異世界メモリアル【6周目 第13話】
人の噂もなんとやら。
そのうちなんとかなるだろう、と甘い期待をしていたが、それは打ち砕かれた。
二年生になっても、俺に対する評価は変わらない。
「あの二年の男だけは止めておいたほうがいいよ」
「格好良いだけのクズだから」
新一年生が俺を見て目をハートにしているのを見た先輩たちは、こぞって注意をしたのだ。
子羊が狼に食べられるのを黙ってみていられない、その善意によるものであれば抗議をすることも出来ないからな。
死んでリセットした方がいいのでは、とも思ったが実羽さんが嫌がるのでやめた。
実羽さんさえ、いればいい。
そんなある日、突如俺のクラスに見知った人が入ってきた。
「ロト様……じゃなかった、ロト」
「次孔さん?」
衣替えはまだだが、とっくに暑い5月下旬。
少し汗ばんだ髪を整えながら、俺の席に近づいたのは次孔律動。
ゴシップ記事のように俺を取り上げるようなことはしなかったが、やはりあの事件以来、俺を見る目はまた何かしでかすんじゃないか、と疑うようだった。
そんな彼女が訂正したとはいえ、ロト様と呼んでくれるなんて。
「今度、ラジオに出て欲しいの」
「え? リズム天国に?」
「そう、お願い」
「う、うん」
そりゃあ、リズム天国の大ファンであるから出演をお願いされて断るわけがない。むしろ普段投稿しているはがきを読んで欲しいのだが、全然読んでくれない。俺には大喜利の才能がないのかな。
「じゃあ、来週」
「うん」
今回は初めてだが、ラジオ出演は初めてではないので、録音スタジオも知っている。
ただ、俺がラジオに出る理由はひとつしかないだろう。
懺悔、その機会に違いない。
むしろ有り難いとしか言いようがないな。
「始まりました、次孔律動のリズム天国ぅ~! 今宵もお付き合いくださいね~」
放送が始まった。生放送だ。
パーソナリティの次孔さんを生で見れるのは最高だ。これから槍玉に挙げられるとしても。
「本日のゲストは、うちの学校が誇るイケメン! ロトさんで~す!」
「あ、はい、どうも」
「イケメンってところは否定しないんですね~!」
「まぁ、そうですね……そこだけは自信があるんで」
「でも本当に格好良いんですよ。ラジオだからお見せできないのが残念です!」
楽しいなー。これから何言われるかわかんないけど、ほんとに楽しいなー。
ラジオパーソナリティのバイトないかなー。
「でもロトさんをゲストにお呼びしたのは、ルックスがいいからでは、ないんですよね~」
だよな。
楽しい時間はこれで終わりだ。
どれだけ糾弾されようとも誠心誠意謝ろう。
少し深く呼吸をして、気持ちを整える。
「実はリスナーさんから、ロトさんについてのお便りがいっぱい来ているんです」
俺について……?
「ラジオネーム、シムシティよりトロピコ派さんからのお便り」
市長より島の独裁者になりたいリスナーさんのようだ。
「私は親が政治の仕事をしている関係で、たまに海岸清掃や障害者支援施設での活動に参加しています。私の場合は親の手伝いという感覚なので、慈善活動をしているという感覚はあまりありません」
BGMがかかった。優しい、ちょっと切ない曲。
「ボランティア参加者にものすごく格好良い顔の男子がいるなーと思ったので覚えていたのですが、私がいくと必ずいるんです。それで他の人に聞いたらほとんど皆勤だと。隣の市の方たちも全員知っていました。まぁ容姿が目立ちますからね」
ここで次孔さんは俺の方をちらっと見て、
「まぁ、目立ちますよね~、ここまで格好良いと」
と茶目っ気たっぷりに笑った。
俺はただ苦笑するだけだ。
それにしても、どうやらシムシティよりトロピコ派さんは女の子だったようだ。意外。
「お父様の主催したパーティーでそのことを知り合いに話すと、特に若い女の子たちはみんな知っていました。うちの町以外でもよく出没していると」
ひょっとしたら父親が市長なのかな。シムシティよりトロピコ派さんはだとすると大統領になりたいのかもしれない。国庫を私用に使わないでね。
「どうやらボランティア部の活動であるらしく、ちょっと柄の悪いヤンキーっぽい女と一緒にいることが多いらしいです。きっとその人は禊だと思いますが、イケメンは絶対に完全に善意だと思います」
うん、逆だね。
俺が禊でやってて、実羽さんは善意でやってるよ。
