異世界メモリアル【6周目 第12話】
思ったとおり、999でカンストした。
6周目だがカンストは初だ。おそらく1000を超えることはないだろうと思っていたが、これで確定したことになる。
まぁ、正直なところ容姿に関していえば俺のルックスは完璧すぎてもはやどうしようもない。
肌はこれ以上キレイにならないし、頬はこれ以上シュッとしないし、漂わせる色気だって限界がある。
足の長さもまさに理想で、これ以上長かったら気持ち悪い。
やりようがないところまで成長させても、だから何だって感じ。虚しいものだ。
随分と前から今より格好良くても意味なんかないだろうと思っていたが、まったくそのとおり。
カンストするくらい容姿を上げるくらいだったら、少しでも勉強したほうがいい。俺は正真正銘のアホだ。
容姿以外のステータスはバランス良く上げることにして、基本的にはできるだけボランティアの部活をすることにした。
善行というのは素晴らしいものだ。
感謝されることも多いが、そのことで自己嫌悪が薄らいでいく。
俺なんてクソだ、クズだ、死ねばいいのに、と思うことが無くなる。自分が誰かの役に立つなら、誰かを助けることが出来るなら、生きていてもいいんだと思える。
ただ、それでも少しだけ後ろ暗いところもあった。
ボランティア部の部室では、ストーブの上のやかんから湯気がしゅんしゅんと出ていて、ただなんとなくその様子を見ていた。
実羽さんが、そんな俺に話しかける。
「今週末も部活、でいいの? 本当に? クリスマスだよ?」
軽くウェーブのかかった茶髪をくりくりと指でいじりながら、聞いてくるのは実羽さん。
こういう態度は非常にいまどきの女子高生という感じがする。このギャルゲーの世界においては、今どきの女子高生はレアだが。
実羽さんはこれがらしいんだよな……そう言えばらしくないこともあったな。
「ぷふふ」
「ん? どしたの?」
ランドセル背負ってたときのことを思い出して、笑ってしまったとは言えない。
「いや、うん、今週も部活を頑張るよ。まだみんなに白い目で見られているしね」
「そっか。早く見直してもらえるといいね」
「そうだね……でも、なんかこれって偽善だよね。最低な噂を払拭をするため、要するに評判を良くするためにやっているわけで、困ってる人とか世の中のためとかじゃないんだもんね」
後ろ暗い気持ちの正体はこれだろう。
自分がしていることは偽善なんじゃないか。
偽善者かもしれない、と考えると自己嫌悪が悪化する。
やっぱり俺のようなゴミクズ野郎は死んだほうがいいんじゃないのかと思えてくる。
「そんなこと言ったら、私なんてそういうゲームだからやってるだけなんだけど?」
ちらり、と目だけで俺を攻める。ちょっと拗ねたような言い方。
「ごめんごめん、でも実羽さんはスゴイよ。仕方ないからやってるなんてとても思えないよ。みんなから感謝されてて、本当にスゴイ」
一緒にボランティアをしていて感じる。老人ホームのおじいちゃんおばあちゃんも、保育園の子どもたちも、保母さんも、障害者施設の方たちも、みんなみんな実羽さんのことが大好きなんだって。
「おんなじじゃん」
「え?」
「ロトもそうだよ。悪い噂を払拭したい、だけだったらあんなに一生懸命やらなくても大丈夫でしょ」
「ああ、それはほら、なんというか、ただ単に目の前にいる人をもっと喜ばせたいなって」
「ほら。それのどこが偽善なの? すっごく優しい、いい人だよ」
「いや、俺はそんなんじゃ……顔だけだよ。容姿だけが優れているバカだ」
容姿だけが優れているバカ。それはようやく理解できたことだった。
あれは失言なんかじゃなかった。
前世で、この世界に来てからも、ずっと容姿には恵まれなかった。
格好良いとちやほやされて浮かれていた、バカだ。だからあの発言は出るべくして出たんだ。
そして実羽さんはやっぱりすごい。
実羽さんはそういうゲームだからやっていると言った。
じゃあ、俺は?
俺がするべきことは、女の子を攻略することで成仏させること。本当の愛を、恋愛をすることで彼女たちを救うことだったはず。
女の子から格好良いと、ちやほやされるゲームをしているわけじゃないんだ。
本当のバカだ。
今思えば、舞衣が怒っていたのもそれが原因だろう。
彼女は俺のギャルゲー世界におけるサポートキャラクターだ。
俺が真摯にこのゲームに向き合っているのではなく、浮かれポンチだったからに違いない。この世界はファンディスクじゃないんだよ。本編なんだ。ちゃんと攻略しないといけない世界なんだ。
「私はずっと格好良いと思ってたよ」
「えっ?」
実羽さんは、いまさら、本当にいまさら、格好良いなどと。
みんながイケメンだ、イケメンだと言っていたときには言わなかったのに。
「ずっとずっと前から、格好良いよロトさんは。ルックスなんてどうでもいいよ。ロトは格好良い」
「実羽さん……」
これはギリギリのラインだ。
お互いが、今の出会いの前からもずっと記憶を残していると言ってしまったら、そこで攻略対象ではないと決定する。
そうはならない程度に、ギリギリで伝えようとしてくれるってことは。
見た目じゃないところが、格好良いと言ってくれるってことは。
そういうことだよな。
「やっぱり俺は偽善者かも知れないよ、実羽さん」
「え?」
じっと、目を見る。
他の女の子だったら、これだけで目がハートになる。
そして、今はそれをすることは許されていない。女の子と目を合わせることが犯罪というような状況だ。
そんななか、ずっとずっと前から、同じように接してくれる実羽さん。
俺は……俺は……
「俺、ボランティアサボりたい。クリスマスは、実羽さんと二人で過ごしたい」
「ロ、ロトさん……」
ようやくここで実羽さんはうっとりとしてくれた。
俺の顔じゃなくて、俺の気持ちに対してうっとりとしてくれたんだ。
「駄目かな。駄目だよな。ちゃんと良い事をし続けて、汚名を返上しないと駄目だよな。でも、でも俺……」
「いいよ。うん。サボろ? 二人で、いよう?」
舞衣にはまた怒られるかもしれないけど。
このとき、俺は救われる思いがした。
本当に女神なんじゃないかと、思えるくらいに。




