異世界メモリアル【6周目 第19話】
「ありがと」
「こちらこそ」
ホワイトデーは、もちろん次孔さんにお返しをした。
次孔さんを攻略する。
そう腹に決めたからだ。
であれば、なんとしてもエンディングを迎えなければならない。
次孔さんとは冬の間、スノボやスケートに行ったり、ゲーセンやカラオケに行って順調に親密度を上げた。
あれからは父親も出てこない。
精神的には楽だが、それはすなわちルートに入ってないということでもある。
ただステータス条件を満たして、デートしてればいいってわけじゃないんだろうなあ。
どうにも攻略に至るプロセスがわかりにくかった。
なにせ次孔さんは、出会いの条件からして部活での活躍を評価しているように思える。
これが水泳だったらわかりやすかった。大会で優勝すればいい。
美術部とかでもいい。最優秀賞とかそういうのを取ればいい。
「実羽さん、ボランティア部の頂点を極めたいんだけど」
俺は部室でそう聞いた。もう、聞くしか無い。わからん。ボランティア部で大活躍するってどういうことなの。
助けて、実羽さん。
そんな気持ちで声をかけると、こちらを向かないままに返事が。
「それがホワイトデーに言うことなの?」
その低い声に、俺は血の気が引いた。
「バレンタインデーに、手作りであんなに大きなチョコレートケーキを用意したのに?」
そうなのである。
なぜか一番豪華な本命チョコをくださったのが、すでに攻略フラグが折れた実羽さんなのである。
はっきりいって引いた。
そして、スルーした。
「あ、うん。ごめんね、ありがとう」
「は? そんだけ?」
コワイ!
メンチ切られた!
「だってさ、ほら、わかるよね?」
また来世。そういう話だったじゃない。
「あ?」
ヒエッ……なんで……
「あのー、今回のですね、プレイにおいてはですね、実羽さんは攻略しないわけでありまして、ホワイトデーにつきましてはですね、次孔さんに返したい。そういう考えでー、あります」
俺は身の潔白を表明するため、政治家のような答弁をしたわけであります。
実羽さんはスッと目を細める。少しも笑ってない。怖い。
「なるほど? つまり、キミは自分が好きな女の子と仲良くなるために、私に理解して、許容して、協力して欲しいと。バレンタインデーにあれだけわかりやすい本命チョコをくれた相手に。へ~、それはすごいボランティアだなー。それを私がしてるわけだ。私こそが世界一のボランティア部員かもしれないねー」
沙羅さんよりキツイ皮肉!!
やはり絶対に敵に回してはならない相手だったッ!
ここは重要ッ!
この場を乗り越えなければ、この6周目は無駄になる!
「俺はイケメン……俺はイケメン……」
手鏡を見て、暗示をかける。
こういうとき誰がどう見ても顔がいいというのは自信になるね。
「実羽さん……バレンタインデーは本当にありがとう。俺のことを好きでいてくれてありがとう」
優しく、そう言いながら距離を近づける。
「俺も実羽さんが好きだよ。いつか、いつか一緒に幸せになろう。幸せにしてみせる。そのためには、今は実羽さんの協力が必要なんだ」
さらり、と実羽さんの長い髪を撫でながら、顔を近づけてじっと目を見る。
彼女の目はうるみ、頬が赤くなる。
「ホワイトデーは返せなくてごめん。でも、今日じゃなかったら何でもするから。実羽さんのためなら何でもするからさ」
これでどうだ!
これで駄目なら、イケメンなんて意味がないね。
「何でもするのね」
「えっ」
「何でもするって言ったよね」
「い、言いました」
ごくり……攻めていたと思っていた俺だが、これじゃ罠にハマったみたいだ。
「じゃあ、一番多くデートをするのは私にすること」
「へっ」
「他の娘としてもいいけど、回数は一位じゃなきゃ駄目」
「あ、はい」
「やる気がなかったり、ラブラブな感じがしなかったらノーカウント」
「え、はい」
困った。
条件も困る。攻略しづらくなるから。
でも、一番困るのはこんな可愛いこと言われちゃったら、どうリアクションしていいか困る。
だから、ただ頷くことしかできない。
「ホワイトデーのお返しはデート三回だから。それで満足したら、協力してあげる」
「わかりました」
「デートの場所は任せるけど、素敵なエスコートじゃなかったらノーカウントだから」
「わかりました」
さすが乙女ゲームの世界をプレイしているだけあって、男に対する要求の仕方がすごい。
ただ、主人公っていうよりデレたときの悪役令嬢っぽいけど。
その後の週末は、実羽さん、実羽さん、次孔さん、実羽さん、実羽さん、実羽さん、次孔さんという順番でデートをしていくことに。
もうステータスには困っていないので、全週末がデートでも問題はないのだが。
実羽さんとのデートは失敗するとノーカウントになってしまうこともあり、全力でエスコートしていた。
その影響で次孔さんとのデートも大好評。デートのスキルが上がったようです。
三年生になった五月。ゴールデンウイークにもたっぷりと実羽さんとデートをし終えると、ようやくボランティア部の活動についての話になった。