まぁ善行しないと死ぬからやってるけど、それでも善意だよ。
「この顔も中身も完璧な男の人の正体を知りたいので、ラジオで呼びかけてくれませんか。というのが、シムシティよりトロピコ派さんからのお便りでした」
俺は中身はクソですよ。
でも、これは俺のことだろう。
「で、その正体がロトさんだということは他のお便りで判明しています。見つかってますよ、シムシティよりトロピコ派さーん!」
ラジオだから見えないのに、手を振ってるところが可愛いな……。
「続いて、ラジオネームいわしの名探偵さん」
なぜか競艇でバトルしそうな名前だな。
「次孔の師匠、お疲れ様です! はい、お疲れ様です! 師匠は聴覚障害者のアイドルをご存知でしょうか? 手話で行う地域交流会などで、手話の仕草をするたびに見ている人があまりの格好良さにぼーっとなってしまい話の内容がさっぱりわからないという事件が多発しているんです」
ええ……手話でもちょっとした動きでキラーン☆ミとなっていることは知っていたが、まさか会話になっていなかったとは。
「わたしは手話が出来ないのですが、視覚障害者さんの間でも、顔を触っただけでわかるくらいのイケメンとして人気だったので正体がわかりました」
そう、視覚障害者の方たちはやたら顔を触りたがるんだよな……この世界はおばあちゃんでも美人だから恥ずかしいんだが。
「どうやらその方はロトという名前だということまではわかりました。でも妊娠して高校中退しそうな女とよく一緒にいるのがマイナスですね」
実羽さんを悪く言うな!!
いや、悪くないのかな。モテそうって意味かもしれない。
「その他にも、孤児院のスターとか、老人ホームに現れる謎の二枚目とか、いろいろなお便りが寄せられていました。会いに行けるアイドルを超える会いに来てくれるアイドル。しかも無償。いうなればボランティアアイドル、ボラドルですね~」
バラエティアイドルのバラドルみたいに略された瞬間に俗な感じがしますが……そんなふうに言ってもらえることは嬉しい。
苦労して努力して上げた容姿のステータスが、いろいろな人達に役に立っていることを知って救われる。
「こんなロトさんは学校でもさぞモテるんじゃないかと思うのですが……」
「いえ、まったく、そんなことはありません」
「そうなんです。こんなロトさんが学校でモテないわけがないのに、本当にモテていません。その原因は」
……来た。
ついに本題だ。
俺の失言が暴かれて、最低の人間であることがバレる。
これは公共の電波で謝罪をさせてもらえるチャンスだ。
「実は、わたし、次孔律動のせいなんです」
は!?
「学校の新聞で、彼を糾弾するような記事を書いてしまった」
「いや、いやいや、それは」
慌てる。次孔さんは悪くない。
「彼は学校の図書室で女性差別のような発言をした、それが噂になり、私はそれを記事にしてしまった」
それは、新聞部として当然のことだろう。次孔さんは何も悪くない。
「でもそれは間違いだった。ちゃんと確認すればよかった。その言葉を言われた本人は少しも傷ついていなかった。コミニュケーションのあり方は人それぞれで、二人の会話を耳にした第三者が勝手なことを言うべきじゃない。わたしはあなたを貶めるような記事を載せてしまった。ジャーナリストとしては最低だと思う。本当にごめんなさい」
待ってくれ。
そんなのやめてくれ。
悪いのは俺だ。
「次孔さんは真実を書いただけだよ……俺が悪いんだ」
「あなたが悪い人じゃない証拠は、ほら、こんなにいっぱいある」
そう言って、俺にはがきを見せる。辞書みたいな分厚さの。
みんな……。
いろいろな人の顔が浮かんだ。
「本当は随分前から来てたんだけど、私は信じなかった。学校で相手にされないからやってる偽善だと思いこんでた。ごめん。ごめんなさい」
「次孔さん……」
発言自体は本当なのに。
ラジオでそんなに机に額を擦り付ける必要なんて無いのに。
「さて、謝罪はこれでオシマイ! ロトさんのファンからのお手紙はまだまだいっぱいありますからね、時間の許す限り、読んでいきますからお付き合いくださいね~!」
ラジオパーソナリティーがあまりにも上手に回していくので、俺はその後相槌を打つだけで終わった。
次の日から、学校で俺を避ける人はいなくなった。




