異世界メモリアル【6周目 第21話】
「地区大会優勝おめでとー!」
「ありがとう!」
6月に行われたボランティアの地区大会は優勝することが出来た。
公園で大量にカレーを作ってよそう炊き出しの競技と、障害者スポーツ大会の補助員の二つの競技の合計得点で争われた。
前半のカレーは、配った量では一位だったものの、味と栄養バランスで他校に敗北。
しかし後半の補助員の競技ではアンケートでダントツの評価を獲得して優勝した。
実羽さんの経験豊富で優しく丁寧な接客が評価された、というのもあるがはっきりいって俺がイケメンだからである。
アンケートにそう書いてあったから間違いない。カッコイイ人に優しくされて嬉しかったって書いてあったからね。ボランティアでも容姿は大事なんだよ!
世界大会でもガンガン使っていくぜ、このハンサムフェイスを!
「ステータスの向上もいい感じだねえ、お兄ちゃん」
【ステータス】
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文系学力 578(+271)
理系学力 739(+311)
運動能力 598(+303)
容姿 999(+0)アイテム使用時:1199
芸術 545(+307)
料理 505(+234)
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「いい感じだねえ」
そんなに頑張ってもいない。
ボランティアに必要なことを重視しているから。
この世界はオンラインロールプレイングゲームではないので、数値を上げりゃいいってもんじゃない。
ギャルゲーだ。
次孔さんを攻略するために必要な数値はすでに上回っているだろう。
あとは部活の活躍と……必須イベントだろうな。
【親密度】
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望比都沙羅 [あんみつを食べてるときの塩昆布みたいな存在]
画領天星 [ロト×ロト]
次孔律動 [運命の人か!?]
来斗述 [主人公のライバル]
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「運命の人だってさー」
「ふふふ、運命の人です」
とはいえ油断は出来ない。
なんせ彼女の攻略はどう考えても容姿で決まるものではないからだ。
ま、このまま進行すればいいだろう。
「あのさ」
「なんだい最愛の妹よ」
6周目は比較的舞衣との関係がよくなかったが、ここ最近は仲良しだ。それは精神衛生上とても有り難い。
「実羽さんとデートするのやめたら?」
「え」
デートをやめろ、と。
そんな事を言うのは初めてだ。
もっとデートしろって叱られたことはあるが。
どういうことでしょうか。
「だって、おかしいでしょ。次孔さんを攻略するのに、その相手より多くデートするってどういうこと」
舞衣が真顔で正論を言っている!
確かにおかしいです。
「親密度の表示が無いような女子とデートしても意味ないよね」
何も言えない!
まったくそのとおりなのだが……まったくそのとおりなのだ。
「時間の無駄だよね」
それは言い過ぎなんじゃないかな?
声が低い。無表情。まったく感情がない。
単に無駄なことをするなというアドバイスにしては、辛辣すぎる。
どうにも舞衣の意図がわからない。
「でもほら、ボランティア部の活躍が、次孔さん攻略に必要不可欠だと思うんだよ」
「だから?」
「だからね、実羽さんはキーパーソンというわけで」
「お兄ちゃんがデートしないと、ボランティア部を解散するって脅しているの?」
「いや、そういうわけでは……」
単になんでもするって俺が言っちゃっただけだ。
脅すなんて……あれ? 脅されてるような気もするな。
「部活は部活、デートはデートだよね」
まったく仰るとおりですが。
でもプライベートでギクシャクしてたら職場でもうまく行かないよね。
休日のゴルフも仕事のうちだと言っていた親父の気持ちが今ならわかる。
「ボランティア部の活動はする必要があるけど、デートは必要ない。そうだよね」
舞衣さん、笑顔が怖いですよ。
「すっかりきっぱり言ってやればいいんだよ、もうデートなんかしないって」
「いや、それは」
「怖いの?」
正直なところ怖い。
実羽さんを怒らせるのはヤバい。
それになんでもするって言ったけど、妹に反対されたからやっぱりやめるね。なんて言えるわけがない。
「ちょっと、その……やっぱりデートはしないといけないような気が」
「あの女、お兄ちゃんを脅してるんだ……許せない」
「ええ……」
いくらなんでもそこまで言う?
確かに、実羽さんとのデートは次孔さん攻略に不必要な行為に見えるかもしれないけど。
「でも約束しちゃったから」
「破棄しよう、そんな約束」
強い。
目つきも強い。どうしちゃったの舞衣ちゃん。
ついさっきまで和やかなムードだったじゃない。
なんでそこまで実羽さんとデートすることに反対するんだ?
無駄なことなんて、今までもさんざんやってきたじゃないか。
いや、無駄じゃない。
実羽さんとのデートが、無駄であるわけがない。
攻略することだけがすべてなのか。
俺はハイスコアを出すためとか、クリアするためだけにゲームをするタイプのゲーマーじゃないんだ。
「約束は守る」
「お兄ちゃん」
「実羽さんとデートすることはやめない」
「そう……」
きっぱり言うと、がっかりした様子で俺の部屋を出ていった。
またしばらく、精神衛生上よくない日々が始まるのか……。




