異世界メモリアル【6周目 第14話】
二年の夏休みは、デートに明け暮れることになった。
次孔さんから「お詫びに奢るから! 今はないけど、これからお金持ちになる予定だから、大丈夫!」などと言われたら一緒に競馬場についていかざるを得ない。心配だし。
「その……悪かった、ですね。……よければ、その……お弁当を作ってあげるから、外で食べないか、しら」
沙羅さんは素直になれなさすぎて妙な言葉遣いになっているから、もちろん断れない。
漫画に出てくるお嬢様キャラみたいに、三段になってる重箱のお弁当を作ってくるし、ものすごく美味しい。
山の上でする将棋っていうのも、結構楽しかった。
「いやー、ほんと、ごめんちゃい☆」
「いいよいいよ、てんせーちゃん」
「お詫びにタダで股を開くっすよ~」
「い、いいよいいよ!? てんせーちゃん!?」
「冗談っす」
「やめてよー!」
「あははは! じゃあ、海いこ?」
何がじゃあなのかわからないが、当然この流れでも断れない。
そしててんせーちゃんのビキニ姿はめちゃくちゃ可愛い。おっぱい大きいし。
あとビーチで「ぱかっ、ぱかっ」とか言いながら開脚するのも笑っちゃう。
俺の大失言である喜んで股を開くというのをネタにしたのは、てんせーちゃんだけだった。
「レイプしないの?」
「しない! 絶対にしない!」
「して欲しいのに?」
「して欲しくてもしません!」
「はぁ……自分から開くんじゃなくて無理やり開かされるのがいいのに……」
「絶対にしないからね」
「ネタフリ?」
「違うから。本当にしないから」
「はぁ~。じゃあ、しょうがない。混雑したプールに行って痴漢されよう……」
「やめて!」
こんな来斗さんのことも、当然ほっとけない。
プールに行って彼女の体を守ることになった。
これもネタだったのかな。そうだったらいいんだけど多分マジなんだよなぁ……。
そんな夏休みでしたとさ。
「よかったねー。お兄ちゃん。普通の生活になってー」
「なんか、棒読みじゃない?」
「そうかなー」
舞衣さんはなぜかテンションが低い。
定例のときはもっとサービス精神が旺盛だったはずなのに。
「ステータス確認するよ」
事務的なんだよなあ……あ、そうだ。
パチーン☆ミ
「え? 何してるの?」
「ウインクだけど」
「なんで?」
「いや、なんか元気ないのかなーって。俺のウインクで励まそうかな―って」
「ふ、ふーん。モテるだけのことはあるね」
褒められたのか?
まぁちょっと嬉しそうなので、このコマンドは成功ってことでいいか。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 307(+206)
理系学力 428(+301)
運動能力 295(+122)
容姿 999(+76)アイテム使用時:1199
芸術 238(+150)
料理 271(+101)
―――――――――――――――――――――――――――――
「運動能力があまり上がらないな。倍速で上がるはずなのに」
「運動部じゃないし運動になるバイトもしてないもんね」
「海岸清掃とか重労働なのになあ」
疲れるからといって運動能力が上がるわけでもない。世知辛い。
まぁ、ステータスのためにやっているわけではないからいいか。
「ボランティア部はあまりステータス向上のためにいい部活じゃないからね。もう目的も果たしたんだし、他の部活に変えたら?」
「えっやだよ。実羽さんに会えなくなっちゃうじゃん」
「っ……他にいっぱい可愛い女の子いるでしょ」
「実羽さんは特別なんだよ。一番俺のことをわかってくれるというか。一緒にいるだけで救われるというか」
「……それは私の役目なのに……」
「え? なんか言った?」
「親密度! 確認!」
「う、うん」
まーた機嫌が悪くなってしまった。もはやウインクする感じでもない。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
実羽 映子 [温泉旅行くらい好き]
望比都沙羅 [気の利いたお通しみたいな存在]
画領天星 [ロト×ロト]
次孔律動 [マジのイケメンか!?]
来斗述 [主人公のライバル]
―――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ~。みんな俺のこと好きなんだな~」
「キモ」
「えっ」
確かに調子に乗ってたかも知れないが、言い過ぎじゃない……?
そういう親密度を見せておいて、それはあんまりなのでは……?
「順風満帆でよかったねー。特にアドバイスすることもないねー」
冷たい。
悲しい。
「そんなこと言わないでアドバイスしてくれよー」
「必要ないでしょ」
「そんなことないよー、お願いだよー、頼むよー」
「なんでそんなに頼むの?」
「舞衣のアドバイスが欲しいんだよ」
「え?」
俺は、両手を合わせて、お願いのポーズをする。
「寂しいんだよ。つらいんだよ。舞衣が親身になっていろいろ言ってくれるのが嬉しいんだよ、最近アイテムも買いに行ってないし……」
「べ、別に毎日会ってるじゃない」
「それでも……」
それでも寂しい。
俺はもともと一人でゲームをするタイプだったけど、このギャルゲーのような世界では舞衣と一緒にプレイしている。そういう気持ちだった。
そのことが、かけがえのないことだったと思う。
ステータスを上げるための特訓は、しんどかったけど楽しかった。いまや舞衣が運動能力をアップさせる特別メニューを提示してくれることはない。
この世界も六周目ともなると質問することも少ない。ステータス異常にもならない。
でも、暗中模索してたときに手取り足取り支えてくれた舞衣がいたからやってこれたんだ。
なのに俺は、容姿を上げることに夢中になった結果、舞衣は何も言わなくなってしまった。
一人でやれば、と三くだり半を突きつけられたようでつらかった。
その寂しさを、実羽さんの優しさに甘えることでごまかしていた。
やっぱり、それじゃ駄目だ。
舞衣の代わりは、居ないんだ。
「俺は、舞衣と二人でやっていきたいんだ。こんなダメダメのお兄ちゃんは、舞衣が居ないと駄目なんだ」
「なにそれ。全然格好良くない」
ああ、うん。
これでいいんだ。
格好良いと思われて、言われて気持ちよかったけど。
舞衣にだけは、格好悪いところを見られていいんだ。
「お願いします、舞衣様っ!」
「んもう……しょうがないなぁ……」
「しょうがないんだよ、俺」
「そんなことニヤニヤしながら言わないでよ」
そっか。
ニヤニヤしてるのか、俺。
でもね、舞衣も、ニヤニヤしてるよ。




