんのうなじを見てました。ポニーテールの浴衣の次孔さんのうなじ、最ッ高!」
ボランティアの話題から話を逸らすため、俺は熱弁。
逆に次孔さんはこの流れが望ましくないらしく、何か無いかとキョロキョロしている。
「ふぁ! ファックス! ファックスを読みます。えーっと、本名オーケー義朝さん。えっと、次孔さんとロトはもうチューしたんですか……はああ!?」
「そうか知りたいか、義朝。……実は今月」
「や、やめろー!」
そんな感じでドタバタしたあと、曲紹介とエンディングのコーナーでラジオは終了。
なんとかごまかしたものの、とんでもないことをしてしまったと反省したが、反響はよかったようでプロデューサーからは感謝された。
もし日本で人気女子高生パーソナリティのゲストにイケメン彼氏が出てきてデートの話してたらリスナーは暴動を起こすのではないか。私ならキレますね。
そして久しぶりに登場した義朝くんの出番はこれでいいのか。




