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異世界メモリアル【6周目 第20話】


『俺より善い奴に会いに行く』


ナニコレ。

ボランティア部に貼られたポスターは、上半身ハダカの男がリュックを片腕にかけて背中を向け、地平線を見ているというものだった。

本当にナニコレ。


「これがロトさんの望んでいた……ボランティア世界一決定戦のポスターだよ」

「ボランティア世界一決定戦!?」


俺が望んでいたのはコレなんですか!?

ボランティアに世界一とかあるの?


「まずは来月の地方大会で優勝しないと話にならないからね」

「地方大会もあるんだ」


この世界における国の概念は修学旅行で行くところが外国っていう感じ。

つまりこの美男美女だらけのギャルゲー世界の中で、とりあえず優勝するってことだな。

優勝、そして世界一。

それが次孔さん攻略のために必要に違いない。


「私も地方大会には参加したことあるけど、それだけだからね。優勝するには気合を入れていかないと」


シュッシュッとシャドーボクシングをする実羽さん。ボランティアですよね?

本当はストリートファイト部に入りたかったんですか?


「何から特訓しようか……なっ」


腰の入ったキレイなローキック。本当に、ボランティアですよね?

ラウンドワン始まらないですよね?


「やっぱりアレかな。着いてきて」


肩で風を切って部室を出る実羽さん。

男らしすぎて参っちゃうね。


「ぐ……ここは……」

「何やってんの、早く入って」

「……おじゃまします」


ビビりながら中に入る。


「あら、わたし達料理部もついに、ボランティアの助けが必要になったみたいね。いつの間に落ちこぼれてしまったのかしら」


やっぱり……沙羅さんが手厚くお出迎えだ。

そうじゃないんだけど、と説明しようとしたら実羽さんが沙羅さんに駆け寄る。


「沙羅ちゃ~ん」

「映子ちゃ~ん」


え? 手に手を取ってぴょんぴょん跳ねている。二人は仲良しなの?


「ボランティア部を助けてよぉ~」

「んも~、ボランティア部にボランティアしたら、うちは何部なのよ~」


めちゃくちゃ仲良しっぽい。


「そこの顔だけ男が、ボランティアで世界一になるとか言うから~」

「へえ~、そうですか。世界一の女泣かせになるのかと思ってましたわ」


ほんとに仲良いですね!?


「じゃあ、料理部に来たのはアレですか」

「そう。ロトさんを鍛えないとね」


……? なんだ?

料理部で、ボランティアのために、鍛える?

さっぱりわからん。


「ロトさん、わたし達は今まで演劇とか合奏とか、もしくは海岸掃除のようなことばっかりしてましたよね」

「うん」


ボランティアって、そういうものだろう。


「それはこの国が豊かだから、そういう活動になりますが、世界的にはマニアックな活動です」

「え? そうなの?」

「ボランティアで一番多い活動は、炊き出しですよ」


炊き出し!

そうか、それで料理部に。

沙羅さんは、俺の方を向くといたずらっぽく微笑む。


「炊き出しは大変ですよ。とにかく量です。大量の野菜を切り、大量に煮込む。何度もよそう。おにぎりだったら数時間は握りっぱなし。重労働です」


確かに……!

ある意味、格闘技よりも大変かもしれない。


「さ、じゃあロトさんは、とりあえずジャガイモの皮を向きますか。まずは200個ほど」

「にひゃ……」


俺は、ぽいっと皮むき器を渡される。


「映子ちゃ~ん、メニューどうする~? カレー? シチュー? それとも、と・ん・じ・る?」

「沙羅ちゃん、どうしよっか~。ほうとうだと麺も入ってて楽じゃない?」

「ほうとうね~。郷土料理を世界に食べさせるのも、いいかもね~」


そういう料理を食べられるのは、結構楽しみだった。

なにせ今となってはこの世界はグルメすぎて、普段から食べるものに手が込んでいる。

そりゃ、はまぐりのお吸い物も美味いけど、そういう味ばかりで飽きていた。

作ってくれる舞衣には、とても言えないけど……。

……1個剥いた。

あと199個。


「じゃ、ロトさん。かぼちゃを切るのはおまかせします」


あれ、硬いんだよなあ……。

あと198個。


「じゃ、映子ちゃん、ほうとうの麺を作りますか」

「そうだね」


小麦粉を水で溶き始めた。

この世の中は製麺所などがないので、とにかくなんでも手作りだ。

あと195個。

……しんどい。


「よ、いしょ」

「んしょ」


沙羅さんと実羽さんが、靴を脱ぎ始めた。

芋を剥く手が止まる。


「……ほいっ」

「ん……」


靴下も脱いだ。

俺はジャガイモを剥くために、腰を下ろしていた。

ですので、非常に良いアングルでした。

よっしゃあ! ジャガイモくらいいくらでも剥いたるで!


裸足になった二人は、でかいポリ袋に入った小麦粉と水を踏んで麺を作り始める。

これは……絶対に美味しいぞ!

うおおおお!

俺は剥いた。剥きまくった。


「かぼちゃまだ~?」

「あと5個でジャガイモ剥き終わるから!」

「早くしてね」


実羽さんはスパルタだ。

デートのときは、甘えまくるくせに……。


なんとかジャガイモの皮を全部剥き、硬いかぼちゃを切りまくって、大きな寸胴をかき回しまくって、ほうとうの完成。


「うぃーっす」

「腹減ったー」


出来たと思ったら、なにやら運動部の人達が大量に登場。

野球部によそい、ラグビー部によそい、アメフト部によそい、相撲部によそい……キツイ……。

これ本当に重労働だな……少し休ませてもらおうか……


「ロトっち、頑張ってるね~。ボランティア大会の特訓光景を撮るからこっち向いて~」


キリッ☆


「お腹の空いた運動部の方たちに喜んでもらえて、最高に嬉しいです」


キラーン☆ミ


「さすがっすね~。こりゃ世界一に期待大、と……」


次孔さんの取材に完璧に応えたぜ。あぶねー。

俺は運動部のためでも、誰のためでもなく、次孔さんのためにやっているんだっつーの。


結局ほうとうは一口も食べられなかった。

どんな歯ごたえだったんだろう、二人が踏んだ麺……。


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― 新着の感想 ―
[一言] むっちゃ面白い。一気読みしてしまった。
[良い点] 〉そこの顔だけの男〜(笑) 当たっているだけに反論できない(笑) まだ根に持ってる感じの実羽さん、沙羅さんよりキツイ一言を放ちますな(笑) 彼女に乾杯。そして彼女にも幸あれ。 [気になる点…
2020/05/31 10:41 にゃんこ聖拳
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